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薬包紙を折れる?
公開. 更新. 投稿者:調剤/調剤過誤.この記事は約3分11秒で読めます.
154 ビュー. カテゴリ:薬包紙を折れる?懐かしくも大切な薬剤師の所作

「薬包紙、ちゃんと折れますか?」
この問いにすぐ「はい!」と答えられる薬剤師は、どれくらいいるでしょうか。調剤の自動化や機械化が進んだ現代において、薬包紙を手で折る機会は減ってきました。それでも、薬剤師としての基本技術のひとつとして、また患者さんとの距離を縮める手仕事として、薬包紙の折り方を知っておく価値は今も確かにあります。
薬包紙とは何か?
薬包紙(やくほうし)とは、その名の通り薬を包むための紙です。かつては散剤(粉薬)や錠剤を一包ずつ包むために、薬包紙が日常的に使われていました。材質は薄手のパラフィン紙、グラシン紙、もしくは防湿性のある特殊紙が多く、適度な強度と折りやすさが特徴です。
現在はPTPシートや分包機による包装が主流ですが、粉薬を分けて手渡す必要がある時や、簡易包装として使いたいときには、今でも薬包紙が現場で活躍します。
なぜ薬包紙の折り方が必要なのか?
薬包紙をただ折って薬を包むだけ、と思うかもしれません。しかし、美しく折られた薬包紙には、いくつもの意味が込められています。
◎ 1. 薬のこぼれ防止
まず第一に、正しい折り方で包むことにより、薬が外に漏れません。特に粉薬の場合、封が甘いと患者さんのカバンの中で散乱してしまう可能性があります。
◎ 2. 清潔で安全な取り扱い
薬包紙を丁寧に折ることで、薬に直接触れずに済みます。手指の清潔が保てない場面でも、安全に薬を取り扱うために必要です。
◎ 3. 患者さんへの信頼感
見た目も重要です。端正に折られた薬包紙は、それだけで丁寧に調剤された薬という印象を与えます。薬剤師としての気配りが伝わる瞬間でもあります。
基本の「たとう折り」の手順
薬包紙の折り方にはいくつかのパターンがありますが、ここでは基本である「たとう折り」の流れを紹介します。

① 正方形の紙を対角線で谷折り(点線)
紙をひし形に置いて、下から上へ折り上げ、三角形を作ります。
② 上の辺を折り返して「ヘリ」を作る(山折り)
三角形の上辺を少し折り返して、折り目のガイドを作ります。
③ 左右の角を中心線に沿って折る(左右対称)
三角形の左右の角を中央に向けて谷折りします。
④ 手前の角を奥に折り返す(底を作る)
薬を包む底の部分を作るため、手前の角を折って四角い形に近づけます。
⑤ 背面の三角形を手前に折り込む
内側に収まるように折りたたみます。
⑥ フタを作り、折り返して完成
最後に三角形のフタ部分をパタンと倒して、全体をきれいに整えれば完成です。
■ 実際に使われる場面
● 粉薬の1回分を渡すとき
1回分の散剤をその場で小分けして渡す必要があるときなど、分包機を使わずに薬包紙で対応することがあります。
● 災害時の簡易包装
大規模災害など、機材が使えない場面では、薬包紙による簡易包装は今でも有効な手段です。紙と薬さえあれば、すぐに対応できます。
● 漢方薬の包み紙として
煎じ薬を小分けにする場合にも、薬包紙の手技は応用されます。
■ 若い薬剤師は知らない?薬包紙文化の継承
調剤がオートメーション化され、散剤の分包も機械任せとなった今、若い薬剤師が薬包紙の折り方を習う機会は減ってきました。
しかし、それでも以下のような理由から、基本的な所作として教える価値はあります。
医療災害時に役立つ「手仕事」として
実技試験対策として(実技を含む国家試験や面接)
実習先での患者対応における礼儀・作法の一環として
■ 「折れる」ことは、「考えられる」こと
薬包紙を折ることは、単に手を動かす行為ではありません。
薬の形状に合わせて折り方を工夫する
こぼれないように折り目の角度を調整する
患者さんが開けやすいようにする
…といったように、相手のことを考えること=薬剤師の基本的な姿勢が求められる所作でもあります。
■ まとめ
薬包紙を折れる薬剤師は、減ってきたかもしれません。しかし、それは「折る必要がなくなった」からではなく、「折る意味が忘れられつつある」からではないでしょうか。
あえて今、薬包紙を折る意味を見直してみる。そんな薬剤師の姿勢こそが、現場の信頼や技術の継承につながるはずです。
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