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ハルシオンとソラナックスの違いは?
公開. 更新. 投稿者:睡眠障害.この記事は約3分10秒で読めます.
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トリアゾラムとアルプラゾラム
「ハルシオンとソラナックスって、結局どっちもベンゾジアゼピン系だよね?」
「名前も似てるし、どちらも眠くなりそうだけど、どう違うの?」
薬剤師として患者からこういった質問を受けることは少なくありません。
実際に、ハルシオン(トリアゾラム)とソラナックス(アルプラゾラム)は構造的にも非常に似ており、分子レベルでは「塩素が1個ついているかどうか」という違いしかありません。
それでも、医療現場ではまったく異なる目的で処方されており、作用時間も適応も使用タイミングも異なります。この記事では、この2剤の違いを薬理学的視点から丁寧に解説し、実臨床での使い分けや注意点についてもご紹介します。
ハルシオン vs ソラナックス
まずは両者の基本情報を一覧にまとめてみます。
項目 | ハルシオン(トリアゾラム) | ソラナックス(アルプラゾラム) |
---|---|---|
薬効分類 | 超短時間作用型睡眠薬(ベンゾジアゼピン系) | 抗不安薬(中間型ベンゾジアゼピン) |
作用時間 | 約6時間以内 | 約12~24時間 |
半減期 | 約2.9時間 | 約14時間 |
適応症 | 不眠症(入眠困難) | 神経症、不安障害、パニック障害など |
主な副作用 | 健忘、眠気、依存 | 眠気、倦怠感、ふらつき、依存 |
効果の強さ | 入眠作用が速い | 抗不安効果が中心 |
構造上の違い | 塩素原子が付加 | 塩素なしの基本骨格 |
構造式の違いと代謝への影響
実はこの2つの薬、構造式だけ見ると非常に似ています。
共通して「トリアゾロベンゾジアゼピン骨格」を持っており、違いはハルシオンの方に塩素原子(Cl)が1つくっついていることです。
トリアゾラム(ハルシオン)の構造式

アルプラゾラム(ソラナックス)の構造式

この塩素原子が付加されることで、ハルシオンはより代謝されやすくなり、短時間で効果が切れるようになります。
● 塩素がもたらす代謝の違い
・塩素原子があることで薬物代謝酵素(特にCYP3A4)の標的になりやすくなる
・その結果、代謝が早まり半減期が短くなる(→短時間型)
逆に、構造中にフッ素(F)が加えられると分子構造が安定し、代謝されにくくなり長時間作用型になる傾向があります。
つまり、わずか1つの原子が薬効の時間特性に大きく影響しているのです。
用途の違い:睡眠薬と抗不安薬
〇ハルシオン(トリアゾラム)
・対象:不眠症(特に入眠困難)
・特徴:作用が速く、短時間で代謝される
・利点:翌朝に持ち越さない(持ち越し効果が少ない)
・注意点:健忘・夢遊行動・依存のリスクがある
・通常使用量:0.125~0.25mg(最大0.5mg)
「寝つきが悪い」「布団に入っても目が冴える」といった入眠困難に特化した薬です。
効果の立ち上がりが早く、夜中の覚醒や早朝覚醒には不向きです。
〇ソラナックス(アルプラゾラム)
・対象:不安障害、パニック障害、神経症など
・特徴:不安感・緊張を和らげる作用
・利点:持続時間が長めで日中の効果が安定
・注意点:眠気、倦怠感、認知機能低下、依存のリスク
・通常使用量:0.4~1.2mg/日(分2~3)
「不安で外出できない」「人前に出ると動悸がする」といった精神的な緊張に用いられます。
パニック発作の予防や、不眠の背景にある不安にも有効ですが、睡眠薬としては位置づけられていません。
薬物動態の違いと臨床での使い分け
● ハルシオンは“寝かせるため”の薬
ハルシオンは超短時間作用型で、「今すぐ寝たい」というときに有効です。
ただし、持続時間が短いため、夜中に目が覚めるタイプの不眠(中途覚醒)にはあまり向きません。
また、強い作用が急激に現れるため、一過性前向性健忘(寝る直前の記憶が飛ぶ)や、夢遊行動(ゾンビ歩き)といった副作用のリスクもあります。
● ソラナックスは“安心させるため”の薬
ソラナックスは中間型の抗不安薬で、日中の不安や緊張をなだらかに抑える目的で使用されます。
持続時間が長いため、寝る前に飲んで朝も少し作用が残っていてほしいようなケースでは、軽度の睡眠補助にも使われます。
ベンゾジアゼピン系共通の注意点
ハルシオンもソラナックスも、いずれもベンゾジアゼピン系薬物です。
この系統の薬には以下の共通のリスクがあります。
〇依存性・耐性
・長期使用で効果が弱くなり、量を増やしたくなる(耐性)
・急にやめると離脱症状(不安、不眠、発汗、震え)
〇高齢者への影響
・認知機能の低下
・転倒リスク増加(特に夜間のトイレ時)
〇他薬との相互作用
・アルコールや他の中枢抑制薬との併用で呼吸抑制のリスク
現場での処方例・使い分けのヒント
症状・目的 | 推奨薬 | 理由 |
---|---|---|
寝つきが悪い | ハルシオン | 作用が速く、入眠促進に特化 |
夜中に不安で目が覚める | ソラナックス | 持続時間が長く、不安も抑制 |
昼間の不安・緊張 | ソラナックス | 日中も穏やかに効果が続く |
一時的な時差ボケ | ハルシオン | 翌日に残らず便利 |
不安が原因の不眠 | ソラナックス+状況に応じた睡眠薬 | 抗不安+睡眠薬の併用が適切な場合も |
ハルシオンとソラナックスは、見た目の構造は似ていても、その薬理的特性・用途・臨床的価値は大きく異なります。
その違いをしっかりと理解し、症状に応じた適切な使い分けができることが、薬剤師や医師としての重要な役割です。