記事
ペリアクチンは狭窄性胃潰瘍に禁忌?
公開. 更新. 投稿者:花粉症/アレルギー.この記事は約3分8秒で読めます.
176 ビュー. カテゴリ:目次
ペリアクチンはなぜ狭窄性胃潰瘍に禁忌なのか?

胃潰瘍に使用してはいけない抗ヒスタミン薬があるのをご存知でしょうか?
それが「ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)」や「タベジール(一般名:クレマスチン)」です。どちらも第一世代の抗ヒスタミン薬に分類される古典的なアレルギー治療薬ですが、添付文書には「狭窄性胃潰瘍」などに対して禁忌の記載があります。
一方、同じ「抗ヒスタミン薬」という名前を冠していながら、H₂ブロッカー(ファモチジンなど)はむしろ胃潰瘍の治療薬として使用されており、一般の方にとっては混乱しやすいポイントでもあります。
抗ヒスタミン薬と一口に言っても…
まず、抗ヒスタミン薬には大きく2つのタイプがあります。
分類 | 標的受容体 | 主な作用 | 例 |
---|---|---|---|
H₁受容体拮抗薬 | H₁受容体 | アレルギー症状の緩和 | ペリアクチン、タベジール、ポララミンなど |
H₂受容体拮抗薬 | H₂受容体 | 胃酸分泌の抑制 | ファモチジン、ラニチジン(販売終了)、シメチジンなど |
ペリアクチンは「H₁受容体拮抗薬」であり、鼻炎や蕁麻疹、皮膚のかゆみなどに用いられます。H₂受容体拮抗薬のような「胃酸を抑える作用」は持ちません。
ペリアクチンの薬理作用
ペリアクチン(シプロヘプタジン)は以下のような作用を持っています:
・H₁受容体拮抗作用(抗アレルギー)
・抗セロトニン作用
・抗コリン作用(ムスカリン受容体遮断)
・食欲亢進作用(視床下部への影響)
この中で、問題となるのが「抗コリン作用」です。これはアトロピンやスコポラミンと同じく、副交感神経を抑制して、唾液・胃液・腸液などの分泌や、消化管運動を抑える作用です。
抗コリン作用が狭窄性胃潰瘍に悪影響を与える理由
狭窄性胃潰瘍とは、胃潰瘍が繰り返し起こることで瘢痕組織が胃の出口(幽門部など)にでき、通過障害を起こしてしまった状態を指します。
このような病態では何が起きるのか?
・胃の内容物が停滞する
・胃内圧が高まる
・胃酸の逆流や分泌亢進が誘発される
・胃粘膜への刺激が続き、潰瘍が悪化
ここにペリアクチンなどの抗コリン薬を投与すると、消化管運動がさらに抑制され、内容物の通過が悪化します。つまり、「狭窄により停滞しているところに、さらに動きを止めるような薬」を投与することになってしまうのです。
加えて、抗コリン薬には胃酸分泌を抑える作用も一部ありますが、胃内容の停滞によってむしろ胃酸の刺激時間が長くなる結果、かえって悪化する可能性もあります。
◆タベジールの禁忌との比較:
同じく抗ヒスタミン薬の「タベジール(クレマスチン)」の添付文書にも、
狭窄性消化性潰瘍又は幽門十二指腸閉塞のある患者〔抗コリン作用により消化管運動が抑制され、症状が悪化するおそれがある。〕
と明記されています。やはり共通して問題になっているのは「抗コリン作用」です。
抗コリン薬(ブスコパンなど)にはなぜ禁忌が書かれていない?
一方で、ブスコパン(ブチルスコポラミン)やチアトン(チミペロン)などの明確な抗コリン薬の添付文書には、「狭窄性胃潰瘍」という禁忌は意外にも記載されていません。
その理由は?
・ブスコパンなどは急性のけいれん性腹痛や内視鏡前の使用が中心で、短期間の頓用が多い
・長期使用を前提としない
・禁忌とまでは言えないが慎重投与として扱われるケースが多い
一方、ペリアクチンやタベジールはアレルギー治療や食欲不振への継続的な投与がされやすく、漫然と処方されがちな点からも、リスク管理の一環として禁忌とされた可能性が高いです。
食欲増進作用による影響は?
ペリアクチンには視床下部に作用して食欲を増す効果があります。これは栄養不良やがん患者の体重増加目的で期待されることもありますが、狭窄性胃潰瘍の患者にとっては、
・食べる量が増える
・胃内容物がますます停滞する
・胃酸分泌が誘発される
・潰瘍が悪化しやすくなる
という負の連鎖を引き起こしかねません。
まとめ:ペリアクチンはなぜ狭窄性胃潰瘍に禁忌なのか?
・薬理作用:抗コリン作用により消化管運動を抑制
・病態への影響:胃内容物の停滞を助長し、狭窄を悪化させる
・胃酸分泌:胃の内容物停滞が胃酸分泌を刺激しやすい
・用法背景:長期使用されやすく、慢性悪化のリスクが高い
・食欲増進作用:胃の負担を高める要因に
抗ヒスタミン薬といっても、その薬理作用は多岐にわたります。ペリアクチンのように抗コリン作用を有する薬剤は、その副作用が思わぬリスクをもたらすこともあるため、患者背景に応じた適正使用が求められます。