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前立腺を全摘したらPSAはゼロになる?
公開. 更新. 投稿者:癌/抗癌剤.この記事は約5分18秒で読めます.
5,617 ビュー. カテゴリ:PSAと前立腺
PSAとはProstate Specific Antigen=前立腺特異抗原のことで、前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパクで、前立腺がんの腫瘍マーカーです。
多くは精液中に分泌され、精液のゲル化に関係しています。
前立腺の腺細胞から前立腺の腺腔内に分泌され、精液の中に混じって精液をさらさらにする作用があるといわれています。
血液検査で測るPSAは、本来は腺腔内に分泌されるものが血液中に漏れ出たものです。
血液中に漏れ出た状態になると測定値が高くなるわけです。
PSAは健康な人でも前立腺から血液中に少しずつ溶け出していますが、前立腺に癌が発生すると大量に血液中に流れ出すため、PSAの量を測定することで前立腺癌の可能性をみつけることができます。
前立腺摘出とPSA
前立腺を全摘すれば、PSAはゼロになると思いがちですが、前立腺を全摘しても放射線治療をしても、PSAがゼロにはならないという人もいます。
理論上、PSAは前立腺だけでつくられるタンパク質なので、手術で前立腺を全摘した場合は、PSA値は0になる。
解剖学的には男性尿道粘膜の一部、直腸粘膜の一部にPSA産生能がある事が知られています。通常これらから分泌されるPSAは測定限界以下とされており、血液検査で検出される事は無いと理解されていますが、詳しい事は判っていません。
実際には、術後の患者さんでもPSAが 0.1程度で 5年6年と横這いの患者さんは少なからず居る。ずっと横這いのPSAを再発と定義すべきではないと考えられています。
ところがPSAが 0.4を超えるとその後は上昇の一途であるという複数のデータや、場合によっては 0.2で分けても同様にその後は上昇の一途であるとのデータが示された事が、再発の定義の一つの根拠です。
また再発後の治療の面から考えると、再発後の治療の一つに放射線療法があります。術後PSAの上昇を待たないで放射線を実施した場合と、PSAの上昇を待ってから放射線治療をした場合の比較試験は実施されており、術後PSAの上昇を伴わない(術後のPSAが 0.4以下の)状況での放射線治療にはメリットが無い事も判っています。
手術でがんを含む前立腺を取っても、周囲の組織に目に見えない微小ながんが残るなどして再発するとみられる。PSA値が上昇しても、画像診断などでがんの再発や転移が確認されるまでは8年ほどかかるという。
前立腺を摘出しても前立腺の周囲の組織に癌細胞が残っている可能性がある。
前立腺が無いのに前立腺癌。
画像で確認できるようになるまでには時間がかかるので、摘出後も抗癌剤の使用を続ける必要がある。
ちなみに女性には前立腺はありませんが、前立腺のようなもの、スキーン腺(小前庭腺)というものがあり、女性でもPSAはゼロではないらしい。
PSAの基準値
一般的に、正常値は4ng/mL以下とされています。
しかし、4ng/mL以下でも前立腺癌であることはあり、逆に4ng/mL以上でも前立腺癌ではないことも多いです。
具体的には、PSA値が4~10ng/mLであれば前立腺癌の可能性が10~20%、10ng/mL以上であれば約70%といわれています。
健康な人のPSAはおおよそ2ng/mL以下です。
加齢にともなって増えていきますが、50歳でも4ng/mL以下が標準値とされています。
年齢によっても正常値は違います。
PSA値は加齢によって上昇します。年齢階層別PSAとは、年齢毎にPSAの基準値を定めたものです。
50~64歳は3.0ng/mL以下、65~69歳では3.5ng/mL以下、70歳以上は4.0ng/mL以下が正常値として推奨されています。
PSAの変動で、がんの進行具合を判断できるのか?
病期の進行で陽性率が、腫瘍の量で測定値が上昇すると考えられます。
前立腺がんでは、病期の進行に伴って、マーカーの陽性率が上昇します。
また、測定値も腫瘍の量に相関して上昇すると考えられます。
したがって、一般的には病期の進行とPSAの変動の程度は相関があるといえます。
特に、10ng/mL以上の数値が認められた場合、進行性の前立腺がんが強く疑われますので、早急に精密検査を受けることをお勧めします。
PSAの目標値
一般的には、前立腺を全部摘出した後に、PSA値が0.2を超えたら、どこかに前立腺がんの細胞があるとみなし、その後の治療方針について医師と相談をするよう勧められます(PSA再発と呼ばれます)。
前立腺を全摘した患者さんで、かなりPSAの変動を気にする患者さんがいますが、一喜一憂するのも精神的にノイローゼ状態になります。気にし過ぎないように。
PSA
血清前立腺特異抗原(PSA)測定は、前立腺癌の診断感度が高い検査であり、前立腺癌を診断するためには必須の検査です。
血清PSA値は前立腺体積と正の関連性があり、また、前立腺肥大症の進行や症状の発現などと関連しています。
そのため、前立腺癌との鑑別や前立腺体積の推定に有用であり、前立腺肥大症の基本評価として測定されることが推奨されています。
【基準値】4.0ng/mL以下
【留意点】
・前立腺肥大症では軽度上昇がみられるが、特異度は低い為、PSA値だけでは前立腺癌との鑑別はできない
・5α還元酵素阻害剤、抗アンドロゲン薬の投与により、血清PSA低値を示すため、これらの薬剤を投与した場合は、実測値の2倍値を目安に評価する
・血清PSA値を低下させる薬剤を服用中に、血清PSA値が低値であっても持続的に上昇する症例は、前立腺癌や服薬不順守を疑う必要がある
アンチアンドロゲン除去症候群
前立腺癌では抗男性ホルモン剤が使われます。
しかし思ったようにPSAが低下しなかったり、一旦PSAが下がっても再燃することはしばしばあります。
アンチアンドロゲン交替療法とは抗男性ホルモン剤を第1選択薬のカソデックスから第2選択薬オダインに変更する方法です。
それでも下がらない場合、思い切って薬を中止する場合があります。
中止によって不思議とPSAが低下する場合があります。これをアンチアンドロゲン除去症候群といいます。
はじめは男性ホルモンと男性ホルモン受容体との結合を阻止していた薬剤ががんの性格が変化したために抗男性ホルモン剤が男性ホルモン受容体を刺激し、がんの進行の原因となってしまう為のようです。
アボルブでPSAは下がる?
アボルブを使うとPSAが下がるらしい。
アボルブの添付文書には以下のように書かれている。
PSA値は、前立腺癌のスクリーニングにおける重要な指標である。一般に、PSA値が基準値(通常、4.0ng/mL)以上の場合には、更なる評価が必要となり、前立腺生検の実施を考慮に入れる必要がある。なお、本剤投与中の患者で、本剤投与前のPSA値が基準値未満であっても、前立腺癌の診断を除外しないように注意すること。
本剤は、前立腺癌の存在下であっても、投与6ヵ月後にPSA値を約50%減少させる。したがって、本剤を6ヵ月以上投与している患者のPSA値を評価する際には、測定値を2倍した値を目安として基準値と比較すること。なお、PSA値は、本剤投与中止後6ヵ月以内に本剤投与開始前の値に戻る。
プロペシアにも同様のことが書かれている。
PSA値が下がったからといって、前立腺癌のリスクまで下がったわけではない。
アボルブやプロペシアを服用している患者ではPSA値を2倍にして計算する必要がある。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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