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葛根湯は風邪薬?
公開. 更新. 投稿者:漢方薬/生薬.この記事は約3分18秒で読めます.
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葛根湯は風邪薬?肩こり・頭痛にも使われる理由と誤解

「葛根湯って風邪薬ですよね?」
薬局やドラッグストアでよく聞かれる質問です。確かに、葛根湯(かっこんとう)は「風邪に効く漢方薬」としてのイメージが強く、医師からも「風邪っぽかったら早めに葛根湯を」と言われることがあります。しかし、葛根湯は風邪薬だけではないのです。
現場では、肩こりや頭痛など風邪以外の症状に対して長期間処方されるケースもあり、「風邪薬のイメージ」で質問すると誤解を生むことも。たとえば、30日分処方されている葛根湯を見て「風邪ですか?」と聞けば、「違いますけど……」と不信感を持たれてしまう可能性も。
葛根湯の基本:風邪に効く漢方薬というイメージ
葛根湯は、漢方における代表的な急性期の風邪薬として知られています。
・特に悪寒(ゾクゾク)や頭痛、発熱の初期に用いられる
・汗が出ない「無汗タイプ」の風邪に適している
・体力中等度以上の人が対象
漢方では、風邪は「風邪(ふうじゃ)」と呼ばれ、風(ふう)という外部の邪気が体に入ることで起こるとされます。葛根湯はこの風邪を追い払うことで、早期に風邪を改善しようとする薬です。
なお、葛根湯は1日2〜3回の服用で、1〜2回飲んだだけでも効果を感じやすい即効性のある漢方薬です。
実は多い肩こり・頭痛への使用
葛根湯の主成分である「葛根(かっこん)」には、首や肩の筋肉のこわばりを緩める作用があります。そのため、肩こりや緊張型頭痛にも効果的です。
・肩や首のコリを伴う緊張型頭痛
・スマホ・パソコンによる眼精疲労に伴う頭痛
・慢性的な肩こり
こうした場合には、風邪の時のように短期ではなく、数週間〜1ヶ月程度の長期処方になることが一般的です。
▼注意点:日数で判断しよう
葛根湯が30日分処方されていれば、風邪ではなく肩こりや頭痛の治療と考えるのが自然です。
「風邪ですか?」という質問は避け、むしろ「肩こりなどで処方されていますか?」といった配慮が必要です。
漢方的視点:葛根湯の証とは?
漢方で薬を使う際の「証(しょう)」は、体質や病状の傾向を示す概念です。
葛根湯は、
・実証と虚証の中間(やや実より)
・汗が出ず、寒気がある状態
・首・肩のこわばりを伴う
といった症状に向いています。
風邪で使う場合も、葛根湯は発汗を促して熱を下げる薬なので、西洋薬の解熱鎮痛薬と併用するのは原則避けた方が良いとされています。
緊張型頭痛への使い方
頭痛のうち、慢性的に起こる緊張型頭痛では、
・首や肩のこり
・精神的ストレス
・姿勢不良
などが原因とされます。こうした場合にも、葛根湯は「筋肉のこわばりをほぐす」「血流を良くする」といった効果で、一時的な鎮痛薬よりも根本的な改善が期待できます。
ただし、慢性化している場合は葛根湯だけでは不十分なケースもあり、独活葛根湯(どっかつかっこんとう)などの別処方が使われることもあります。
葛根湯はヤブ医者の薬?落語に登場する葛根湯医者
「葛根湯医者」という言葉があります。これは落語でよく語られる話で、
どんな症状の患者にも葛根湯を出して済ませる藪医者の話
として登場します。
しかし、逆に言えば葛根湯はそれだけ幅広い症状に応用が利く漢方薬でもあり、状況に応じて使いこなせば名医の証とも言えます。
漢方薬は構成生薬が多く、多角的に作用するため、ひとつの処方でも対応できる病態が多いのです。
独活葛根湯との違い:さらに肩こりに特化?
独活葛根湯(どっかつかっこんとう)は、
・葛根湯に「独活(ウド)」や「地黄」などが加わった処方
・筋肉のこわばりだけでなく、関節痛や神経痛にも応用
・特に高齢者の肩こり・腰痛・関節痛に使われやすい
漢方の世界では、こうした「派生型処方」が数多く存在し、体質や症状の細かな違いに応じて調整されます。
まとめ:葛根湯=風邪薬ではない
葛根湯は風邪の初期に使われる漢方薬として有名ですが、
・肩こりや緊張型頭痛
・首・肩の筋肉のこわばり
・ストレスによる軽い頭痛
など、非風邪症状に対しても広く使われている薬です。
そのため、処方日数や患者の訴えをしっかり確認し、「風邪薬のつもりで接する」と誤解されかねません。薬剤師としては、
「風邪ですか?」ではなく「肩こりなどで処方されていますか?」
といった、用途を限定しない聞き方が信頼を得るポイントになります。
葛根湯を「風邪薬」と決めつけず、その幅広い適応に目を向けることが、漢方薬を正しく理解する第一歩です。