2025年6月25日更新.2,507記事.

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テオフィリンを喘息様気管支炎に使っちゃダメ?

テオドールは喘息様気管支炎に使ってはいけないのか?

テオドール(一般名:テオフィリン)は、呼吸器疾患における気管支拡張薬として広く使われてきた薬です。適応としては「気管支喘息」「喘息性(様)気管支炎」「慢性気管支炎」「肺気腫」などが挙げられており、喘息様気管支炎も対象に含まれます。

しかし、添付文書には注意書きがあります。

喘息性(様)気管支炎:発熱を伴うことが多く、他の治療薬による治療の優先を考慮すること(テオフィリン投与中に発現した痙攣の報告は、発熱した乳幼児に多い)。

つまり、特に乳幼児などの小児では、発熱を伴う感染症性の呼吸器疾患に対してテオドールを安易に使用すると、副作用リスクが高くなるおそれがあるというわけです。

風邪と喘息の区別の難しさ

小児においては、「風邪」と「喘息」の区別が非常に難しいという問題があります。通常、喘息の症状にはヒューヒュー・ゼイゼイといった喘鳴がみられますが、気管支が細い子どもは、単なる風邪でも痰が詰まることで喘鳴を起こすことがあります。そのため、医師は「喘息様気管支炎」という中間的な診断名を用いて経過観察することがよくあります。

喘息様気管支炎は、アレルギー性の気管支喘息とは異なり、ウイルスや細菌などの感染が主な原因です。そのため、治療も必ずしも喘息と同じにはなりません。一般的には気管支拡張薬、去痰薬、抗ロイコトリエン薬などが使用されますが、症状が類似しているため、両者の治療法が重なることもあります。

また、喘息様気管支炎を繰り返す子どもの約10〜30%は、将来的に気管支喘息へと移行するとも言われています。

気管支喘息と慢性気管支炎の違い

大人の場合、気管支喘息と慢性気管支炎の違いも重要です。喘息はアレルギー性の炎症が原因で、主に好酸球という白血球が関与します。一方、慢性気管支炎は、タバコや大気汚染などの環境因子によって長年かけて進行し、好中球という別の種類の白血球が中心となる炎症です。

慢性気管支炎の診断基準としては、「咳と痰が2年以上にわたって、毎年少なくとも3ヶ月以上続いていること」が用いられ、肺結核や気管支拡張症、喘息などの他疾患によらない場合に診断されます。

痰を顕微鏡で調べると、喘息では好酸球、慢性気管支炎では好中球が多く見られ、病態の違いが明確になります。

テオフィリンと痙攣リスク

テオフィリンは効果が強く、長年使われてきた薬ですが、血中濃度のわずかな変化でも副作用が出やすい特徴があります。特に発熱時には代謝が変化するため、血中濃度が上昇しやすくなります。その結果、まれに痙攣などの重篤な副作用が生じることがあります。

小児では体内での薬の処理能力に個人差が大きく、熱が出たときは一時的に服用を中止することが推奨されます。吸入ステロイドの使用が一般的になった現在では、テオフィリンの使用は減少傾向にありますが、吸入が難しい幼児などには今なお選択されることがあります。

適切な使用と患者への説明の重要性

痙攣リスクの報道によって、テオフィリンの使用を過度に恐れ、必要な治療が行われないケースも見られます。しかし、適切な用量管理と服薬指導が行われていれば、安全に使える薬でもあります。

小児では通常、体重や年齢に応じて少なめの用量に設定されており、1日2回の投与であれば12時間間隔で服用することで、安定した血中濃度を維持することが可能です。

また、アミノフィリンのような徐放性製剤は、血中濃度のコントロールが難しいとの理由で敬遠されがちですが、経験豊富な医師による適切なモニタリングのもとであれば、発作予防に有効な選択肢となり得ます。

・テオフィリンは喘息様気管支炎にも適応がありますが、特に発熱時の乳幼児では痙攣などの副作用リスクが高まるため慎重な使用が求められます。

・喘息と風邪、慢性気管支炎との鑑別は難しく、治療の選択には個別の病態理解が必要です。

・現在は吸入ステロイドが主流ですが、吸入が困難な症例では今なおテオフィリンの意義があります。

・過度な警戒ではなく、正しい知識と使用管理のもとで安全かつ有効に使用されるべき薬です。

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