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テオドール服用中はコーヒーを飲んじゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:喘息/COPD/喫煙.この記事は約4分56秒で読めます.
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カフェインとテオフィリンの意外な関係

朝の一杯、仕事中のリフレッシュ、夜の眠気覚ましに――。コーヒーは多くの人にとって日常の一部です。しかし、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの治療で「テオドール(テオフィリン)」を服用している方にとって、コーヒーとの付き合い方には少し注意が必要です。
テオフィリンとカフェインの薬理学的な共通点や、実際に起こりうる相互作用、日常生活での注意点について、勉強していきます。
テオフィリンとカフェインは「いとこ同士」
まず、テオフィリンとカフェインはどちらも「キサンチン誘導体」という化学構造の仲間です。
このグループに属する物質は、中枢神経刺激作用、気管支拡張作用、利尿作用などの共通した作用を持っています。
・テオフィリン(テオドール):気管支を広げる作用があり、喘息やCOPDに使用されます。飲み薬です。
・カフェイン:コーヒーや紅茶、緑茶、エナジードリンクなどに含まれる覚醒作用のある成分。眠気を抑えたり、集中力を高めたりします。
構造が似ているということは、体内での分解のされ方(代謝経路)も似ているということを意味します。
共通の代謝経路「CYP1A2」で起こる相互作用
テオフィリンとカフェインは、どちらも肝臓にある「CYP1A2」という酵素で主に代謝されます。
そのため、両者を同時に摂取すると、この酵素の「取り合い」が起こり、お互いの分解が遅くなる可能性があります。
●テオフィリン+カフェイン=血中濃度が上昇?
この代謝の競合が起こると、血液中にテオフィリンやカフェインが多く残る状態になります。
つまり、薬の効果や副作用が強く出すぎてしまう可能性があるのです。
特に以下のような症状には注意が必要です:
・手の震え(振戦)
・頭痛
・吐き気
・動悸や心悸亢進
・興奮、不眠、焦燥感
これらは、テオフィリンとカフェインに共通する「中枢神経刺激作用」によって生じるものです。
どれくらいのカフェインなら問題ない?
「じゃあ、コーヒーは一切ダメなのか?」と心配になるかもしれませんが、適量であれば多くの場合問題ありません。
カフェイン含有量の目安は以下の通りです:
カフェイン含有量(1杯あたり)
・ドリップコーヒー(150mL: 約90mg
・紅茶(150mL):約30mg
・緑茶(150mL):約20mg
・エナジードリンク(250mL):約80~100mg
テオフィリンを服用中の方でも、1日1~2杯のコーヒーであれば、まず問題になることは少ないとされています。ただし、5杯、10杯と大量に摂取するのはNGです。
特に注意すべきは以下のような方:
・一日中コーヒーを飲んでいる習慣がある人
・エナジードリンクを併用する人
・喘息の薬としてテオフィリンを高用量で服用している人
・肝機能が低下している高齢者
カフェインが喘息に効く?民間療法の一面
興味深いことに、コーヒーに含まれるカフェインは、テオフィリンと同様の気管支拡張作用を持っています。
実際に、19世紀のイギリスの医師Salterらは「濃いコーヒー2杯で喘息症状が改善した」と報告しています(1859年)。また、1983年にイタリア人約9万人を対象に行われた疫学研究では、コーヒーを1日3杯以上飲む人は、飲まない人に比べて喘息発症リスクが28%低下するという結果も報告されています(Paganoら、1988年)。
これは、カフェインの持つ弱い気管支拡張作用が関係していると考えられます。
●ただし「薬の代わり」にはなりません
こうした研究結果を見て、「じゃあコーヒーを飲んでいれば薬はいらない」と思うのは早計です。
カフェインの気管支拡張作用はテオフィリンよりも弱く、急性の発作時や重度の症状をコントロールする力はありません。また、飲料による摂取では効果のばらつきが大きいため、治療としては不安定です。
ステロイドが怖い人にも選択肢はある
吸入ステロイドは喘息治療の第一選択薬であることに異論はありません。ただし、「ステロイド=副作用が怖い」と感じる“ステロイドフォビア”の患者さんには、カフェインやテオフィリンといった自然由来の成分が受け入れやすいケースもあります。
もちろん、医学的には適切な薬剤を選択すべきですが、患者の価値観を尊重しながら選択肢を提示することも重要です。
テオフィリンの副作用で眠れなくなる?
もうひとつ、よくある相談に「喘息の薬を飲んだら眠れなくなった」というものがあります。
これは、テオフィリンが中枢神経を刺激する作用を持つためです。構造が似ているカフェインと同様に、テオフィリンも覚醒作用を持つため、人によっては不眠や興奮を引き起こすことがあります。
特に小児や高齢者では影響が大きく出やすいため、
・夜間の服用を避ける
・不眠が続くようなら医師に相談する
・眠前のカフェイン摂取も控える
といった工夫が必要です。
テオフィリンとカフェインの相互作用まとめ
比較項目 | テオフィリン | カフェイン |
---|---|---|
化学分類 | キサンチン誘導体 | キサンチン誘導体 |
作用 | 気管支拡張、中枢刺激 | 覚醒、気管支拡張(弱) |
主な代謝酵素 | CYP1A2 | CYP1A2 |
併用リスク | 相互に代謝を阻害 | 血中濃度上昇リスク |
適量摂取 | 問題なし | 1日1~2杯程度まで推奨 |
まとめ:コーヒーは「適量」ならOK。でも注意を忘れずに
テオフィリンとカフェインは似た構造・作用を持つ「いとこ同士」のような関係。適量なら問題はないものの、大量摂取は思わぬ副作用を招くことがあります。
日常的にコーヒーやお茶を楽しみたい方も、自分の薬との関係を理解したうえで「適度な付き合い方」を心がけることが大切です。
疑問がある場合は、遠慮せず医師や薬剤師に相談しましょう。