2025年6月30日更新.2,505記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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アミノ酸で褥瘡予防はできる?栄養ケアから見た創傷治癒

アミノ酸は皮膚に良いのか?

「アミノ酸は体に良い」
この漠然としたイメージのもとで、サプリメントや健康食品を選んでいる方も多いのではないでしょうか。

確かにアミノ酸は、私たちの皮膚、筋肉、臓器といった体のあらゆる部分を作るタンパク質の構成要素であり、生命活動に欠かせない存在です。

そのアミノ酸が皮膚の健康や褥瘡(床ずれ)の予防・治療に直接的に役立つのか?

アミノ酸の基礎知識:必須と非必須

アミノ酸には、体内で合成できないため食事から摂取しなければならない「必須アミノ酸」と、体内で合成可能な「非必須アミノ酸」があります。

必須アミノ酸(9種類)
・バリン
・イソロイシン
・ロイシン
・メチオニン
・リジン(リシン)
・フェニルアラニン
・トリプトファン
・スレオニン(トレオニン)
・ヒスチジン

非必須アミノ酸(11種類)
・アルギニン
・グリシン
・グルタミン酸
・アスパラギン酸
・アスパラギン
・グルタミン
・プロリン
・セリン
・チロシン
・アラニン
・システイン

非必須とはいえ、病気やストレス時には合成が追いつかず外部からの補給が必要になることもあり、こうしたアミノ酸は「条件付き必須アミノ酸」と呼ばれることもあります。

注目されるアミノ酸:BCAAとアルギニン

BCAA(分岐鎖アミノ酸)
BCAAは「ロイシン」「イソロイシン」「バリン」の3つのアミノ酸の総称です。筋肉に多く存在し、以下のような働きがあります:

・筋タンパク質合成の促進
・筋肉の分解抑制
・疲労回復のサポート
・肝機能障害患者の栄養改善(フィッシャー比の改善)

医療現場では、肝疾患用の栄養剤(例:アミノレバン)にもBCAAが配合されており、栄養状態や筋力低下が懸念される高齢者や要介護者にも使われています。

アルギニンの特徴と働き

アルギニンは非必須アミノ酸に分類されますが、以下のような多彩な生理機能を持ち、褥瘡や創傷治癒との関連で特に注目されています。

・一酸化窒素(NO)の前駆体 → 血流改善、血管拡張
・ポリアミン産生 → 細胞増殖と組織修復の促進
・成長ホルモンの分泌刺激
・免疫機能の活性化
・アンモニア解毒(尿素回路)

こうした働きが、褥瘡の治癒促進や予防に寄与すると考えられています。

褥瘡とアミノ酸:褥瘡患者に共通する「低栄養」

褥瘡(床ずれ)は、長期間同じ体位で過ごすことによって皮膚や皮下組織が圧迫され、血流障害を起こして壊死に至る疾患です。

この褥瘡を持つ患者の多くが、慢性的な低栄養状態にあるとされ、治療において栄養介入は不可欠です。

必要とされる栄養素
褥瘡治療の際に補給が推奨される栄養素には以下があります:
・エネルギー(総カロリー)
・タンパク質(アミノ酸)
・アルギニン、グルタミンなどの機能性アミノ酸
・亜鉛、鉄、銅などのミネラル
・ビタミンA・C・Eなどの抗酸化ビタミン

アルギニンの褥瘡改善効果

褥瘡の発症・進行においては、創部への血流低下、細胞再生の遅れ、感染のリスクなどが複合的に関わっています。
アルギニンには以下のような効果が期待されており、臨床的にも効果を示す報告が増えています:

・微小循環の改善 → 創部への酸素・栄養供給促進
・コラーゲン合成促進 → 肉芽形成・創傷閉鎖を促す
・免疫機能の賦活化 → 感染リスクの低減

実際に、アルギニン強化栄養剤(例:アイソカル アルジネードなど)を使用することで、褥瘡の治癒期間が短縮されたという研究もあります。

〇アルギニンの摂取基準
一般的な成人(体重50~60kg)におけるアルギニンの推定必要量は1日あたり6~7gとされていますが、
通常の食事からの摂取量は平均4g程度にとどまっているとされます。

このため、褥瘡リスクの高い高齢者や寝たきりの方では、栄養補助食品による補給が検討されることがあります。

〇サプリメントの使用時の注意点
・腎機能障害のある人ではアミノ酸代謝の負担に注意
・高用量使用時の下痢や胃腸障害に留意
・薬剤との相互作用(抗血小板薬、降圧薬など)への配慮も必要

また、アルギニンは血管拡張作用により一時的な血圧低下を引き起こす可能性もあるため、医師・薬剤師による評価と指導が望まれます。

シトルリンとの関係:尿素回路と血流改善

アルギニンと並んで話題に上るアミノ酸がシトルリンです。
スイカから発見されたこのアミノ酸は、「遊離アミノ酸」でありタンパク質構成要素ではありません。

しかし体内でアルギニンと共に尿素回路(オルニチン回路)に関わり、以下のような働きを持ちます:

・アンモニアの解毒促進
・一酸化窒素(NO)産生促進 → 血流改善
・持久力や血管機能のサポート

血流改善という観点では、アルギニンとシトルリンの併用でより強い効果が期待され、褥瘡だけでなくED(勃起障害)や高血圧に対する研究も進んでいます。

褥瘡は栄養+スキンケア+体位変換の総合戦略で

褥瘡対策は、アミノ酸補給だけで完結するものではありません。以下の多角的なアプローチが重要です:

・体位変換:2時間おきの姿勢変更
・適切な寝具の使用:エアマットや体圧分散マット
・皮膚の保湿と保清:乾燥や湿潤環境の調整
・感染予防:創部の管理と衛生状態維持
・栄養補給:アミノ酸・ビタミン・ミネラルの十分な摂取

この中で「栄養補給」は基礎体力・組織修復力を支える土台です。

アミノ酸は“褥瘡予防”の強い味方

・アミノ酸は体の構成成分として不可欠
・BCAAは筋力維持、アルギニンは創傷治癒に有効
・アルギニン強化栄養は褥瘡の改善・予防に有効という報告あり
・ただし、個別の栄養状態・疾患リスクに応じて慎重に使用を判断
・アミノ酸だけに頼らず、スキンケアや体位変換などと併用することが重要

「アミノ酸で褥瘡が防げる」というのは少し簡略化しすぎた表現かもしれません。
しかし、“治す力を支える栄養素”としてアミノ酸は確かに重要な役割を果たしているのです。

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