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偽アルドステロン症予防にアルダクトンA?
公開. 更新. 投稿者:高血圧.この記事は約4分35秒で読めます.
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偽アルドステロン症って何?予防にアルダクトンAが使われる理由とは

「漢方薬なら副作用が少ないと思っていたのに、血圧が上がった」「血液検査でカリウムが下がっていた」
こうした訴えの裏に潜むのが、偽アルドステロン症という副作用です。
とくに高血圧治療中の方や利尿薬を服用している方が、甘草を含む漢方薬を併用した際に発症することがあり、見逃されると重篤な電解質異常や不整脈に至るケースも報告されています。
偽アルドステロン症とは?
まず、アルドステロンというホルモンの働きから整理しましょう。
● アルドステロンの生理作用
アルドステロンは副腎皮質から分泌されるミネラルコルチコイドの一種で、以下のような働きを持ちます。
・腎臓の集合管に作用し、ナトリウムと水の再吸収を促進
・同時に、カリウムの排泄を促進
・結果として、血圧上昇と低カリウム血症を引き起こす方向に働く
● 偽アルドステロン症の病態
本来、アルドステロンの分泌に異常がある場合に起こるのが「原発性アルドステロン症」ですが、アルドステロンとは無関係に、似たような症状を引き起こす状態を「偽アルドステロン症」と呼びます。
つまり、「血圧が上がり、カリウムが下がる」というアルドステロン様の作用が、ホルモンとは別の要因で起こるということです。
甘草(グリチルリチン)による偽アルドステロン症:
漢方薬に広く含まれている「甘草」。この甘草に含まれるグリチルリチン酸が、偽アルドステロン症の原因物質として知られています。
● グリチルリチン酸の作用機序
グリチルリチン酸は体内で代謝されてグリチルレチン酸となり、11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(11β-HSD2)を阻害します。
この酵素は、本来コルチゾール(糖質コルチコイド)がミネラルコルチコイド受容体に過剰に作用しないように抑制しているのですが、酵素が阻害されると、コルチゾールがアルドステロンと同様の作用を持ってしまい、偽アルドステロン症の症状が出るのです。
偽アルドステロン症の症状とリスク
● 典型的な症状
・高血圧
・浮腫(むくみ)
・筋力低下
・倦怠感
・低カリウム血症
・重症では不整脈や麻痺、呼吸不全
● リスクを高める因子
・高齢者
・長期連用(特に甘草を1日2.5 g以上)
・利尿薬との併用(特にループ・サイアザイド系)
・肝硬変・腎疾患などの既往
甘草を含む漢方薬(例:芍薬甘草湯、小青竜湯、六君子湯など)は、慢性疾患や体質改善の目的で長期間服用されることも多く、医療現場では定期的な電解質モニタリングが必須です。
スピロノラクトン(アルダクトンA)が予防に使われる理由
スピロノラクトンはカリウム保持性利尿薬であり、かつアルドステロン受容体拮抗薬です。
● スピロノラクトンの作用
・アルドステロンの受容体に拮抗し、ナトリウム再吸収とカリウム排泄を抑制
・カリウムを保持し、利尿作用を持つ
・高血圧、心不全、原発性アルドステロン症、肝硬変の腹水などに適応
● 偽アルドステロン症への使用意義
偽アルドステロン症では、「アルドステロンのような作用」が過剰になっている状態です。そのため、アルドステロンの作用をブロックするスピロノラクトンは理にかなった予防的対応といえます。
また、スピロノラクトンはカリウム保持性のため、利尿作用を持ちながらも低カリウム血症のリスクを軽減できる点が非常に重要です。
セララとの違いは? ― 第1世代と第2世代の違い
スピロノラクトン(アルダクトンA)は第1世代のアルドステロン受容体拮抗薬で、抗アンドロゲン作用(女性化乳房・性機能障害など)の副作用が知られています。
一方、第2世代の選択的アルドステロンブロッカーであるエプレレノン(セララ)は、ホルモン関連の副作用が少なく、高血圧治療薬として使われています。
ただし、カリウム保持作用や拮抗作用の強さでは、スピロノラクトンの方が強く、予防的使用や腹水管理にはこちらが選ばれることが多いのです。
高血圧の人は漢方薬NG?
すべての漢方薬が高血圧に悪いわけではありません。しかし、「甘草を含む漢方薬」に関しては注意が必要です。
・軽度の高血圧であっても、甘草がカリウムを下げることで血圧が不安定になる
・甘草+利尿薬の併用は、高リスク
・血圧が上がるよりも、むしろ低カリウム血症による不整脈や筋麻痺のほうが危険
処方する医師も、服薬指導を行う薬剤師も、「漢方薬=安全」ではなく、「甘草=副作用ありうる」という視点を常に持っておくべきです。
・偽アルドステロン症は、アルドステロンが増えていないのに同様の症状が起こる状態
・甘草のグリチルリチンが原因で、高血圧と低カリウム血症を引き起こす
・カリウム保持性利尿薬であるスピロノラクトン(アルダクトンA)は、予防や併用薬として有効
・利尿薬を使用している患者や高齢者では、漢方薬の成分にも十分な注意が必要
・「漢方薬だから安心」という思い込みは危険。電解質の変動に注意し、定期的なモニタリングが不可欠