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吐き気止めでトリプタンの吸収促進?
公開. 更新. 投稿者:頭痛/片頭痛.この記事は約4分19秒で読めます.
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吐き気止めでトリプタンの吸収促進?片頭痛治療における制吐薬の役割

片頭痛(偏頭痛)は、痛みだけでなく吐き気・嘔吐を伴うことが多い疾患です。とくに発作中には、胃の動き(胃運動)が著しく低下し、服薬した薬が腸管に移行せず、吸収されにくくなることがあります。これが「胃内容排出遅延(胃無力症)」と呼ばれる状態です。
そのため、せっかく適切なタイミングでトリプタンを服用しても、効果発現が遅れたり十分な鎮痛が得られなかったりすることがあります。この問題を解決するため、制吐薬(吐き気止め)を併用することで、嘔気の軽減だけでなくトリプタンの吸収促進が期待できることが知られています。
・片頭痛発作時の消化管運動低下
・トリプタンの薬物動態と吸収遅延
・制吐薬(ドンペリドン・メトクロプラミドなど)の併用効果
・具体的な治療戦略の選択肢
・注意すべき副作用や使用上のポイント
について勉強していきます。
片頭痛と消化管運動の関係
片頭痛の発作は単なる頭痛ではなく、脳血管や神経伝達物質が複雑に関わる全身性の現象です。発作中には交感神経の活性化や消化管運動の低下が起こり、以下の症状を伴います。
・吐き気・嘔吐
・食欲不振
・薬が効きにくい感覚
特に胃排出遅延は臨床上問題になりやすいポイントです。トリプタンは主に小腸で吸収されるため、胃から腸への移動が遅れると血中濃度がなかなか上がりません。このため、「飲んでも効かない」「痛みが止まらない」と感じる患者さんが少なくありません。
トリプタン製剤の吸収特性
代表的なトリプタンには以下の製剤があります。
・スマトリプタン(イミグラン)
・ゾルミトリプタン(ゾーミッグ)
・リザトリプタン(マクサルト)
・エレトリプタン(レルパックス)
・ナラトリプタン(アマージ)
これらは全て内服薬の場合、経口投与後に小腸で吸収されるため、胃排出遅延の影響を受けやすい特徴があります。発作時に胃内容物が停滞していると、血中濃度の立ち上がりが遅く、痛みの進展を抑制するタイミングを逃してしまうのです。
特に、発作の進行初期(頭痛がまだ軽度のうち)に投与することが重要だとされるのは、この「時間依存性」のためです。痛みが強くなると、すでに三叉神経血管系の活性化が進行しており、トリプタンが十分な効果を発揮しにくくなります。
制吐薬(消化管運動促進薬)の併用
片頭痛患者に対して、吐き気止めを併用することでトリプタンの吸収を改善するという考え方があります。制吐薬には主に以下の2種類が使われます。
ドンペリドン(ナウゼリン)
・ドパミンD2受容体遮断作用
・胃の排出促進作用
・中枢移行が少なく錐体外路症状が起こりにくい
メトクロプラミド(プリンペラン)
・ドパミンD2受容体遮断作用
・セロトニン5-HT4受容体刺激作用
・中枢移行しやすいため錐体外路症状に注意
これらをトリプタン服用の30分程度前に服用することで、胃排出が改善され、トリプタンの血中濃度が上がりやすくなると報告されています。
さらに、吐き気そのものも軽減されるため、服薬後の嘔吐による再投与リスクが減る点もメリットです。
実際の治療オプション
発作時に薬が効かない・吸収が悪いと考えられる場合、主に以下の対策が検討されます。
●制吐薬を併用する
・吸収遅延の改善
・悪心・嘔吐の軽減
●トリプタンの倍量服用
・例えばアマージ、マクサルトは初回1錠が推奨ですが、症状が強い場合、医師の判断で倍量服用が処方されることがあります。
・ただし用量増加は副作用リスクが高まるため注意が必要です。
●剤形を変更する
・経口剤以外の選択肢
・イミグラン点鼻液:経口剤より速効性
・イミグラン皮下注(自己注射):もっとも吸収が早い
・嘔吐が強い患者には特に有用です。
患者指導の際には、「制吐薬を先に服用してからトリプタンを飲むことで、薬の効きが良くなることがある」と説明し、タイミングを工夫してもらうことが重要です。
注意点と副作用
制吐薬にも副作用があるため、無条件に勧めるのは避けるべきです。
●ドンペリドンの注意点
・QT延長による不整脈リスク
・高齢者・心疾患患者は慎重投与
・長期連用を避ける
●メトクロプラミドの注意点
・中枢性副作用(眠気、倦怠感、錐体外路症状)
・若年女性にアカシジアが起こりやすい
患者さんの年齢・基礎疾患・服薬状況を踏まえ、医師が適切に選択することが大切です。
制吐薬以外の選択肢
嘔吐が顕著で経口薬が困難な場合、最初から以下の非経口剤を使用することも有効です。
●スマトリプタン皮下注(イミグランキット)
・発症初期に自己注射できる
・最も迅速な血中到達
●点鼻剤
・経口剤より早いが皮下注よりは遅い
●坐薬(海外)
・日本では承認されていないが一部で利用される
「早めの投与」「適切な剤形」「消化管運動改善」という三本柱が治療成功のカギです。
患者指導のポイント
患者さんに説明する際は、以下を整理して伝えましょう。
・発作時はなるべく早く服用すること
・強い吐き気があると薬の効きが遅れること
・吐き気止めの先行服用で効果が改善する可能性があること
・吐き気が強い場合は点鼻薬や注射も選択できること
・用量増量には副作用リスクがあること
これらを理解してもらうと、自己管理への意欲も高まります。
まとめ
制吐薬(ドンペリドン・メトクロプラミドなど)は、片頭痛に伴う悪心・嘔吐の軽減だけでなく、トリプタンの吸収促進という重要な役割を担います。
適切なタイミングで服用することで、片頭痛の痛み進展を抑え、治療効果を最大化できます。
ただし副作用や禁忌もあり、患者さん一人ひとりの状況に応じて慎重に使用する必要があります。
症状が強く内服困難な場合は、非経口製剤への切り替えも積極的に検討しましょう。
早期投与・適切な剤形・消化管運動改善が治療成功のポイントです。
片頭痛で悩む患者さんに、少しでも有効な選択肢を提示できるよう、日常業務での指導にぜひ役立ててください。