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副作用はどこまで説明すべきか?ノセボ効果とコンプライアンス低下の狭間で
公開. 更新. 投稿者: 6,196 ビュー. カテゴリ:副作用/薬害.この記事は約4分21秒で読めます.
目次
副作用はどこまで説明すべきか?― ノセボ効果とコンプライアンス低下のあいだで、薬剤師は何を語るべきか ―

「副作用の説明をすると、かえって飲まなくなる」
薬剤師として働いていれば、一度は感じたことのある違和感ではないでしょうか。
副作用を丁寧に説明した直後に、
「やっぱり怖いので飲みたくありません」
「少しでも調子が悪いのは副作用ですよね?」
と言われ、結果的にコンプライアンスが下がってしまう。
では、ここで一つの疑問が浮かびます。
副作用は、説明しないほうがいいのだろうか?
この問いは、単なるテクニック論ではありません。
薬剤師の職能そのものに関わるテーマです。
薬剤師が直面する「副作用説明」の難しさ
副作用に対する薬剤師のスタンスが難しい理由は、大きく分けて2つあります。
①どこまで副作用を説明するべきか
②副作用らしき症状を聞いたとき、どう対応するか
まず①について整理してみましょう。
副作用説明の3つの場面
副作用の説明が求められる場面は、主に次の3つです。
①薬剤師側から積極的に説明する場合
②患者が薬情文を見て質問してくる場合
③患者が不安を感じ、説明を求めてくる場合
このうち、
①は薬剤師の裁量が最も問われる場面です。
積極的に説明すべき副作用とは何か
すべての副作用を等しく説明する必要はありません。
たとえば、
・抗菌薬による下痢
・抗不安薬や睡眠薬による眠気
これらは
頻度が高く、比較的軽い副作用です。
このタイプの副作用は、
・起こっても驚かないように
・生活上の注意点として
積極的に説明してよいでしょう。
副作用の整理:3つの軸
副作用を考えるとき、次の3つの軸で整理できます。
・軽い副作用/重い副作用
・頻度が多い副作用/少ない副作用
・気づきやすい副作用/気づきにくい副作用
問題になるのは、
「重くて、しかも頻度が低い副作用」です。
重い副作用は、なぜ説明しにくいのか
理由は明確です。
コンプライアンスに直結するから
たとえば、
「アナフィラキシーショック」という副作用。
多くの薬に記載されており、
カロナールのような比較的安全と認識されている薬にも書かれています。
これをすべての患者に説明したらどうなるか。
結果は、想像に難くありません。
「重篤な副作用はすべて説明すべき」という誤解
重篤な副作用の説明義務については、
判例を根拠に「説明しなければならない」と解釈する意見もあります。
しかしそれを文字通り受け取ることと、
現場での最適解は別問題です。
重要なのは、
副作用名そのものを伝えることではなく、
“見逃してはいけないサイン”を伝えること
です。
具体例:頻度が低いが重い副作用
・ラモトリギン・カルバマゼピンによる重症薬疹
・ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死
これらを
「重い副作用があります」とだけ伝えるのは適切でしょうか。
むしろ、
・初期症状は何か
・どんなときに受診すべきか
・他科受診時に必ず併用薬を伝えること
を説明する方が、
実用的で、安全性も高いと言えます。
「副作用はありますか?」と聞かれたとき
この質問は非常によく受けます。
ここで
「副作用のない薬はありません」
と答えてしまうのは、得策ではありません。
患者の背景には、主に2つのパターンがあります。
・すでに気になる症状がある
・ただ不安なだけ
前者なら症状を丁寧に聞き取り、
後者なら頻度の高い副作用に絞って説明します。
「大した副作用はありません」は危険
コンプライアンス低下を恐れて、
「特に副作用はないですよ」
と言ってしまうと、
後から薬情文を見た患者が不信感を抱くことがあります。
副作用を軽視する言い方は、
クレームの温床にもなり得ます。
副作用なのか、病気なのか
最終的に、
・副作用なのか
・原疾患の症状なのか
を判断することは、薬剤師にはできません。
そのため「医師に伝えてください」と言いがちですが、
理想は、
「こちらから医師に伝えますね」
と言える仕組みでしょう。
副作用を“伝えない”患者がいる現実
かつて私は、
「副作用があれば患者は必ず医師に伝える」
と思っていました。
しかし現実は違います。
特に抗がん剤治療では、
・吐き気がつらくても
・「治療のために我慢すべき」と考え
副作用を訴えない患者が少なくありません。
支持療法で改善できるケースもあるにもかかわらず、です。
ここで出てくる「ノセボ効果」
プラセボ効果が
「効くと信じることで効く」
現象であるのに対し、
ノセボ効果は
「副作用を恐れることで、副作用を感じてしまう」
現象です。
代表例が、
スタチン系薬剤の横紋筋融解症。
副作用を強調して説明すると、
筋肉痛に過敏になり、
副作用として認識してしまうことがあります。
そして医師に
「副作用ではありません」
と言われると、症状が消える。
これは決して珍しい話ではありません。
副作用説明をしない=優しさ、なのか?
ノセボ効果を避けるために、
「副作用の説明はしません」
という考え方も、一理あります。
しかしそれが
本当に患者のためか
は慎重に考える必要があります。
問題は「説明するか」ではなく「どう説明するか」
副作用説明の本質は、
・不安をあおらない
・しかし情報は隠さない
・対処可能性を伝える
このバランスです。
副作用名を羅列することが、
服薬指導ではありません。
おわりに
副作用の説明は、
「正解のある作業」ではありません。
しかし、
ノセボ効果という視点を持つことで、
・なぜ説明後に体調不良を訴えるのか
・なぜ飲めなくなるのか
が、腑に落ちてきます。
副作用を伝えることは必要です。
ただし、
恐怖ではなく、理解として伝える
それが、
これからの薬剤師に求められる
副作用説明なのではないでしょうか。




