2025年7月5日更新.2,510記事.

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透析患者の食生活

透析患者の食生活─塩分・水分・カリウム・リンの管理が命を守る

慢性腎臓病(CKD)が進行し、透析療法を受けることになると、日々の食事や水分摂取がただの「健康管理」ではなく、命に関わる重要な治療の一部になります。特に塩分や水分、カリウム、リンの制限は、患者さんが日々体調を維持するために欠かせないテーマです。

ここでは「なぜ制限が必要なのか」「どんな工夫ができるのか」を勉強していきます。

塩分と水分:むくみ・心不全・高血圧の連鎖を防ぐ

塩分制限は透析患者さんの基本ともいえる対策です。

腎臓は体内の余分な水分や塩分を尿にして排泄しますが、腎機能が低下すると塩分を排出する力が落ち、体に水分がたまりやすくなります。これがむくみ・高血圧・心不全・肺水腫へとつながります。

透析では余分な水分を除去できますが、塩分の摂取が多いと喉が渇き、結果的に水分摂取も増えてしまいます。これにより透析前の体重増加(体液貯留)が慢性化し、心臓に強い負担がかかります。

塩分制限の工夫

調味料を計量する習慣をつける
目分量で醤油や味噌を使うと、驚くほど塩分を摂ってしまいます。

●減塩調味料を活用
塩分を半分以下に抑えた商品が増えています。

●外食は塩分が多い
必ず栄養成分表示を確認し、できるだけ塩分の少ないメニューを選びましょう。

●味覚の慣れに注意
最初は物足りなく感じても、2〜3週間で舌が慣れてきます。

水分制限のポイント

透析患者さんの場合、「ドライウェイト(理想の体重)」が決まっています。塩分が多いと水分摂取量が増え、体重管理が難しくなります。毎日同じタイミングで体重を測る習慣が重要です。

●水分制限が必要な人
・尿量が減っている
・むくみが出やすい
・心機能が低下している

一方で、尿がしっかり出ている場合は、必要以上に水分を制限する必要はありません。主治医の指示に従いましょう。

カリウム:不整脈・突然死を防ぐ緊急性の高い管理

カリウムは体内の電解質バランスに重要な役割を果たす栄養素です。特に心筋の電気的な活動に深く関わります。

腎機能が低下すると、体からカリウムを十分排泄できなくなります。その結果、高カリウム血症が起きやすくなり、最悪の場合は突然死に至ります。

高カリウム血症の症状
・手足のしびれ
・脈の乱れ
・胸苦しさ
・筋力低下
・不整脈から心停止

特に血清カリウム値が7mEq/L以上になると命の危険が高くなります。

カリウム制限のコツ
カリウムは「野菜や果物、いも類、豆類、海藻類」に多く含まれます。特に生野菜は注意が必要です。

調理で減らすポイント:
●小さく切る
・細かく刻むことで細胞内のカリウムが出やすくなります。
●水にさらす
・切った野菜を20分以上水にさらすと、カリウムが20〜30%減少。
●ゆでこぼす
・茹で汁を捨てることで、さらにカリウムを除去。

「サラダは生でたくさん食べたい」という気持ちが強い方ほど、調理法を意識する必要があります。

薬で管理する方法
カリメート・アーガメイトゼリー・ケイキサレートなどのカリウム吸着薬が処方される場合があります。これらは腸の中でカリウムと結合し、便と一緒に体外へ排出します。

ただし副作用として便秘や腸閉塞のリスクがあるため、医師の指示通りに服用し、便秘予防も重要です。

リン:骨・血管を蝕む見えないリスク

「リン」というと、あまりピンと来ない方も多いかもしれません。

しかし腎臓病では、リンの蓄積が骨の脆弱化・血管石灰化(血管が石のように硬くなる)を引き起こします。透析患者さんの心血管疾患リスクは、これらの血管石灰化が深く関わっています。

高リン血症の怖さ
リンが多い状態が続くと、副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌されます。PTHは骨を壊して血液中にカルシウムやリンを放出するため、骨がスカスカに。

一方、血液中のリンとカルシウムは結合して、血管の壁に沈着し、動脈硬化を進行させます。

リン制限の工夫
●乳製品や小魚、レバーを控える
・リンを多く含む食品は量を調整。
●加工食品は注意
・添加物の無機リンは吸収率が高く、コンビニ弁当やインスタント食品、コーラは要注意。
●栄養表示を確認
・「リン酸塩」などの記載をチェックしましょう。

リン吸着薬の活用
食事療法だけで目標値(血清リン3.5〜6.0mg/dL)が維持できないときは、
・炭酸カルシウム
・セベラマー塩酸塩
などのリン吸着薬を使用します。

食事と一緒に飲むことで食事中のリンと結合し、吸収を抑えます。

カルシウムとビタミンD:骨のためのバランス調整

カルシウム不足は骨粗鬆症を招きますが、腎不全では「多すぎるカルシウム」が血管石灰化を進めるジレンマもあります。

食事でカルシウムを補うとリンも同時に増えるため、薬剤でカルシウム・ビタミンDを補う方法がとられます。活性型ビタミンDは副甲状腺ホルモンを抑制し、骨代謝を整えます。

毎日の「体重・血液検査」が命綱

透析患者さんにとって、毎日の体重測定と定期的な血液検査は、自分の体の状態を知る唯一の目安です。
・体重:塩分・水分コントロールの指標
・カリウム:突然死リスクの監視
・リン・カルシウム:骨・血管管理
・ヘモグロビン:貧血の評価

「ちょっと今日は食べ過ぎたかな?」と気づいたら、その日のうちに食事と水分を調整する習慣がとても大切です。

まとめ:一つ一つの工夫が未来を変える

透析中の食事療法はとても制限が多いですが、それは単なる「我慢」ではありません。命を守るための最強の治療です。

・塩分:むくみ・心不全予防
・水分:透析コントロール
・カリウム:不整脈防止
・リン:骨と血管を守る

「どこまで制限するか」「どう工夫するか」は一人ひとり異なります。医療チームと相談し、自分に合った食事スタイルを見つけていくことが何より大切です。

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