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勝手に捨てちゃいけない薬
公開. 更新. 投稿者:薬局業務/薬事関連法規.この記事は約3分56秒で読めます.
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勝手に捨てちゃいけない薬―麻薬、覚醒剤原料、注射薬…家庭での廃棄ルール

余った薬、どうしていますか?
「この薬、もう使わないし、捨てちゃっていいかな…」
患者さんやその家族が、自宅に余った薬を前にして悩む場面はよくあります。
しかし、中には家庭で安易に廃棄してはいけない薬もあります。
とくに次のようなケースでは、法的または安全面で注意が必要です。
・がん治療で使ったモルヒネなどの麻薬系鎮痛薬
・市販薬にも含まれる覚醒剤原料医薬品
・注射針付きの自己注射薬(インスリン、抗リウマチ薬など)
勝手に捨ててはいけない薬の代表例
● 麻薬(モルヒネ、フェンタニル、オキシコドンなど)
麻薬に分類される薬は、「麻薬及び向精神薬取締法」(麻向法)により、以下のように厳密に規定されています。
【重要】法的ポイント
・麻薬の所持・譲渡・廃棄は、免許を持つ医師・薬剤師・麻薬施用者に限られる
・一般人(患者や家族)が勝手に廃棄することは原則認められていない
● 例:がん治療後に自宅に残った麻薬を家族が捨てたら?
患者本人が死亡した場合、麻薬は「所有者の死亡により効力を失った処方薬」となりますが、依然として麻薬であることに変わりはありません。
麻向法施行規則 第33条では、
「施用後の麻薬が余った場合は、廃棄や返納について、免許者が責任を持って行うこと」と規定されています。
つまり、家族による「自己判断での廃棄」は法律的には認められていないというのが原則です。
● 対応方法
・調剤を行った薬局、または処方元の医療機関に連絡して返却・回収の相談をする
・医師・薬剤師の指導のもとで、適正な記録・手順を踏んで廃棄してもらう
覚醒剤原料医薬品も廃棄注意
● 覚醒剤原料ってなに?
たとえば市販薬の咳止めに含まれるメチルエフェドリン、ブロムワレリル尿素などは、「覚醒剤取締法に基づく原料」とされる場合があります。
● 勝手に捨てていいの?
法的に一般家庭での所持自体は可能ですが、大量に保有・譲渡した場合は違法行為とみなされる可能性があります。
対応例
・中身を紙に吸わせる、苦味のある液に溶かすなどして無害化し、分別ごみに出す
・不安な場合は、薬剤師に相談を
向精神薬(睡眠薬・抗不安薬)は?
向精神薬(例:デパス、リボトリール、ハルシオン)は依存性や乱用リスクがあるため、処方薬の中でも扱いに注意が必要です。
● 勝手に捨てても違法なの?
明確に禁止されているわけではありませんが、他人への譲渡は完全に違法です。
また、不適切に捨てた薬が誰かに拾われて悪用された場合、刑事責任を問われる可能性も否定できません。
処分方法
・錠剤をつぶして無害化(お茶・酢などの液体と混ぜる)後に家庭ごみに出す
・不安であれば医療機関に相談
自己注射薬・注射針も危険
インスリン製剤や、抗リウマチ薬(エンブレル、オレンシアなど)の自己注射では、「使用済み注射針の処分」が問題になります。
● 勝手に可燃ごみに出してよい?
→ 絶対NG。針刺し事故や感染リスクあり。
● 適切な対応
・医療機関・薬局で回収してもらえるか確認(地域差あり)
・地方自治体の「注射針回収プログラム」に参加
・医療廃棄物として扱う必要がある
廃棄で起こりうるリスク
リスク | 内容 |
---|---|
法律違反 | 麻薬・覚醒剤原料の不適切処分は、麻向法・覚醒剤取締法違反に問われる可能性 |
健康被害 | 誤飲・誤注による中毒、アナフィラキシー等の事故リスク |
環境汚染 | 河川や土壌に薬物成分が流出し、環境被害を引き起こす |
社会的リスク | 不法投棄が報道されることで、薬剤師や医療機関への信用問題に発展 |
薬剤師としてできること
・「この薬は捨てていいのか迷ったら、まず相談してください」と患者に伝える
・医療廃棄物や麻薬・向精神薬の法的取扱いについて、事実ベースで説明できる体制を整える
・地域の薬剤師会や自治体と連携し、不要薬の適切な回収ルートを共有する
薬の廃棄にも「責任」がある
「命に関わる薬」は、同時に「間違えば命を脅かす薬」でもあります。
・麻薬などは法律で厳密に管理されており、患者や家族が勝手に捨てることは原則NG
・薬局・医療機関に相談し、正しい方法で処分するのが安全かつ合法的
・注射針、覚醒剤原料、向精神薬も含め、「自己判断で捨てる前に確認」を習慣に
「薬は使うときも、捨てるときも慎重に」がこれからの時代の常識です。