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透析患者の食生活
公開. 更新. 投稿者:腎臓病/透析.この記事は約10分41秒で読めます.
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透析患者と水分、食塩
腎臓が悪いと聞くと、水分摂取制限があるのではないか、と思う。
しかし、尿の排泄障害がない場合には、健常者と同様に自然の渇感に任せて摂取してよい。
腎機能が低下している場合の過剰な水分摂取や極端な制限は行うべきではない。
腎臓は血流量が多い臓器であり、血管の壁も薄く圧がかかりやすい。GFRの低下した状態では、食塩の過剰摂取により細胞外液量の増加を招き、浮腫、心不全、肺水腫などの原因となる。
減塩の工夫としては、調味料は必ず計量スプーンを使用して測るようにする。
減塩調味料や減塩食品を利用するのもよい。
加工食品ではナトリウム(mg)で表示されている場合もあるので、食塩量に換算する〔ナトリウムから食塩の換算式:Na (mg) ×2.54/ 1、000=食塩(g)〕。
減塩を継続するには、食塩を含まない調味料で味付けするなどの工夫が必要である。
一般的に外食は食塩含有量が多いので、栄養表示を確認する習慣を身につけるとよい。最近はメニューに記載されていることも多い。
透析をしている場合は、透析の目標体重(ドライウェイト) を決めるが、塩分の摂りすぎによって水分摂取が多くなると、体重が増加し、むくみが出て心臓に負担もかかる。
毎日体重を測る習慣をつけるようにする。
透析患者とカロリー
CKD患者のエネルギー必要量は,健常人と同程度でよく、年齢,性別,身体活動度により概ね25~35kcal/kg体重/日が推奨される。
肥満症例では,20 ~25kcal/kg体重/日としてもよい。肥満がある場合は、3ヵ月間で現体重の5%減を目標に体重調節を行い,最終的には標準体重(BMI) が25未満を目標とする。
朝食を抜き,夜たっぷりまとめ食いをする人に肥満者が多い。
空腹時間が長いと,摂取したエネルギーを貯職に回すそうとするためである。
食物繊維は,糖質・中性脂肪など肥満の原因になる栄養素の吸収を妨げ,満腹感により食べすぎも防ぐことができるので,毎食摂取するとよい。
血清カリウム値が高い場合には,カリウム処置をする。
蛋自質制限をすると,エネルギーが不足してしまうので,その分は糖分や脂質で補うようにする(サラダ油,マヨネーズ,ドレッシングなど)。
透析患者とタンパク質
蛋白質は体内でエネルギーとして燃やされた場合, 水と炭酸ガス以外に窒素化合物などの蛋白終末産物を生じる。
腎機能障害がある場合,蛋白質の摂りすぎは糸球体過剰濾過をもたらして糸球体障害を促進し,窒素化合物蓄積は尿毒症などの症状を引き起こす。
健常日本人の蛋白質摂収推奨量は0.9 kg 体重/日であるが、CKDの患者では腎臓への負荷を軽減する目的で,ステージG3では0.8~l.Og/kg体重/日、ステージG4~G5では0.6~0.8g/kg体重/日に制限する。
透析患者では,Pが多く含まれる蛋白質の多い食品の制限が厳しくなるほど、通常の食品ではエネルギー不足になるため,治療用特殊食品の使用が不可欠になる。
無~低蛋白含有量でありながら,エネルギー含有量の高い食品が市販されている。
透析患者と脂質
動脈硬化性疾患予防の観点より,CKD患者でも健常者と同様に脂質の%エネルギー摂取比率は20~25%とする。
透析患者とミネラル
「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」では、血清リン(P)濃度(管理目標値3.5~6.0mg/dL)、血清補正カルシウム(Ca)濃度(8.4~10.0mg/dL)、血清副甲状腺ホルモン(PTH)濃度の順に、優先的に管理目標範囲に維持することを推奨しています。
原則として血清P濃度が高い場合は十分な透析量の確保およびP制限の食事指導を基本とし、血清P濃度が低い場合は食事摂取量を含めた栄養状態の評価が重要です。
腎臓はミネラル代謝調節に大きな役割を果たしており,その異常はCKDの進行に伴って必発する。CKD-MBD(骨ミネラル代謝異常:CKD-mineral and bone disorder)と総称される概念が提唱されている。
腎機能が低下しGFRが60mL/min/1.73m2以下になると、高P血症、低Ca血症、腎臓でのビタミンDの活性化障害が生じ,活性型VD3濃度が低下する。
そのためミネラル代謝異常を来し,副甲状腺ホルモン(PTH) 分泌が亢進し,骨代謝回転が高まる。 CKD- MBDでは,生化学的検査,骨や関節の障害だけでなく、異所性石灰化、血管石灰化による動脈硬化などの異常を起こし、心不全などのCVD発症リスクを増加させる。
このなかでも特に問題となるのは高P血症で,血清P値が高値であるほどCKDの生命予後,腎機能予後は不良であるため. CKDステージにかかわらず基準値内に保つようにし,血清Pが上昇する前から食事療法によってP管理を始めることが望ましい。
重症のかゆみを訴える人では,血清Pの濃度が高いことも知られている。
保存期CKD患者のP摂取量は蛋白質の摂取量に大きく影響を受ける。
また,無機リンを多く含む食品添加物( 加工食品,ファストフード,清涼飲料水) の摂収にも注意する。
低蛋自(低リン) 食で効果が不十分なら,炭酸Caやセベラマー塩酸塩などのリン吸着薬を投与する。
PTHの管理にはまずP、Caを基準値内にコントロールし,それに経口活性型ビタミンD製剤(副甲状腺でPTH の合成を抑える) を少量から追加してもよい。
Caと活性型ビタミンDを投与するときは用量の調節を行い、高Ca血症による腎機能の急激な低下に注意する。特に高齢者では脱水に注意する。
透析患者とカリウム
高K血症は不整脈による突然死の原因となる可能性がある。
Kの摂取量を制限するためには,生野菜や果物,海藻,豆類,いも類などK含有量の多い食品を制限する。
野菜,いも類などは小さく切ってゆでこぽすと,K含有量を20 ~30%減少させることができる。
生で食べる野菜は小さく切ってから,20分程度水にさらすとよい。
低蛋白質療法が実施されると,肉、魚類などのK摂収量が減るので,野菜、いも類などの制限を緩和できる。
高K血症とは、血清K濃度が5.5mEq/L以上の状態をいい、主な症状は、知覚異常(口唇のしびれや違和感など),四肢の重い感じ, 筋肉の脱力、脈の乱れ,動悸、胸の苦しさなどである。
さらに,血清K濃度が7mEq/L以上になると,心臓の調律障害が起こり,重篤な不整脈,心停止に至る可能性もある。
CKDにおける管理目標値は4.0~5.4mEq/Lである。
CKDはステージが進行すると,腎機能低下による酸の排泄障害で代謝性アシドーシスになり,血清K値は上昇
する。
また服用している薬物(ACE阻害薬、ARB、利尿薬など)や食事によるK摂取過剰も血清K値上昇に関与する。
カリウムを体外に排泄する薬としては,利尿薬と陽イオン交換樹脂がある。
陽イオン交換樹脂はカルシウム型のポリスチレンスルホン酸カルシウム(カリメート、アーガメイトゼリー)とナトリウム型のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ケイキサレート)に分類され、いずれも吸収されないポリマーである。
高Ca血症がある場合には、ケイキサレートを使用する。
これらは大腸内でCaイオンまたはNaイオンを離してKイオンと結合し、便とともにカリウムを体外に排出し,
カリウムの血液中への吸収を抑制する。
カリウム吸着薬は水に溶けない樹脂であるため吸収されず,結腸内の水分が吸収されると,硬結便を生じ,腸
管の通過障害を引き起こして,便秘の原因となる。
便秘になると便によるカリウム排泄を著しく低下させるだけでなく,腸管内圧が上昇して腸管穿孔を来すこともしばしばある。
カリウムと生野菜
野菜や果物にはカリウムがたくさん含まれています。
高血圧の人はカリウムを積極的に摂ることによって、血圧が下がります。
カリウムは、体内の余分なナトリウムを排出する作用があります。
なので、カリウムをたくさん含む野菜や果物を積極的に摂ることは良いことです。
しかし、腎臓の悪い人はカリウムを排泄することも難しくなり、体内にカリウムが蓄積されていくので、過剰摂取は危険です。
血液中のカリウム濃度が高くなりすぎると非常に危険で、不整脈が起きたり心臓が止まって突然死に至ることさえあります。
そのため腎機能の衰えてきた患者には、ケイキサレート、カリメート、アーガメイトゼリーなどのカリウム吸着剤、イオン交換樹脂が処方されたりします。
野菜を食べるときに、そのまま生で食べるよりも、煮たり茹でたりしたほうがカリウムの含有量は少なくなります。
カリウムは、水に溶ける性質があるので、水にさらしたり、ゆでこぼしたりすれば、調理前の1/3~2/3に減らすことができます。
人間の体内にあるカリウムは細胞内に多く含まれ、細胞外、血液中などにはナトリウムが多く含まれる。
植物も同じように、細胞内にカリウムが多く含まれるので、切り刻んで細胞膜を破壊した方が、カリウムの排泄を促すことができる。
カリウムは腎臓に悪い?
腎機能障害をもった患者さんに、カリウムやリン、タンパク質や塩分の摂取制限が行われます。
誤解する人もいますが、カリウムやリンが腎臓に悪いというわけではない。
タンパク質の老廃物は腎臓に負担をかけ、塩分は高血圧の原因にもなり腎臓に負担をかける。
しかし、カリウムやリンはそれ自体が腎臓に悪いというわけではない。カリウムやリンが腎臓から排泄されないことで、高カリウム血症、高リン血症になることが怖いのである。
腎機能低下と高カリウム血症
通常代謝により産生された酸は尿中(H+)と呼吸中(CO2)に排泄され、血液中のpHは7.4程度になるように調節されているが、腎機能が低下すると尿中にHイオンが排泄されず、血液中に蓄積するので血液は酸性に傾く。
この状態をアシドーシスという。
アシドーシスになると細胞はバランスをとるためにHイオンを細胞内に取り込み、Kイオンを細胞外に放出する。
その結果高K血症を引き起こす。
透析患者とカルシウム
牛乳や小魚でカルシウムを摂ろうとすると、蛋白質およびリン摂取量が増加する。
そのため蛋自質制限が必要な患者では,カルシウムは薬剤で補給することになる。
ただしCa製剤は腎不全において,異所性石灰化や血竹石灰化を促進する場介があるので注意を要する。
透析患者とリン
乳製品やレバー,しらす干し,ししゃも,丸干しなどはリン摂取が多くなるので注意する。
食品添加物に用いられる無機リンは有機リンより吸収されやすいといわれているので,それを多く含む加工食品やコーラなどの過剰摂取はなるべく避けるようにする。
PTHの働き
人の体内ではCaとPはほとんど骨に存在している。
PTHは骨からCaやPを溶出させ骨吸収を促進させたり,逆に骨形成を促進させる働きをしている。
また腎臓にも作用してPの再吸収を低下させ,尿中P排泄促進作用ももっている。
Pの消化管からの吸収には活性型ビタミンDが関与しており,腎機能が低下し活性型ビタミンD濃度が
低下すると,血中P濃度が低下するので、PTHが分泌され骨からPを遊離させる。
透析患者と鉄
CKD患者においては、腎疾患、貧血、心疾患が互いに影響し合う心腎貧血症候群が提唱されている。
赤血球産生に必要なエリスロポエチン(EPO) は腎臓で作られるため、腎機能低下とともにEPO産生は低下し,貧血が進行する。
腎性貧血はステージ3以降からみら、糖尿病性腎症の患者ではより早期から発症する傾向にある。
腎性貧血は腎機能障害の進展や心不全の増悪囚子であり、貧血を改善することにより,腎障害の進展を抑制し、心不全の予後が改善できる。
治療にはエリスロポエチンの分泌不足を補うために赤血球造血刺激因子製剤(ESA) の投与による薬物治療が行われる。
実際には遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤を用いて,Hb値で10g/dL以上12g/dL未満に保つことが治療目標として推奨されている。
貧血を伴うCKD忠患者では、明らかな鉄欠乏がなくとも,鉄剤投与により貧血の改善が期待できる。
また、ESA投与により相対的な鉄欠乏となるため、ESA使用時には鉄欠乏対策が重要である。ただし過剰にならないよう注意が必要である。
透析患者と尿酸
高尿酸血症( 血清尿酸値7.0mg/dL以上) は,痛風、尿酸結石、腎障害、動脈硬化、メタボリックシンドロームなどの原因になる。
その機序として,高尿酸血症によるRA系亢進や,内臓脂肪の蓄積によるインスリン抵抗性による糖代謝異常や脂質代謝異常の発現が指摘されている。
治療目標を血清尿酸値6.0mg/dL 以下とし、血清尿酸値を下げるために過食・高プリン・高脂肪・高蛋白質食嗜好,常習飲酒,運動不足などの生活習慣の改善を指導する。
CKDでしばしば用いられる利尿薬(サイアザイド系・ループ系) は血清尿酸値を上昇させるため,高尿酸血症出現時は,注意深く使用し減量・休薬も考慮する。
痛風発作時の治療として行われるNSAIDs短期問大量投与は,CKD症例では腎機能低下のリスクが高いため避けることが望ましく、その場合は副腎皮質ステロイド薬を経口投与して関節炎を沈静化させる方法がある。
腎機能低下時は尿酸生成抑制薬であるアロプリノールが第一選択薬となるが,その活性代謝物である血中オキシプリノールの消失遅延が,重篤な副作用発現に関連するため,腎機能の程度に応じてアロプリノールの用量調節が必要である(オキシプリノールは腎排泄率約70%) 。
ベンズブロマロンの薬理作用は腎機能を利用しているため,ステージ4以上では効果が現れにくく,重度の腎障害ではほぽ無効である。
透析患者とビタミン
透析患者では透析によって水溶性ビタミンが除去されるため, 水溶性ビタミンを補った方がよいとされる。
参考書籍:調剤と情報2016.5
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