2025年11月3日更新.2,664記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

記事

薬による体液の着色 ―尿や便以外のからだの色変化

「尿や便だけじゃない」薬による色の変化

薬によって尿や便の色が変わることは比較的よく知られています。
たとえば鉄剤で黒便、リファンピシンで赤い尿――これらは多くの添付文書にも記載されています。

しかし、薬の影響で色が変わる体液は、尿や便だけではありません。
唾液、痰、汗、涙、歯、爪、皮膚なども、薬の化学的性質や代謝の影響を受けて変色することがあります。

あまり注目されない「尿・便以外の体液の着色」を中心に、
どんな薬で、なぜ起こるのかを勉強していきます。

着色のメカニズム ――体の中で何が起こっている?

薬による着色の多くは、次の3つのパターンに分類されます。

① 酸化・還元反応:薬やその代謝物が空気や光により酸化されて黒褐色化➡レボドパ、メチルドパ
② 代謝産物の色素排泄:代謝後の物質が赤や青などの色を持って排泄される➡リファンピシン、エンタカポン
③ 添加物や薬剤そのものの色素:錠剤に含まれる着色剤が唾液などに溶け出す➡フルニトラゼパム(サイレース)

薬の種類や服用環境(pH、光、酸化状態)によって、同じ薬でも色の出方が変わることがあります。

唾液の着色 ――「黒い唾」「青い唾」が出ることも

● レボドパ製剤(マドパー、メネシットなど)
パーキンソン病治療薬であるレボドパは、唾液や歯の黒ずみを起こすことがあります。
レボドパは酸化されやすい性質を持ち、アルカリ性条件下でメラニン様の黒褐色色素を生成します。

特に酸化マグネシウム(便秘薬など)を併用していると口腔内がアルカリ性になり、黒変が起こりやすくなります。
唾液の変色は一過性で害はありませんが、歯や入れ歯への沈着として残ることがあります。

● 鉄剤(フェロミア、インクレミンなど)
液剤やチュアブル錠を長く口に含んでいると、鉄が酸化して黒ずみが出ます。
歯の表面に沈着しやすいため、服用後は口をゆすぐよう指導します。

● フルニトラゼパム(サイレース)
サイレースは睡眠薬ですが、悪用防止のために青色の着色剤が添加されています。
錠剤のコーティングが口内で溶けると、唾液や舌が青色になることがあります。
この現象は安全対策として意図的に設計されたもので、体への害はありません。

痰の着色 ――介護現場で最も気づかれやすい変化

尿や便は目に触れにくくなりましたが、痰の色は介護者や医療者が直接目にする機会が多い体液のひとつです。
痰の色変化には、感染や喀血などの病的要因もありますが、薬剤性の着色も少なくありません。

● 黒い痰
レボドパ製剤による唾液の黒変と同様、痰にもメラニン様の黒色が混ざることがあります。
レボドパの酸化によって生成した黒色重合体が呼吸器分泌物に混じるためで、
他の症状(発熱・咳・呼吸困難など)がなければ薬剤性と考えられます。

● 赤い痰
リファンピシン、エパルレスタット、エンタカポンなどの代謝物が赤色~橙色を帯びることがあります。
血痰と見間違えやすい色調ですが、痛みや咳出血がなければ薬剤性の可能性が高いです。

● 青い痰
サイレース(フルニトラゼパム)を服用中に、口腔内の青い着色剤が痰に混ざることがあります。
介護スタッフが「青い痰が出た」と驚くことがありますが、これは添加色素による無害な現象です。

汗の着色 ――衣類が染まるほどのことも

● リファンピシン(リファジン)
リファンピシンは、結核やMRSA感染症治療に使われる抗菌薬です。
体内で代謝された色素が汗・涙・尿・便に排泄されるため、全身の体液が橙赤色に変化します。
白い寝具や衣類がオレンジ色に染まることもありますが、これは無害で一過性です。

● クロロキン、アミオダロン
長期服用で皮膚や汗腺部が灰青色になることがあります。
これは薬がメラニン顆粒や脂質に結合し沈着することが原因です。
特に光が当たる部位で顕著になるため、「顔だけ灰色がかる」ような訴えもあります。

涙の着色 ――コンタクトレンズへの着色に注意

● リファンピシン
汗と同様に、涙も橙色を帯びることがあります。
使い捨てコンタクトレンズに色素が吸着し、ピンク色~オレンジ色に染まることがあるため注意が必要です。
視力や眼球への影響はありませんが、装用中は色移りを避けるため、治療期間中はメガネ使用を勧めます。

● リバビリン
C型肝炎治療薬で、まれに涙や唾液が黄褐色に変化することがあります。
代謝物の排泄によるものであり、自然に戻ります。

歯や舌、爪、皮膚の着色も“体液変化”の一種

薬の影響は体液だけでなく、皮膚や爪、歯などの体表構造物にも現れます。
これも薬が分泌液(唾液・汗など)を介して沈着するため、「広義の体液性変化」と言えます。

● 歯・舌
鉄剤:歯面の黒ずみ。服用後に水やお茶で口をゆすぐと防げます。

クロルヘキシジン(口腔殺菌薬):歯面や舌に茶褐色の沈着が生じることがあります。

● 爪
ミノサイクリン:灰青色の爪変色を起こすことがあります。

アミオダロン:光線過敏と沈着による青灰色変化。

● 皮膚
クロロキン、ミノサイクリン:長期使用で顔や手の皮膚が青黒くなることがあります。

金製剤(リドーラなど):金が沈着して皮膚が紫灰色を呈することがあります。
これらは長期蓄積による沈着性変化で、薬を中止してもすぐには消えません。

薬剤性の着色と病的変化をどう見分ける?

薬による着色は多くの場合、体に害のない一過性の現象ですが、
病気による体液の色の変化を見逃してはいけません。

体液薬剤性の特徴病的な特徴
唾液黒や青、服薬時に出現。無症状。血や膿が混じる、悪臭あり。
鮮やかな色(赤・青・黒)で軽度。咳や発熱を伴わない。血痰・膿性痰・泡沫痰など症状を伴う。
全身均一の色調変化。無臭。局所的な黄染(感染)や異臭。
薬服用中にオレンジ~赤。無痛。血性涙、痛み、腫脹あり。
皮膚均一な灰色・青色調。長期服用時。斑点状、紅斑、かゆみ、発疹を伴う。

症状を伴う場合や急激な変化がある場合は、薬剤性に限らず感染・出血・炎症の可能性を考え、
自己判断せず医療機関を受診するよう指導します。

医療者・介護者ができる説明と配慮

医療・介護の現場では、こうした着色を見た家族や介護スタッフが「血が混じっているのでは」と不安を感じることがあります。
薬剤による色変化を理解しておくことは、過剰な心配や誤解を防ぐうえで重要です。

薬剤師として説明するときのポイントは次の通りです。

「薬の化学的性質による一時的な色変化で、体に害はありません」
「他の症状(痛み・発熱・咳・出血)がないかを確認しましょう」
「リファンピシンやフルニトラゼパムでは衣類・レンズの着色にも注意してください」

また、介護現場では観察記録に「薬剤服用中による着色の可能性あり」と一言添えるだけで、
不必要な検査や混乱を防ぐことができます。

まとめ ――“色の変化”は薬が働いている証拠かもしれない

・薬による体液の着色は、尿や便に限らず、唾液・痰・汗・涙・皮膚・爪などにも起こる。
・原因は、酸化反応、代謝産物の排泄、添加色素など。
・多くは無害で一過性だが、病的変化との見極めが必要。
・医療者があらかじめ説明しておくことで、患者や家族の不安を減らせる。

体液の色は、体の状態を映し出す小さなサインです。
それが薬の作用によるものか、病気の兆候かを正しく見分けることが、安心して薬を使う第一歩になります。

コメント


カテゴリ

検索

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

プロフィール

yakuzaic
名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック
薬剤一覧ポケットブックの表紙

SNS:X/Twitter
プライバシーポリシー

最新の記事


人気の記事