2025年7月9日更新.2,512記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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妊娠中に飲んではいけない花粉症の薬は?

妊娠中に飲んではいけない花粉症の薬と安全な治療選択肢

花粉症は春先から秋にかけて多くの人を悩ませる非常に一般的なアレルギー疾患です。
そのつらい症状は、妊娠中であっても決して例外ではありません。しかし、妊娠中は薬の選択に一層の注意が必要です。胎児への影響が完全に否定できない以上、薬をむやみに使うことはできません。

妊婦が避けるべき花粉症の薬、安全に使用できると考えられている治療薬、治療の進め方の目安を勉強します。

妊娠中に花粉症治療薬を使う際の基本的な考え方

まず大前提として、ほとんどの薬には妊婦を対象とした大規模な臨床試験が行われていません。
そのため、添付文書上も「妊婦への安全性は確立していない」「投与しないことが望ましい」と記載されているものが多くあります。

ただ、薬を一切使わないという選択肢も、症状が強い場合には現実的ではありません。
特にアレルギー性鼻炎によるくしゃみや鼻閉、目のかゆみは、生活の質を著しく低下させるだけでなく、睡眠障害や食欲不振につながることもあります。

妊娠中の薬物治療では、リスクとベネフィットを慎重に天秤にかけ、最小限の用量・最短の期間で治療するという考え方が基本です。

妊婦に比較的安全性が高いとされる薬

国内外で一定の使用実績があり、比較的安全性が高いとされる薬も存在します。

クロルフェニラミン(マレイン酸クロルフェニラミン)
・第1世代の抗ヒスタミン薬
・妊娠中に長く使われてきた
・添付文書では「慎重投与」扱いだが、複数の研究で奇形の増加は報告されていない
・経口薬の第一選択とされることが多い

眠気などの副作用は強いものの、妊娠初期も含め使用実績が最も豊富です。

ロラタジン(クラリチン)
・第2世代抗ヒスタミン薬
・海外では第一選択として推奨される
・大規模コホート研究で催奇形性の増加は確認されていない
・眠気が少ない

近年では眠気の少ない薬が必要な場合の選択肢として考慮されます。

セチリジン(ジルテック)
・第2世代抗ヒスタミン薬
・妊娠中の使用経験が比較的多く、海外では安全性が支持される

ただし、日本国内では添付文書上は「安全性が確立していない」とされています。

妊娠中に禁忌とされる花粉症の薬

一方、動物実験や疫学調査でリスクが指摘され、添付文書に「禁忌」と明記されている薬もあります。 特に以下の薬剤は妊婦に処方してはいけないとされています。

薬剤と禁忌理由
・アレギサール:ラットで大量投与により胎児発育遅延
・リザベン:マウスで骨格異常の増加
・オキサトミド:ラットで口蓋裂、合指症、指骨形成不全などの催奇形性

オキサトミドは花粉症や蕁麻疹の治療で比較的よく使用されますが、妊婦への投与は厳禁です。
特に注意したいのは、「他の薬が効かないから」「いつも使っているから」という理由で漫然と使用されてしまうケースです。

妊婦に注意が必要な抗アレルギー薬

「禁忌」ではないものの、「投与しないことが望ましい」とされる薬も多数あります。
代表的なものを整理します。

・レスタミン(ジフェンヒドラミン)
・タベジール(クレマスチン):妊婦における疫学調査で先天異常リスクが示唆される結果もある
・アリメジン
・ピレチア
・ヒベルナ
・ゼスラン
・タリオン
・アレジオン:ラットで受胎率低下や胎児致死作用報告
・アゼプチン:動物実験で高用量により催奇形性
・キプレス/シングレア(モンテルカスト):海外の市販後調査で先天性四肢奇形報告(因果関係不明)
・セレスタミン:ステロイド成分(ベタメタゾン)が胎盤透過性高い

これらは「禁忌ではないが、必要性が高い場合にのみ慎重に検討する薬」です。

セレスタミンなど配合薬に潜むリスク

特に注意したいのが、セレスタミン(d-クロルフェニラミンとベタメタゾンの配合薬)などのステロイド含有薬です。

妊娠中にステロイドを使用すると、動物実験では胎児の発育異常や副腎機能障害が報告されています。
ベタメタゾンは胎盤を透過しやすく、理論上リスクが高いと考えられるため、妊娠中に漫然と使わないことが極めて重要です。

また、患者自身が「花粉症の薬」としか認識しておらず、ステロイド配合だと知らずに服用しているケースもあります。

妊娠中に抗ヒスタミン薬を使うリスクの認識

妊娠初期(特に4週〜10週)は胎児の重要な器官が形成される「絶対過敏期」で、薬剤の影響が最も大きいとされます。

過去のつわり治療薬の例では、実際には催奇形性が明確に否定されていたにもかかわらず、社会的な不安が過剰に膨れ上がり、結果的に薬の使用が制限され妊婦の入院が倍増しました。

このエピソードから学ぶべきは、

・ベースラインリスク(何もせずとも3〜5%程度の先天異常は起こる)を正しく理解する
・妊婦への説明では「絶対に安全」「絶対に危険」と断言しない
・不安を必要以上にあおらない

ことです。

妊婦の花粉症治療の基本ステップ

妊娠中に花粉症治療を行う際は、以下のステップで治療を考えます。

●非薬物療法
・マスク、メガネ、衣類の工夫
・外出制限、花粉除去

●局所療法の優先
・点眼薬、点鼻薬
・母体血中移行が少ない
・長期使用可
・妊娠中は第一選択

●どうしても内服が必要な場合
・妊娠初期を避ける
・クロルフェニラミンを第一選択
・眠気が問題ならロラタジンを考慮
・最小用量・最短期間にとどめる

妊娠中に安全とされる点鼻薬・点眼薬

点鼻薬や点眼薬は局所作用であり、母体血中濃度が極めて低いとされます。
・クロモグリク酸ナトリウム点鼻薬(インタール点鼻液)
・ケトチフェン点眼薬
これらは比較的安全に使える選択肢です。

まとめ:妊婦と花粉症薬の向き合い方

妊娠中の花粉症治療では、
・まず非薬物療法を徹底
・局所療法(点眼・点鼻)を第一選択
・どうしても経口薬が必要ならクロルフェニラミン・ロラタジンを検討
・禁忌の薬や漫然投与を避ける

妊娠中の薬の使用はゼロリスクにはなりません。
しかし、治療を全て放棄して妊婦が強い苦痛に耐える必要もありません。

不安を感じる方は、産婦人科医や薬剤師に相談しながら安全性の高い治療を選ぶのが大切です。

3 件のコメント

  • さおり のコメント
         

    半年前から慢性蕁麻疹に悩まされ、皮膚科で治療を続けています。
    タリオンを朝と晩、一日二回をひたすら飲み続けて、
    お薬を飲んでいれば症状は落ち着いているのですが、先生に相談して一日一回晩だけに減らすと、とたんに蕁麻疹が出るので、結局お薬を減らすことができずに、一日二回にもどすしかない状態でいます。
    ただ蕁麻疹の治療と向き合うだけなら、これほど頭を悩ますほどの苦痛はありませんが、私は現在35歳で、一年前に結婚し、主人も私も妊娠・出産を強く希望しています。年齢的な時間制限を考えると、今すぐにでもできることなら出産を考えていきたいのですが、お薬をちっとも減らすことができない今の状況に、強いあせりを感じています。
    何度も、お薬を減らす事に挑戦し成功しないので、半年飲み続けてきた『タリオン』から、今日はじめて『ロラタジンOD』というお薬に変わり、一日一回晩に2錠で処方されました。

    この半年間、お薬をやめてからの妊娠を望んで 蕁麻疹の治療に向き合ってきましたが、このまま時間ばかりがたってしまうのが怖いし、だからといって、このようなお薬を長い期間のみ続けているので、赤ちゃんへの影響を考えると、やはり、このまま蕁麻疹の治療を続けるしかないのかと思っています。

    一週間前に、一年ぶりの婦人科検診に行った際、婦人科の先生に蕁麻疹の話をしたところ、『お薬をやめてからの妊娠が好ましいが、妊娠が分かったらお薬をやめればいい。』とのお話だったので、少し安心したのですが、私の場合 長くお薬を飲んでいることと、お薬を減らす事に何度も失敗しているので、妊娠後にお薬を一切飲まなくできるのかも、気になります。

    妊娠・出産への不安で、よけいに蕁麻疹も良くならないでしょうか? 
    息詰まってしまった私に、いいアドバイスをくださいませんか。

  • yakuzaic のコメント
         

    コメントありがとうございます。

    妊娠・出産を考えると、薬を飲み続けることに不安を持つこと、よくわかります。

    うちの奥さんも、精神系の薬や甲状腺疾患の薬を飲みながら、妊娠しました。

    精神系の薬は止めましたが、そのせいか不安定になることもしばしば。
    でも今は落ち着いています。

    子供に何か影響が出ないか、不安が無いと言えば嘘ですが。
    薬を飲んでも飲まなくても、3%くらいの割合でなんらかの異常を持って生まれてくると言います。
    薬の影響か、別の要因か、なんて結果的にはわからないので、最終的には運命として受け入れるしか無いだろうな、と思いますが。

    妊娠や出産をすると体質が変わるとも言います。

    もしかすると、妊娠したら蕁麻疹が治るかも。
    うちの奥さんのバセドウ病も治るといいな。

    アドバイスにも何もなっていないかも知れませんが。

  • さおり のコメント
         

    お返事ありがとうございます。
     
    実際に同じような思いをもっておられる方や、気持ちが分かってもらえる方の話が聞けると、少し気持ちが和らぎます。 

    出産への年齢的なあせりと、お薬の影響を考えるとすべての心配はぬぐうことは簡単ではありませんが、
    妊娠・出産を機に良い方に体質が変わってくれるということを信じたいです。

    お薬をやめられたとしても、子作りを始めてすぐに赤ちゃんを授かれるのかも分からない事なので、少しの可能性を信じて、やはり、あきらめたくないと思います。  

    同じような悩みを持ちながら、無事に出産してみえる方も実際にはたくさんいらっしゃるだろうし、
    お薬を飲まない健康な方であっても、元気な赤ちゃん
    の顔を見られるまで 絶対の安心はない事でしょうから。

    心配をしだすときりがないし、あまりに悩みすぎて気持ちが疲れてしまうので、あまりお薬のことばかりに神経質になり過ぎないよう意識したいと思います。 

    奥様もお元気になられるといいです。
    お返事ありがとうございました。

     

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yakuzaic
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職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック
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