2025年7月5日更新.2,510記事.

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痛風の痛みにアスピリンを使っちゃダメ?

痛風の痛みにアスピリンを使っても大丈夫?

痛風発作は「風が吹いても痛い」と表現されるほどの激烈な関節痛を伴います。いざ発作が起きたとき、「手元にあるアスピリンで痛みを抑えられないだろうか?」と思う人もいるかもしれません。しかし、実はアスピリンは痛風の痛みに使うべきではない薬とされています。なぜアスピリンが推奨されないのか、そしてその根拠を、勉強していきます。

アスピリンの効能に「痛風」?その真相

医療用のアスピリン(アスピリン末、バイアスピリンなど)は、抗炎症・解熱鎮痛・抗血小板薬として使われています。添付文書の「効能・効果」には「関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、外傷後・術後の消炎・鎮痛、急性上気道炎の解熱・鎮痛」などの他に、製品によっては「痛風」も記載されています。

一見、「アスピリンって痛風にも使えるんだ」と思いがちですが、実際の臨床現場では、痛風発作時にアスピリンを使うことは推奨されていません。なぜなのでしょうか?

アスピリンが痛風に推奨されない理由

● 尿酸の排泄を阻害する作用
アスピリンはその投与量に応じて、腎臓での尿酸の排泄に対して二相性の作用を示します。

投与量と尿酸への影響
・少量(<2g/日) 尿酸排泄を抑制(血清尿酸値↑)
・大量(>3g/日) 尿酸排泄を促進(血清尿酸値↓)

一般的な鎮痛・解熱用途でのアスピリンの使用量(1g前後)は、この「尿酸排泄抑制域」に相当し、血清尿酸値を上昇させる方向に働きます。つまり、痛風発作の原因である高尿酸状態をさらに悪化させる可能性があるのです。

● 痛風発作中は尿酸値の変動がリスク
痛風発作の最中に血清尿酸値が急に変動すると、関節内の尿酸塩結晶が刺激され、炎症が悪化する恐れがあります。そのため、「痛風発作中は尿酸値を動かさない」ことが基本です。

これは、アロプリノール(ザイロリック)やフェブキソスタット(フェブリク)といった尿酸降下薬も同様で、これらは発作が治まったあとで開始するのが原則とされています。

アスピリンが少量でも尿酸値に影響を与える以上、発作時には避けるべき薬剤なのです。

ガイドラインでも「アスピリンは避けるべき」

日本痛風・高尿酸血症学会の『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』でも以下のように明記されています。

「アスピリンは少量投与で血清尿酸値を上昇させ,大量投与で低下させる。鎮痛作用を発揮する量では血清尿酸値を低下させる作用があるが、痛風発作中に尿酸値を変動させると関節炎が重症化することがあるため、発作時にはアスピリンは避けるべきである。」

したがって、たとえ効能・効果に「痛風による痛み」と書かれていたとしても、実臨床では使用が避けられる理由がここにあります。

他のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)はどうか?

「じゃあ、代わりにロキソニンやボルタレンなら大丈夫なのか?」と思うかもしれません。

結論から言うと、ロキソプロフェン(ロキソニン)やジクロフェナク(ボルタレン)などのNSAIDsは、実際には痛風の痛みへの第一選択薬として使われていますが、添付文書上の「適応症」には「痛風」が明記されていない製品が多いのです。

● 承認適応外だが実臨床では使用
ボルタレンについては製薬会社のFAQでも以下のように記載されています。

「痛風や偽痛風への適応は取得していないが、プロスタグランジンを介した炎症であるため、NSAIDsの投与で効果があるとされ、実臨床では用いられることがある。」

これは「エビデンスはあるが、適応は取れていない」状態の好例であり、医師の裁量で使われている場面です。

では、どの薬を使うのが正解?

痛風発作時の基本治療は以下の3つ:
・NSAIDs(例:ロキソニン、ボルタレン、インドメタシン)
・コルヒチン(コルヒチン錠)
・ステロイド(プレドニゾロン等)

アスピリンはその中には入っておらず、むしろ避けるべき薬剤に分類されます。とくに患者が高尿酸血症の背景を持っていたり、慢性的な尿酸コントロールが必要なケースでは、アスピリンの少量でも尿酸動態を狂わせてしまうリスクがあります。

バイアスピリン(低用量アスピリン)はどうする?

バイアスピリン(アスピリン腸溶錠100mg)は、心筋梗塞や脳梗塞の再発予防のために使われている患者が多く、痛風を併発しているケースも珍しくありません。

このような場合、「痛風発作が起きたときにバイアスピリンは中止すべきか?」という疑問が生じます。

● 添付文書には禁忌記載なし
実際、バイアスピリンの添付文書上には「高尿酸血症」や「痛風」に関する禁忌・慎重投与の記載はありません。そのため、基本的には急に中止する必要はなく、続けたまま他の薬で痛風発作をコントロールするという判断が多いです。

ただし、重度の発作で炎症が激しい場合や、尿酸値が大きく変動している場合には、医師の判断で一時的に中止することもありえます。

痛風の語源と「風が当たっても痛い」の真実

痛風という名前は「風が当たっただけでも痛む病」と説明されることが多いですが、実際には「風=病気」という意味合いを持つ古代中国医学由来の言葉で、必ずしも“風が直接痛みの原因”というわけではありません。

ただし、発作時には本当に布団が触れるだけで激痛になることもあり、誇張でも比喩でもなく、強烈な痛みが特徴であることは確かです。

痛風発作は尿酸値が高いときに起こる?

痛風発作時=尿酸値が高い、という誤解をしている人は多いですが、実際には発作中に尿酸値が下がっていることもあります。

これは、発作によって炎症性サイトカイン(IL-6など)が分泌され、尿酸の排泄が一時的に促進されるためです。つまり、痛風発作時の血液検査で尿酸値が正常範囲内であっても、痛風発作である可能性は否定できません。

まとめ:痛風発作時にアスピリンは避けるべき

・アスピリンは少量で尿酸排泄を抑制するため、痛風発作を悪化させるリスクがある。
・ガイドラインでもアスピリンは痛風発作時に避けるよう記載されている。
・他のNSAIDsが実臨床では使用されているが、添付文書上は適応外のものが多い。
・バイアスピリンは基本的に中止不要だが、症例によっては医師が判断することもある。
・痛風発作中は尿酸値が下がっていることもあり、診断時は注意が必要。

痛風の患者に対して鎮痛薬を選ぶ際には、「痛みを抑えること」だけでなく、「尿酸動態に与える影響」まで考える必要があります。アスピリンが広く使われている薬であっても、痛風には使うべきではない理由があるのです。薬剤師としては、その処方意図を見抜き、医師と連携しながら患者への適切な指導を行っていくことが大切です。

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