2024年4月19日更新.2,754記事.

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帯状疱疹後神経痛にNSAIDsは効かない?

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帯状疱疹の痛みは残る

帯状疱疹にかかった後、痛みが残ることがあります。

帯状疱疹は、子供のころにかかった水疱瘡(水痘)の原因ウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)が皮疹の知覚神経を介して神経節に潜伏したものが、免疫力の低下などの原因で再び活性化し、皮膚に水ぶくれ状の症状が強い痛みを伴って現れるものです。

おもに体幹部に帯状に現れますが、時に顔や手足にもみられることがあります。

早期の診断と治療で、1週間程度で痛みは治まり、皮疹も1ヶ月以内に軽快します。
しかし、皮膚症状が消失しても強い痛みや違和感だけが残り、その痛みの治療が続くことがあります。
この症状を「帯状疱疹後神経痛」といいます。

50歳以上の帯状疱疹患者の5人に1人がPHNを発症するという報告1)もあります。

このため、帯状疱疹の治療で最も重要なことは、帯状疱疹を発症した際にできるだけ初期の段階で抗ウイルス治療を開始し、皮疹の拡大を防ぐなどの対応を行なって、帯状疱疹後神経痛へ移行させないようにすることです。

帯状疱疹後神経痛とNSAIDs

怪我をした部位では炎症反応が生じてプロスタグランジンが産生されます。
痛み情報を増強し、身体のどこに怪我があるのかという警告信号を「痛み」として伝えやすくするのです。

NSAIDsはプロスタグランジンの産生を阻害するので、痛み情報が伝わりにくくなるという仕組みで鎮痛効果を発揮します。

しかし、帯状抱疹後神経痛などの痛みは、神経が傷ついたことで起こる痛みで、原因となる炎症反応などがなく痛み情報だけが伝わっている状態なので、NSAIDsのような鎮痛薬は効きにくいのです。

上行性痛覚伝導路と下降性痛覚伝導路

痛みの情報は、痛みの発生源から脳へ伝わります。
これを「上行性痛覚伝導路」といい、痛み情報が脳まで伝わると、そこで痛みが認知されます。
急性の痛みには警告信号の意味もありますから、怪我などにより痛みを発するときには、その部位より脳へのシグナルが流れます。脳で痛みを認知することにより、どのような行動を起こすかの意思決定をするわけです。

たとえば、何かの虫に刺されたときには、その虫を追い払うという行動をとることで危険から回避するというわけです。
一度脳で痛みが認知されると、今度は痛みを和らげる情報が「下降性痛覚伝導路」を伝わっていきます。
これが上行性痛覚伝導路の興奮を抑える役目も担うことで、総じて痛みが治まっていくのです。

帯状疱疹後神経痛の痛みには、上行性痛覚伝導路の活動性を抑えて脳への痛み情報の伝達を遮断するか、下降性痛覚伝導路を活性化する方法が有効です。
痛み発生部位から脳へ情報を伝える神経細胞は、細胞同士のつなぎ目であるシナプスで情報の伝達を行っています。
ここでは、情報を伝える側と情報を受け取る側の細胞がありますが、伝える側からの情報をもつ神経伝達物質が放出される部位には、電位
依存性カルシウムチャネルがあります。
これが活性化すると、細胞外からカルシウムイオンが細胞に流入し、伝達物質が放出されることによって、痛み情報が伝わっていくのです。

プレガバリンは、カルシウムチャネルのα2σサブユニットヘ結合し、チャネルの活性化を阻害します。
このことで、痛み情報が伝わらなくなり、帯状庖疹後神経痛や末梢神経障害性痔痛のようなやっかいな痛みが和らいでいくことになるのです。

帯状疱疹後神経痛治療薬

帯状疱疹後神経痛に使われる薬はたくさんありますが、適応があるのはノイロトロピンだけです。

帯状疱疹は、神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の回帰感染により引き起こされる疾患であり、全病期にわたって痛みを伴うことを特徴とする。具体的には、皮疹出現前の「前駆痛」に続いて、皮疹に伴って「急性期痛」が現れ、皮疹消退後も「帯状疱疹後神経痛(PHN)」が残る。これらの痛みのうち、炎症による「急性期痛」と神経変性に起因した「PHN」とでは、痛みの機序や種類が全く異なっている。

帯状疱疹の治療では、抗ウイルス剤を用いた治療とともに、急性期から痛みを十分にコントロールすることが重要とされる。神経損傷によってPHNに至ると、痛みの除去が極めて困難になるからである。PNHは、「焼けるような痛み」や「電気が走るような持続的な痛み」と表現されるような激痛であり、患者のQOLは大きく低下する。PHNの治療では、コデインリン酸塩や三環系抗うつ薬を投与したり、交感神経ブロックなどが行われるが、副作用等の問題から十分な治療が行えず、完全な除痛に至らない症例も多かった。

プレガバリンは、分子構造的には抗てんかん薬のガパペンチン(ガバペン)に類似しており、過剰に興奮した神経系において、各種神経伝達物質の放出を抑制する。具体的には、主に神経系に分布するカルシウムイオンチャネルのα2δサブユニットに結合して鎮痛作用を発揮する薬剤であり、従来の鎮痛薬とは全く異なる新しい作用機序の薬剤である。除痛効果が発現するまでの時間が短いことが特徴で、長期投与でも持続的な効果が得られることが確認されている。

欧米では、プレガバリンが、PHNの薬物治療ガイドライン/アルゴリズムの第一選択薬として位置付けられおり、さらにPHN以外にも、糖尿病などによる末梢神経障害性疼痛、成人のてんかん患者における部分発作の補助治療薬としても承認されている。

帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹は身体のどこにでも起こりますが、特に胸、背中、ひたい、腕が好発部位といわれています。

帯状疱疹の特徴は痛みを伴うことで、痛みは疱疹が出ている時の痛み(急性痛)と疱疹が消失しても残る痛み(慢性痛;帯状疱疹後神経痛)に分類されます。

急性痛は、軽いものから堪え難いほどの強い痛みまでさまざまで、患者さんの中には激しい痛みで何日も眠れない人も少なくありません。

一般的に、急性痛は疱疹が出てから14日前後にピークを迎え、疱疹の治癒後3~4週間で消失します。

しかし、疱疹が治癒した後も数カ月にわたって痛みが持続するケースがあります。

これがPHN(帯状疱疹後神経痛)で、この慢性痛は数年にわたって持続することも少なくありません。

PHNは軽微な接触刺激でも痛みが誘発される異痛症や持続的な灼熱痛等、堪え難い痛みが多く、仕事や家事ができなくなる患者さんもいます。

生理学的には、急性痛はウイルス感染による炎症性の疼痛ですが、PHNはウイルス感染によって神経組織が損傷されたことによる神経障害性疼痛です。

また、急性痛があまりに激しかったために痛みが記憶される心因性疼痛などもPHNの痛みに関与しています。

高齢者に注意

帯状疱疹後神経痛の痛みはさまざまな形態をとることがあります。

絶え間なく痛みが続く場合もあれば、何かのきっかけで再発したり、夜間や気温の変化などでも悪化することもあるなど、一定の症状をきたさない場合もまれではありません。

帯状疱疹後神経痛はウイルスによる神経の破壊が原因で発症するため、若年者とは異なり免疫機能の低下した高齢者では回復が困難となる場合が少なくありません。

そのため、高齢者に多く起こります。

50歳以上では帯状疱疹に罹患した人の半分近くに帯状疱疹後神経痛が発症するといわれています。

帯状疱疹後掻痒

帯状疱疹患者の30~60%はかゆみを訴える。

急性期のかゆみは皮膚症状の炎症による末梢性掻痒だが、慢性期にまでかゆみが遷延すれば帯状疱疹後掻痒(PHI)という神経障害性掻痒となる。

PHIは、一部初めからかゆみのみの症状を訴えるグループもいるが、当初強かった疼痛が次第に減弱するにつれてかゆみを訴えるケースが多い。

そのメカニズムとしては、脊髄後角レベルでの疼痛相当ニューロンの進行性変性によるかゆみ抑制の喪失などが想定されているが、未だ不明な点が多い。

参考文献
1)Sato, Keiko et al. “Burden of herpes zoster and postherpetic neuralgia in Japanese adults 60 years of age or older: Results from an observational, prospective, physician practice-based cohort study.” The Journal of dermatology vol. 44,4 (2017): 414-422. doi:10.1111/1346-8138.13639

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薬剤師

勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。

先生

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本の紹介

yakuzaic
yakuzaic/著
2023年09月14日発売

プロフィール

yakuzaic
名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
座右の銘:習うより慣れろ。学ぶより真似ろ。
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