2025年5月28日更新.2,481記事.

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マクロライドの下痢予防にセレキノン?

マクロライド系抗菌薬と消化器症状

マクロライド系抗菌薬は、上気道炎や肺炎、皮膚感染症などさまざまな細菌感染症に使用される有用な薬剤群です。代表的な薬剤にはアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)、クラリスロマイシン(クラリス)、エリスロマイシン(エリスロシン)などがあります。

しかし、マクロライド系抗菌薬はしばしば「下痢」や「軟便」といった消化器症状を引き起こすことで知られています。これは薬剤の薬理作用が腸管運動に影響を与えるためです。

モチリン受容体との関係:下痢のメカニズム

マクロライド系抗菌薬の中でも特にエリスロマイシンやアジスロマイシンは、「モチリン受容体」のアゴニストとして作用します。

モチリンとは、消化管ホルモンのひとつで、胃や小腸の蠕動運動を促進する役割を担っています。これらの抗菌薬がモチリン受容体に作用すると、消化管の運動が異常に活発になり、腸内容物の通過速度が速まってしまいます。

その結果として、腸内での水分吸収が不十分なまま便として排出されるため、軟便や下痢といった症状が出現するのです。いわば、マクロライドは「副作用としての消化管刺激作用」を併せ持っていると言えるでしょう。

ジスロマックと下痢の発現時期

アジスロマイシン(ジスロマック)の投与後に下痢が発生するのは珍しいことではありません。臨床の現場では、服用当日から数時間以内に症状が現れるケースも報告されています。

通常、このような下痢は一過性であり、多くの場合は1日程度で自然に軽快します。抗菌薬による腸内細菌叢の乱れというよりは、モチリン刺激による「薬理的な腸管運動亢進」によるものと考えられています。

とはいえ、患者にとっては服用後の急激な腹部不快感や下痢は不安の種でもあり、薬剤の服用継続に対する心理的な障壁にもなり得ます。

対策としてのセレキノン(トリメブチン)

こうした副作用に対処する手段として、近年注目されているのが「トリメブチンマレイン酸塩(商品名:セレキノン)」の併用です。

セレキノンは、消化管運動調節薬に分類され、過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシアなどに広く用いられています。セレキノンは消化管の過剰な収縮や緊張を緩和し、蠕動運動を正常化する作用を持っています。

マクロライド系抗菌薬による「モチリン様作用」が過剰な腸管運動を引き起こすのに対し、セレキノンはそれを穏やかに抑える働きがあるとされます。つまり、「運動のバランスを整える」ことで、薬剤性の下痢の発症を予防できるのです。

止瀉薬の使用は慎重に

下痢に対して即座に「ロペラミド(ロペミン)」などの止瀉薬を使用することもありますが、感染症治療中の下痢においては注意が必要です。

腸内に存在する病原菌やその毒素を排出する過程を妨げてしまう可能性があるため、「薬剤性の下痢」か「感染性の下痢」かを見極めることが大切です。

マクロライドによる下痢が薬理的なものであり、感染とは無関係である場合には、ロペラミドの使用も一つの手段ですが、まずは副作用の本質を把握したうえでの判断が求められます。

セレキノンは「予防投与」も選択肢

アジスロマイシンを初めて服用する患者や、以前に同様の抗菌薬で下痢を経験した患者には、あらかじめセレキノンを予防的に併用するという戦略も考えられます。

特に外来診療でジスロマックSR(1回投与の持続性製剤)を処方する際などは、初回の服用で副作用が強く出ると再受診を要するケースもあります。そうした事態を未然に防ぐ意味でも、セレキノンの予防投与は現実的なアプローチといえるでしょう。

まとめ:マクロライドと下痢対策

マクロライド系抗菌薬、とりわけアジスロマイシンやエリスロマイシンは、モチリン受容体刺激を介した下痢という副作用を有することが知られています。

その対応策として、腸管運動を調整するセレキノン(トリメブチン)の併用が非常に有用です。実際の臨床データからも、その効果は明らかであり、患者のQOL維持や服薬継続への支援にもつながります。

今後、感染症治療の場において「副作用への細やかな対応」が求められる中、こうした薬剤併用の工夫はますます重要になっていくと考えられます。

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