2025年9月12日更新.2,622記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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秤量誤差は何%まで?

秤量誤差は何%まで?薬局で知っておくべき基準と実務対応

薬局の調剤室では、散剤や水剤、軟膏などを調製する際に「秤量(ひょうりょう)」が欠かせません。患者さんに渡す薬を正確に量り取ることは、安全で有効な薬物治療を支える基本です。しかし現実には、分包した散剤の重量が理論値と完全に一致することはなく、必ず「誤差」が生じます。

では、この秤量誤差は何%まで許容されるのか。これは薬剤師にとって大切なテーマであり、調剤指針にも明確な基準が示されています。秤量誤差の考え方や基準値、実務での注意点について勉強していきます。

秤量誤差とは何か?

「秤量誤差」とは、本来量るべき量(理論値)と、実際に秤量された量の差のことを指します。

・例:10.0gを量るべきところ、9.8gになった場合 → 誤差 -2%
・例:0.5gを分包する予定で、0.53gになった場合 → 誤差 +6%

医薬品の調剤では、誤差が大きくなると過量投与や効果不足につながりかねません。そのため、あらかじめ「許容できる範囲」が定められているのです。

調剤指針に示される基準

「調剤指針(第13改訂、日本薬剤師会編)」には、散剤の分包に関する秤量誤差の基準が記載されています。

・分包単位ごとの重量誤差(変動係数):6.1%以下
・全量での誤差:2%以下

6.1%という数値の由来
分包散剤の重量は正規分布すると仮定されます。統計学的に、90%以上の分包が平均値の±10%の範囲に入るためには、変動係数(CV値)が6.08%以下であることが条件となります。
したがって、「6.1%以下」という基準は、90%以上の分包が理論値から±10%以内に収まることを意味しています。

2%という全量基準
例えば100gを秤量する場合、98g〜102gの範囲であれば許容範囲とされます。これは「分包機の付着やこぼれなどによる損失」を考慮した上で、患者に渡す薬の総量が大きくずれないように設定されています。

実務における秤量誤差の要因

実際の調剤現場では、誤差の要因は多岐にわたります。

・分包機への付着:粉がローラーや分包紙にくっつく
・粉の性状:吸湿性・静電気・粒度差による偏り
・環境条件:湿度や温度で粉の挙動が変化
・機械の調整不良:ローラー摩耗、センサーのずれ
・操作ミス:投入量の誤差、分包紙の折れなど

こうした要因が重なるため、実務的には「完全な一致」を目指すのではなく、「基準内に収まっているか」を確認することが重要です。

ハイリスク薬・TDM対象薬での扱い

調剤指針の6.1%・2%という数値は一般的な目安にすぎません。抗てんかん薬、免疫抑制薬、抗菌薬などTDM(Therapeutic Drug Monitoring)対象薬では、わずかな誤差が治療成績や副作用に直結することがあります。

そのため、

・TDM対象薬では秤量誤差を最小限に抑えること
・必要に応じて1包ごとの重量測定を行うこと
・個別薬ごとに「科学的根拠に基づいた基準」を設定すること

が推奨されます。

学術的背景:製剤学的に見た秤量誤差

薬学教育の製剤学分野では、散剤調剤における「均一性試験」が取り上げられます。日本薬局方(JP)では「内容均一性試験」や「重量偏差試験」が規定されており、錠剤やカプセルだけでなく散剤調製の考え方にも応用可能です。

・重量偏差試験:個々の製剤の重量が平均重量の一定範囲内に収まるか
・含量均一性試験:有効成分の含量が規定内にあるか

調剤室で行う分包は工業的製剤ほど厳密ではありませんが、「医薬品は常に一定の品質であるべき」という製剤学的原則を背景に、秤量誤差の許容範囲が設定されています。

薬局での監査の工夫

分包前後での重量確認
全量を量り、分包後に残量を差し引いて計算する。これにより全体誤差が分かります。

ランダムサンプリング
すべての分包を量るのは現実的ではないため、いくつかを抜き取り、重量誤差を確認する。

分包機の定期点検
メーカーの定期メンテナンスを受ける、センサーを清掃するなど、機械精度を維持することが大切です。

新人教育
学生や新人薬剤師には、「誤差は必ず出るが、基準値内に収めることが重要」という考えを理解してもらう必要があります。

患者安全の観点から

秤量誤差は単なる数字の問題ではなく、患者の安全に直結するリスク管理の一部です。特に小児や高齢者では薬物動態の変動が大きく、わずかな誤差が有害事象につながることもあります。薬剤師は常に「誤差の許容範囲」と「患者背景」を意識して監査を行うべきです。

まとめ

・調剤における秤量誤差は「分包単位で6.1%以下」「全量で2%以下」が基準
・6.1%という数値は、正規分布に基づき90%以上が±10%に収まる統計的な基準
・分包機の特性や粉の性状で誤差は避けられない
・TDM対象薬やハイリスク薬ではより厳密な管理が必要
・薬局では監査の工夫や機械点検を通じて誤差を最小限にすることが求められる

秤量誤差は単なる調剤技術の問題ではなく、患者に安全で確実な薬物治療を提供するための品質管理の一環です。日々の業務の中で、「誤差をいかに小さくし、基準内に収めるか」という意識を持ち続けることが薬剤師にとって重要な責務といえるでしょう。

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