2024年11月20日更新.2,474記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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前立腺肥大症の人は風邪薬を飲んじゃダメ?

前立腺肥大症と風邪薬

50歳以上の男性の2~3割は排尿困難を経験しています。

50歳以上の男性の8割ぐらいは前立腺肥大症です。

その全てに風邪薬を飲んではいけないと言うのはどうか。

前立腺肥大症には何段階か程度があって、残尿が発生する時期(残尿期)があるのです。

そういう場合に風邪薬を飲むと急性尿閉が起こりかねない。

それが危険なのです。

風邪薬を飲むと、膀胱の縮む力が抑えられます。

鼻づまりを治す成分には、膀胱の収縮力を抑えてしまう働きがあって、もともと排尿抵抗が高い状況でさらに排出量が弱まってしまうから、急性尿閉を起こします。

20歳ぐらいの人でも風邪薬で尿閉を起こすことがあって、前立腺肥大症だから風邪薬がいけないというわけではないのです。

もちろん「尿が出にくくなる可能性があります」という注意は必要ですし、「おかしいな、と感じたら、泌尿器科のお医者さんに相談してください」と超えがけはできるかも知れません。

ただ、風邪薬の作用時間は決まっているので、その作用時間が過ぎれば、ある程度改善していきます。

風邪で脱水にならないように水をたくさん飲んだら、当然尿が出ていきます。

そのようなときには、尿が出にくくなる症状が強くなるかもしれません。

PL顆粒で尿が出にくくなる

PL顆粒は抗コリン作用を有するプロメタジンメチレンジサリチル酸塩を含有しており、排尿困難を悪化させるおそれがあります。

そのため、「前立腺肥大などの下部尿路に閉塞性疾患のある患者」に対しては投与禁忌となっています。

パイロンPL顆粒を前立腺肥大症患者に売ってもいいか?

医療用の風邪薬、総合感冒薬でメジャーなPL配合顆粒がありますが、同じ成分の市販薬でパイロンPL顆粒という商品があります。

PL配合顆粒の成分は、1g中

サリチルアミド 270mg
アセトアミノフェン 150mg
無水カフェイン 60mg
プロメタジンメチレンジサリチル酸塩 13.5mg

パイロンPL顆粒の成分は、2.4g中

サリチルアミド 648mg
アセトアミノフェン 360mg
無水カフェイン 144mg
プロメタジンメチレンジサリチル酸塩 32.4mg

と記載されているが、全く同じ成分量である。

PL配合顆粒が1日4回の用法なのに対し、パイロンPL顆粒は1日3回であるので、市販薬のほうが服用量は少ないといえるかも知れない。しかし、PL配合顆粒も処方上は1日3回であることが多い。

このようにパイロンPL顆粒は、医療用と全く同じ成分であるので、PL配合顆粒と同様の注意が必要であると思われるのだが、禁忌項目は異なる。

PL配合顆粒の禁忌は、

1. 本剤の成分,サリチル酸製剤(アスピリン等),フェノチアジン系化合物又はその類似化合物に対し過敏症の既往歴のある患者

2. 消化性潰瘍のある患者[本剤中のサリチルアミドは消化性潰瘍を悪化させるおそれがある。]

3. アスピリン喘息又はその既往歴のある患者[本剤中のサリチルアミドはアスピリン喘息を誘発するおそれがある。]

4. 昏睡状態の患者又はバルビツール酸誘導体・麻酔剤等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者[本剤中のプロメタジンメチレンジサリチル酸塩は,昏睡状態の増強・持続,中枢神経抑制作用の増強や麻酔剤の作用時間の延長を来すおそれがある。]

5. 緑内障の患者[本剤中のプロメタジンメチレンジサリチル酸塩は抗コリン作用を有し,緑内障を悪化させるおそれがある。]

6. 前立腺肥大等下部尿路に閉塞性疾患のある患者[本剤中のプロメタジンメチレンジサリチル酸塩は抗コリン作用を有し,排尿困難を悪化させるおそれがある。]

7. 2歳未満の乳幼児[「小児等への投与」の項参照]

8. 重篤な肝障害のある患者[本剤中のアセトアミノフェンにより肝障害が悪化するおそれがある。]

たくさんありますね。

しかし、市販薬の禁忌に相当するパイロンPL顆粒の「してはいけないこと」には、

1.次の人は服用しないでください
 (1)本剤または本剤の成分によりアレルギー症状をおこしたことがある人
 (2)本剤または他のかぜ薬、解熱鎮痛薬を服用してぜんそくをおこしたことがある人
 (3)15才未満の小児
2.本剤を服用している間は、次のいずれの医薬品も使用しないでください
 他のかぜ薬、解熱鎮痛薬、鎮静薬、抗ヒスタミン剤を含有する内服薬など(鼻炎用内服薬、乗物酔い薬、アレルギー用薬、鎮咳去痰薬など)
3.服用後、乗物または機械類の運転操作をしないでください(眠気などがあらわれることがあります)
4.服用前後は飲酒しないでください
5.長期連用しないでください

と、PL配合顆粒の禁忌に比べると少ない。消化性潰瘍でも緑内障でも前立腺肥大症でも一応飲めるのである。

市販薬なので、長期服用に対しては「5~6回服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師または登録販売者にご相談ください」という注意書きもあり、その点ではリスクは少ないと言えるのかも知れませんが。

個人的には、医療用のPL配合顆粒の添付文書の記載をパイロンPL顆粒寄りにしてもらいたいところですが、「風邪ごときに医療用医薬品を使うな」という傾向であろうと思うので、むしろ薬価削除しちゃったほうが良いんじゃねーかとも思う。

麻黄で排尿障害?

前立腺肥大症には、PL顆粒などの総合感冒薬が禁忌となっている。
そのため、漢方薬の葛根湯なら安全だろうと、処方する医師も多いが、葛根湯に含まれるエフェドリンによる排尿困難の恐れもあり、葛根湯は前立腺肥大症に慎重投与となっているため、漢方薬なら安心とは言い切れない。

麻黄による排尿困難の作用機序:
麻黄にはエフェドリンが含まれる。
エフェドリンはアドレナリンα受容体刺激作用によって膀胱括約筋を収縮し、β2受容体刺激作用によって膀胱平滑筋を弛緩し、腹圧性尿失禁の治療薬として用いられている。
しかしその一方で、膀胱括約筋の収縮の程度によっては排尿困難を発症しうる。

前立腺肥大症の患者には、麻黄を含まない桂枝湯などが勧められる。

薬剤師

勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。

先生

そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。

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