記事
パーキンソン病と便秘の関係
公開. 更新. 投稿者:パーキンソン病.この記事は約3分58秒で読めます.
2,792 ビュー. カテゴリ:目次
パーキンソン病の便秘は軽視できない

パーキンソン病というと、手のふるえや筋固縮などの「運動症状」が注目されがちですが、実は便秘をはじめとする消化管症状が、しばしば運動症状よりも早く現れることが知られています。パーキンソン病患者に対して下剤が多く処方されている背景には、単なる生活習慣では説明できない、病態に深く関わる「便秘の仕組み」があるのです。
パーキンソン病と便秘:なぜ起こるのか
● 抗パーキンソン薬による副作用
たしかに、抗コリン薬(例:アーテン[トリヘキシフェニジル])は腸の蠕動を抑制するため、便秘の副作用を生じることがあります。しかし、抗コリン薬が処方されていなくても、パーキンソン病患者には便秘が多く見られます。
これは薬剤性にとどまらず、病態そのものに便秘を引き起こす要因があることを示しています。
● 食事・運動の変化による便秘
・摂食量の低下:病気により食欲が減退し、便の材料が不足
・運動量の低下:活動性が下がり、腸管運動が鈍化
・水分摂取の不足:脱水傾向も重なり、便が硬くなる
・嚥下障害:進行すると水分摂取がさらに困難になる
これらは一般高齢者にも見られる要因ですが、パーキンソン病ではより顕著に進行します。
● 自律神経障害による腸管機能低下
パーキンソン病は中枢神経の疾患ですが、腸管神経(腸の自律神経)にもレビー小体が形成されることがわかっています。これにより、以下のような症状が出現します:
・腸の蠕動運動の低下(食物の通過遅延)
・排便反射の低下
・肛門括約筋の緊張亢進による排便困難
また、腸の活動を促すドパミンの欠乏も、蠕動低下に拍車をかけます。
非運動症状としての便秘:早期マーカーか?
近年注目されているのが、便秘がパーキンソン病の数年~十数年前に現れるという報告です。これは単なる併発症ではなく、「病気の前兆」である可能性を示唆しています。
・便秘が発症5年以上前に現れることも
・胃の排出遅延(胃無力)などの上部消化管症状も併存
● 腸から始まるパーキンソン病仮説
一部研究では、腸内環境の異常が迷走神経を介して中枢へ波及することで、パーキンソン病が発症するという「腸起源仮説」が提唱されています。
腸内細菌との関連性
腸内細菌とパーキンソン病の関係も、近年盛んに研究されています。
● プレボテラ属の減少
パーキンソン病患者の糞便中では、プレボテラ属(Prevotella)の減少が確認されています。この菌は粘液層の維持、短鎖脂肪酸の産生などに関わり、腸のバリア機能や炎症調整に寄与しています。
この変化が神経炎症を誘導し、腸管から脳へのレビー小体形成のきっかけになる可能性も指摘されています。
臨床における便秘対策
● 非薬物療法
・水分・食物繊維の摂取増加(嚥下機能に注意)
・規則的な排便習慣(同じ時間にトイレに座る)
・排便姿勢の工夫(前傾・足台使用)
・可能な範囲での身体活動(歩行・体操)
● 薬物療法
薬剤名 | 分類 | 特徴 |
---|---|---|
酸化マグネシウム | 浸透圧性下剤 | 便を柔らかくし自然排便促進 |
ピコスルファート | 刺激性下剤 | 直腸刺激による排便促進(常用注意) |
モビコール | 電解質バランス型下剤 | 水分保持+腸管通過促進 |
アミティーザ | Cl-チャネル活性化薬 | 腸液分泌を促進 |
グーフィス | 胆汁酸トランスポーター阻害薬 | 腸管刺激+分泌促進 |
便秘改善により、L-ドパ製剤の吸収安定化や運動症状の改善が期待できる点も重要です。
便秘とパーキンソン病の「因果関係」
便秘があるからといってパーキンソン病になるとは限りませんが、便秘の存在が発症リスクを示唆する兆候になりうる可能性はあります。
また、「便秘を予防すればパーキンソン病を防げる」という明確な因果関係はまだ証明されていませんが、腸内環境を整えることが神経系への影響を緩和するという観点からは、腸ケアの意義が注目されています。
まとめ:便秘はパーキンソン病の重要な非運動症状
・パーキンソン病では運動症状より早く便秘が出ることが多い
・原因は自律神経障害、腸内細菌変化、生活変化、薬剤など多因子
・便秘はL-ドパ吸収やQOLに大きく関わるため、対処は重要
・腸と脳のつながりに注目した研究が進んでいる
便秘は単なる不快症状ではなく、病態の一端を反映するサインです。医療者は便秘への対応を「補助的なケア」としてではなく、パーキンソン病全体のマネジメントの一部として捉えることが求められます。
2 件のコメント
パーキンソン病薬をやめたら下剤は不要になった。
シェアさせていただきます。