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大人のあせもが増えている?
公開. 更新. 投稿者:皮膚感染症/水虫/ヘルペス.この記事は約4分23秒で読めます.
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大人のあせもが増えている?

かつては乳幼児に多いとされていた「あせも(汗疹)」ですが、最近では大人のあせもも増加傾向にあります。高温多湿な気候や冷房との温度差、さらにはホットヨガ・岩盤浴・半身浴といった発汗を促す健康法の流行などが背景にあると考えられます。
薬剤師としては、かゆみや炎症を抑えながら、二次感染を防ぐための適切な対応と薬剤選択が求められます。
「あせも(汗疹)」とは?
汗疹(かんしん)とは、汗が皮膚の表面にうまく排出されず、汗管(汗を運ぶ管)の中にたまってしまい、その汗が周囲の組織に漏れ出すことで炎症を引き起こす状態を指します。
通常は汗とともに老廃物が皮膚表面へと排出されますが、何らかの理由でその通り道が塞がれると、皮膚内部に汗が滞留してトラブルを招くのです。
汗疹の種類と特徴
汗疹にはいくつかのタイプがあり、それぞれで症状や対応が異なります。
水晶様汗疹(白いあせも)
皮膚のごく表層で汗がたまり、小さな水ぶくれ(水疱)ができます。
かゆみは少なく、赤みもほとんどないのが特徴。
通常は数日で自然に治癒します。
紅色汗疹(赤いあせも)
汗管のやや深い部分で詰まり、炎症を伴うタイプ。
強いかゆみ、チクチクした痛みを感じることがあります。
数日から1〜2週間続く場合もあり、掻きむしりによる悪化や感染に注意が必要です。
なぜ今、大人のあせもが増えているのか?
以前は乳幼児特有の皮膚トラブルとされていたあせもが、なぜ今、大人に増えているのでしょうか?以下のような要因が挙げられます。
①高温多湿な日本の気候
特に近年の日本の夏は、35℃を超える猛暑日が常態化し、湿度も高いため発汗が過剰になりやすく、あせもができやすい環境になっています。
②冷房と外気の温度差
電車やオフィスなどでは冷房が効いており、外との寒暖差によって自律神経のバランスが乱れ、皮膚のバリア機能が低下します。このバリア機能の乱れがあせもの発症リスクを高める要因となります。
③発汗ブームの影響
ホットヨガ、岩盤浴、半身浴など、「汗をかく=健康に良い」という考えのもと、積極的に発汗を促す行為が流行しています。これらの習慣が汗腺への負荷となり、汗管閉塞→汗疹という流れが生まれやすくなっています。
④ストレス性の発汗と衣服の摩擦
仕事中のストレスによる発汗、また下着やスーツなど通気性が悪く摩擦の強い衣類の着用も、あせもの発症や悪化に関わっています。
掻くことで「とびひ」リスクも
大人のあせもは、かゆみによる掻破行動がとびひ(伝染性膿痂疹)を引き起こすことがあります。特に、黄色ブドウ球菌が皮膚に存在している場合、あせも部分を掻き壊すことで傷口から菌が侵入し、炎症が広がってしまいます。
とびひは子どもだけの病気ではなく、大人でも不衛生な環境や免疫力の低下、皮膚バリアの破綻があると発症します。水疱が破れて滲出液が他部位へ広がると、急速に全身へ拡がることもあるため要注意です。
あせもに使われる医薬品とOTC薬
医療用として「汗疹」に適応がある外用薬には以下のようなものがあります。
● 医療用医薬品
カラミンローション:皮膚を保護しながら、かゆみや炎症を抑える作用。
カチリ:収れん作用や皮膚保護作用があり、炎症を和らげます。
これらは、主成分として酸化亜鉛や酸化鉄を含んでおり、保護膜を形成して皮膚刺激を抑制します。
● OTC薬(一般用医薬品)
薬剤名 | 主な成分・特徴 |
---|---|
カラミンローション | カラミン8g+酸化亜鉛8g。抗炎症・収れん作用。冷却・鎮痒効果あり。 |
汗疹用ステロイド外用薬 | ヒドロコルチゾン酪酸エステルなど。強い炎症やかゆみに使用。 |
抗ヒスタミン外用薬 | クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど。かゆみ軽減に。 |
抗菌薬配合外用薬 | フラジオマイシン硫酸塩など。化膿やとびひ予防に。 |
亜鉛華軟膏 | 皮膚保護・収れん・乾燥作用。炎症部位に塗布する保護的役割も。 |
ドラッグストアで購入可能な市販薬では、以下の成分が含まれる製品が用いられます。
・抗炎症成分:グリチルリチン酸、アラントインなど
・殺菌成分:イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジン
・清涼成分:メントール、カンフル
患者の年齢、症状の程度、皮膚の状態(乾燥・湿潤)などに応じて、適切な薬剤を選択する必要があります。
あせも対策のスキンケアと生活習慣
薬剤だけに頼らず、生活習慣の見直しやスキンケアの徹底も重要です。
・発汗後はシャワーや濡れタオルで汗を拭く:肌を清潔に保ち、刺激成分の蓄積を防ぐ
・石けんの使いすぎに注意:皮膚バリアを守るため、洗いすぎ・こすりすぎは避ける
・通気性の良い衣類を着用:汗をこもらせず、摩擦を減らす
また、こまめな水分補給と規則正しい生活も皮膚の健康維持には欠かせません。
あせもと間違えやすい皮膚疾患
皮膚科を受診する患者の中には、「あせもだと思っていたら別の皮膚病だった」というケースが少なくありません。実際、多くの診断は「汗による接触性皮膚炎」であることがあります。
汗による接触性皮膚炎とは?
汗に含まれる塩分、尿素、アンモニアなどの成分が皮膚に刺激を与えることで、かぶれ(炎症)を引き起こす疾患です。
乾燥肌やアトピー素因をもつ人では特に悪化しやすく、あせもと症状が似ているため見分けがつきにくいこともあります。
薬剤師の服薬指導ポイント
薬剤師として、あせもに関する適切な対応が求められる場面は多々あります。以下のような指導が効果的です。
・かゆみがあっても掻かないよう声かけ:とびひや悪化を防ぐために重要
・自己判断に注意を促す:あせもに見えても実は湿疹や接触性皮膚炎などの可能性あり
・OTC薬の成分と作用の説明:殺菌成分の有無、清涼感の強弱なども選択のポイントに
・使用期間と効果判定の目安を伝える:数日で改善しない場合は皮膚科受診をすすめる
大人のあせもは現代の生活病?
現代社会において、大人のあせもは珍しいことではなくなりました。むしろ生活習慣や気候、健康法の多様化により、誰もが起こしうる皮膚トラブルといえます。
正しいスキンケア、生活環境の工夫、適切な薬剤使用、そして早期対応が、快適な夏を過ごす鍵となります。薬剤師としては、患者に対するきめ細やかな指導と観察力が求められます。
「あせもは子どもだけのもの」──そんな先入観を捨て、大人にこそ必要な皮膚ケアの知識として、あせも対策を再認識していきましょう。