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シラミができたのは不潔だから?
公開. 更新. 投稿者:皮膚感染症/水虫/ヘルペス.この記事は約4分45秒で読めます.
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シラミって不潔な人がなるの?

「シラミができたのは、ちゃんと頭を洗っていないから」
「不潔だからうつったんじゃないの?」
そんな言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
しかし、その認識は誤解であり、場合によっては子どもを深く傷つけてしまう偏見になりかねません。
シラミの感染は、清潔・不潔の問題ではなく、誰でもかかりうる“接触感染”の一種です。
結論から言えば、「不潔だからシラミにかかる」というのは誤解です。
現代の日本において、シラミに感染する原因は頭と頭が触れ合うことです。
特に、12歳以下の子どもで感染が多く、次のようなシーンで広がります。
・幼稚園や保育園、小学校で遊んでいるとき
・プールやお昼寝時のマット・布団の共有
・家族やきょうだい間の接触(寝具、クッションなどの共有)
つまり、普通に生活していてもうつる可能性があるのです。
決して「お風呂に入っていないから」「シャンプーが足りないから」ではありません。
こうした誤解により、シラミにかかった子が「不潔」「汚い」と見なされ、仲間外れにされるケースもあります。
実際、学校や保育園では、シラミの感染が見つかった子に対して、周囲の子どもや保護者から偏見をもって見られることがあります。
薬剤師としての大切な視点は、
「シラミは誰でもうつる」という事実を、保護者や子どもにしっかり説明することです。
シラミの感染経路とは?
「頭しらみ」はその名の通り、人の頭髪に寄生するシラミです。
主な感染経路は以下のとおりです。
髪の毛同士の接触:もっとも多いのが頭と頭が直接触れたときの感染です。
・幼児がくっついて遊ぶ
・満員電車で頭が密着する
・寝るときに同じ枕を使う
これらの場面で、成虫が“ジャンプではなく歩いて”髪の毛から髪の毛へと移動します。シラミは跳びません。
間接的な感染:次のようなアイテムの共有でも感染する可能性があります。
・タオル
・帽子
・ヘアブラシやくし
・枕・シーツ・ぬいぐるみ
兄弟で使いまわしている日用品や、家庭内の布団が感染源になることも。
シラミは夏に多い?秋冬がピーク
「プールでうつる」と聞いて、夏に多いと思われがちですが、実はシラミは高温多湿を嫌うため、秋から冬にかけて多くなるという報告もあります。
ただし、学校でのプール検査や頭髪検査が行われる5~6月に発見されるケースが多いため、時期的な偏りがあるように見えるだけ、という側面もあります。
昭和時代のシラミ駆除と「DDT」の記憶
かつての日本では、戦後の衛生環境が悪化していたこともあり、シラミ・ノミが蔓延しました。
昭和30年代までは、GHQの政策の一環でDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)が駆除に使われていました。
・子どもたちが一列に並ばされ
・白い粉(DDT)を頭から振りかけられる
という映像が残っているほどです。
このDDTはその後、環境破壊への影響が問題視され、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』で一気に世論が反転。
農薬・殺虫剤としての使用は中止されました。
ノミ・ダニ・シラミの違いとは?
「ノミとシラミって何が違うの?」という質問を受けることがあります。
特徴 | シラミ | ノミ | ダニ |
---|---|---|---|
分類 | 昆虫(6本足) | 昆虫(6本足) | クモ類(8本足) |
大きさ | 成虫2〜3mm | 成虫2mm前後 | 0.3〜1.0mm程度 |
感染場所 | 頭髪・体毛 | 衣類・カーペット | 布団・皮膚 |
生活環境 | 宿主の体の上 | 室内環境 | 室内環境 |
駆除薬 | スミスリン | フェノトリン等 | ダニアースなど |
ノミは部屋の埃の中で幼虫が育ちますが、シラミは宿主の髪の毛の上だけで生きます。
このため、毎日入浴しても感染することがある一方、清潔にすることである程度予防にもなるという複雑な面があります。
シラミの治療:スミスリン
シラミ駆除に使われる代表的な薬がスミスリンシャンプーやスミスリンパウダーです。
有効成分:フェノトリン
・ピレスロイド系殺虫成分
・昆虫の神経を麻痺させて駆除
・ノミやダニにも有効
市販薬として薬局で購入でき、2〜3日おきに1回、計3〜4回の使用が基本です。
卵には効かないため、孵化するタイミングに合わせて繰り返し使用する必要があります。
シャンプー使用後は、卵を手や専用のくしで取り除く処置が重要です。
注意点:
ダニアースなどにもフェノトリンは含まれていますが、絶対に頭に噴霧してはいけません!
スミスリンは人体に使用できるよう処方設計されています。
薬局の現場で「うちの子、シラミになっちゃって……恥ずかしい」と言われた時、
私たちができることは「恥ずかしくないですよ」と言い切ることです。
そして、
・誰にでもうつる可能性がある
・早期の発見と適切な対処で治る
・清潔・不潔ではなく接触が原因
という事実を、安心感を持って伝える必要があります。
また、こういった相談をきっかけに、家庭内の感染対策(タオルの分け方、寝具の管理)や園・学校との連携についてもアドバイスできると理想的です。
誤解をなくし、正しい知識でシラミと向き合う
・シラミは不潔な人にうつるものではない
・子ども同士の接触で誰でも感染しうる
・適切な薬とケアで治療可能
・偏見や差別はなくすべき
シラミの発見は、驚きと不安を与えます。
でも、焦らず、正しい知識で対応すれば、家庭でも学校でも大きな問題にはなりません。
薬剤師としては、“薬を売る”だけではなく、“安心を届ける”ことが仕事です。
「シラミ=不潔」という誤解をなくし、正しい理解を広めていきましょう。