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細菌感染にステロイドを使ってもいいの?
公開. 更新. 投稿者:皮膚感染症/水虫/ヘルペス.この記事は約3分47秒で読めます.
3,305 ビュー. カテゴリ:とびひに“ステロイド”はNG?

「とびひにステロイドって使っていいの?」
ドラッグストアや調剤薬局で、こんな質問を受けたことのある薬剤師も多いかもしれません。
一般的に、感染症にステロイドは「禁忌」とされています。
しかし、実際の臨床現場ではステロイド外用薬と抗菌薬が併用されるケースも少なくありません。
とくにアトピー性皮膚炎に合併したとびひでは、治療選択において判断が分かれる場面もあります。
「とびひ」とはどんな病気?
「とびひ(伝染性膿痂疹)」は、主に黄色ブドウ球菌や溶連菌などの細菌感染により、水ぶくれやただれを起こす皮膚疾患です。夏に多発、掻き壊しが引き金になります。
とびひの特徴:
・子どもに多い(特にアトピー性皮膚炎のある子)
・掻き壊した傷から細菌が侵入
・水疱型/痂皮型がある
・火事の“飛び火”のように全身に広がる
・好発部位: 顔、手足、体幹。特に鼻の周囲から始まることが多く、鼻を触る癖がある子は要注意です。
ステロイドは感染症に「禁忌」
ステロイド外用薬の添付文書には、以下のように明記されています。
禁忌:
細菌・真菌・ウイルス皮膚感染症および動物性皮膚疾患(疥癬、けじらみ等)
[これらの疾患が増悪するおそれがある]
つまり、「感染症のある皮膚」に対してステロイドを塗ると、炎症を抑えすぎて免疫が働かず悪化するというのが基本的な考え方です。
ところが、同じ添付文書には以下のような「重要な基本的注意」も併記されています。
皮膚感染を伴う湿疹・皮膚炎には使用しないことを原則とするが、
やむを得ず使用する場合は、あらかじめ適切な抗菌剤を投与するか、
抗菌剤との併用を考慮すること。
つまり、「原則禁忌」だけど、例外ありという立場です。
この矛盾したような扱いが、「とびひにステロイドを使ってもいいのか?」という混乱を生んでいるのです。
アトピー性皮膚炎に合併した“とびひ”
アトピー性皮膚炎の患者では、皮膚のバリア機能が低下しており、
掻き壊した部位から細菌が侵入してとびひを合併することがあります。
この場合、ただの「細菌感染」ではなく、
・湿疹によるバリア機能低下
・掻破による創傷
・そこに2次感染したとびひ
という混合病態です。
したがって、治療も「抗菌薬だけ」では不十分で、皮膚炎に対するステロイドの外用が必要になるケースがあります。
このような複合病態では、ステロイドを使うことで掻痒が抑えられ、皮膚炎が改善することでとびひも広がらなくなります。
ただし、これはあくまでも「皮膚炎の改善」がとびひの制御に繋がったのであって、
とびひそのものがステロイドで治るわけではないことを強調しておく必要があります。
特に小児では親の不安や誤解を防ぐために、
・なぜ抗菌薬とステロイドを同時に使うのか?
・ステロイドでとびひが悪化しない理由は?
・かゆみを抑えることの重要性
などを丁寧に説明し、コンプライアンスを高めましょう。
ステロイドは感染を助長するか?
確かにステロイドは免疫を抑制します。
とくに内服や注射による全身投与では以下のリスクが示されています。
・プレドニゾロン換算10mg/日以上の連日投与で感染リスクが上昇
・総投与量700mg以上やステロイドパルス療法ではさらに顕著に
ただし、短期間の外用ステロイド使用であれば、局所の感染拡大リスクは限定的です。
適切な使い方・併用で十分にコントロール可能です。
「とびひにステロイドはダメ!」という単純な話ではありません。
・感染が主体なら避ける
・皮膚炎がベースにあるなら併用を検討する
・医師の指示に従って、適切な部位・タイミングで使用する
というように、背景や個別の状態に応じて使い分ける必要があります。
薬剤師や医療者が適切な説明をすることで、
誤解や不安を減らし、治療の効果と安全性を高めていきましょう。