2025年12月31日更新.2,705記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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アンカロンで甲状腺機能亢進症になる?― アミオダロンと甲状腺機能障害

アンカロンと甲状腺機能障害の関係

抗不整脈薬であるアンカロン(一般名:アミオダロン塩酸塩)の使用上の注意には、

「甲状腺機能障害又はその既往歴のある患者[甲状腺機能障害を増悪させるおそれがある]」
と明記されている。

抗不整脈薬と甲状腺疾患は一見無関係に見えるが、アンカロンは甲状腺機能に極めて強い影響を及ぼす薬剤であり、甲状腺機能亢進症・低下症のいずれも引き起こし得る点が臨床上の大きな特徴である。

なぜアンカロンは甲状腺に影響するのか

ヨウ素を大量に含有する特殊な構造
アンカロンの最大の特徴は、そのヨウ素含有量の多さにある。
アミオダロンは100mg中に約37mgのヨウ素を含有しており、これは日常摂取量と比較すると桁違いの量である。

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、
・成人の推奨摂取量:140μg/日
・耐容上限量:3000μg/日

とされている。
アンカロン1錠に含まれるヨウ素量は、耐容上限量の10倍以上に相当する。

ヨウ素と甲状腺ホルモンの基本的な関係

ヨウ素は、甲状腺ホルモン(T4・T3)合成に必須の元素であり、通常は摂取量に応じてホルモン合成が調節されている。

しかし、ヨウ素が大量に体内へ流入すると、甲状腺では逆説的な反応が起こる。

ウォルフ・チャイコフ効果
大量のヨウ素負荷により、
・甲状腺ホルモンの合成が一時的に抑制される
・結果として甲状腺機能低下症が起こる

これをウォルフ・チャイコフ効果という。

一方で、この抑制から「逃避」できない、あるいは逆にホルモン合成が過剰になる場合もあり、甲状腺機能亢進症を引き起こすことがある。

アンカロンによる甲状腺機能障害の二面性

アンカロンは以下の理由から、甲状腺機能亢進症・低下症の両方を引き起こす可能性がある。
・ヨウ素大量負荷によるホルモン合成異常
・T4 → T3変換抑制作用
・甲状腺細胞への直接毒性

そのため、

「アンカロン=甲状腺機能低下症の薬」
「アンカロン=甲状腺機能亢進症を起こす薬」

という単純な理解はいずれも誤りである。

アンカロンによる甲状腺機能亢進症(AIT)

皮肉な臨床像
アンカロンによって甲状腺機能亢進症が生じると、
・動悸
・頻脈
・不整脈の悪化

といった症状が出現することがある。

これは、
「抗不整脈薬によって不整脈が誘発される」
という非常に皮肉な状況を生む。

特に心疾患を基礎にもつ患者では、生命予後に直結する問題となり得る。

甲状腺機能低下症を起こす薬剤

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌量や活性が低下する疾患であり、橋本病(慢性甲状腺炎)が最も代表的である。

症状の特徴
症状は緩徐に進行し、
・易疲労感
・脱力感
・便秘
・体重増加
・浮腫
・脱毛

など、加齢や体調不良と見分けがつきにくい点が問題となる。

薬剤性甲状腺機能低下症の分類

甲状腺機能低下症を来す可能性のある薬剤は、主に以下の3群に分けられる。

① 甲状腺ホルモン合成・分泌を抑制する薬
・ヨード造影剤
・炭酸リチウム
・ステロイド
・アミオダロン塩酸塩
・ポビドンヨード

② 甲状腺ホルモン代謝を亢進する薬
・リファンピシン
・カルバマゼピン
・フェニトイン

③ T4 → T3変換を抑制する薬
・アミオダロン
・ステロイド
・β遮断薬
・プロピルチオウラシル

リチウムと甲状腺機能低下症

炭酸リチウムは、甲状腺機能低下症を引き起こす代表的な薬剤である。

リチウムは甲状腺に取り込まれ、
・甲状腺ホルモンの分泌抑制
・ヨウ素取り込み阻害

などを通じて、甲状腺機能低下症を誘発する。

精神科領域の患者では、定期的な甲状腺機能モニタリングが重要となる。

β遮断薬と甲状腺機能

β遮断薬は、

・T4 → T3変換を抑制
・末梢β受容体遮断による症状緩和

という二重の作用をもつ。

そのため、甲状腺機能亢進症の対症療法として頻用される一方、
検査値上は甲状腺機能低下症様に見えることがあり、解釈には注意が必要である。

アンカロンと授乳婦・妊娠

産婦人科診療ガイドラインでは、授乳婦に投与すべきでない薬剤として、

・抗悪性腫瘍薬
・放射性ヨウ素などの放射性物質
・アミオダロン塩酸塩(アンカロン)

が挙げられている。

アミオダロンは、
・胎児・新生児の甲状腺腫
・甲状腺機能低下症・亢進症
・母乳中移行による乳児への影響

が報告されており、妊娠・授乳期には原則禁忌と考えるべき薬剤である。

甲状腺機能低下症の整理

甲状腺機能低下症は、
・成人では粘液水腫
・小児ではクレチン病
とも呼ばれる。

患者は女性に圧倒的に多く、
40歳以降の女性では軽症例を含め約5%にみられるとされる。

原因は、
・原発性(甲状腺そのものの障害)
・二次性(下垂体・視床下部障害)

に分類されるが、大多数は原発性であり、橋本病が最多である。

まとめ:アンカロン使用時に薬剤師が意識すべきこと

・アンカロンは甲状腺機能亢進・低下の両方を起こし得る
・ヨウ素含有量は日常摂取量とは比較にならない
・不整脈悪化=心臓だけでなく甲状腺機能異常を疑う視点が重要
・長期投与では定期的な甲状腺機能検査が必須
・妊娠・授乳婦には特に注意

アンカロンは「切り札」として用いられる薬剤である一方、全身に及ぼす影響も極めて大きい。
心臓だけでなく、甲状腺という内分泌臓器への影響を常に意識することが、薬剤師としての重要な役割である。

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