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エビスタ服用中に海外旅行しても大丈夫?
公開. 更新. 投稿者:骨粗鬆症.この記事は約4分36秒で読めます.
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ロングフライトと血栓症リスク

骨粗鬆症治療薬の一つ「エビスタ(一般名:ラロキシフェン)」は、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)として閉経後女性の骨量減少に使用されている優れた薬剤です。しかし、その服用にあたっては、静脈血栓塞栓症(VTE)という重篤な副作用リスクについて十分な理解が必要です。
「エビスタで海外旅行NG」は本当?
エビスタを服用中に「海外旅行や長距離バス移動は避けた方がいい」といった話を聞いたことはありませんか? これは、エビスタの副作用として知られる「静脈血栓塞栓症(VTE)」のリスクと、長時間動かずにいる状態との関連性によるものです。
では、そのような注意喚起はどのような情報に基づいているのでしょうか?エビスタの添付文書とインタビューフォームをもとに検討してみましょう。
添付文書に記載されている注意点
エビスタの添付文書には以下のような記載があります:
「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症、網膜静脈血栓症を含む)のリスクが上昇するため、長期不動状態(術後回復期、長期安静期等)に入る3日前には本剤の服用を中止し、完全に歩行可能になるまでは投与を再開しないこと。」
つまり、「長時間動けない状態」になることがあらかじめわかっている場合は、3日前から服薬を中止し、回復するまで再開しないという方針です。
インタビューフォームの内容と米国での対応
さらに、医療関係者向けのインタビューフォームには次のような詳細な記載があります。
「航空機などによる旅行に関連した静脈血栓塞栓症は『旅行者血栓症』(ロングフライト血栓症)として知られており、エビスタ投与中の女性が長時間の航空機等での旅行をする際には、適度な水分摂取や運動等を勧めること。」
また、エビスタの半減期は24.3時間であり、血中濃度を十分下げるには3日前から休薬する必要があるとされています。これは米国のFDAラベルでも「不動状態に入る72時間前には投与を中止すること」と記載されています。
なぜエビスタで血栓ができやすくなるのか?
エビスタ(ラロキシフェン)は、女性ホルモンであるエストロゲンに似た作用を選択的に示す薬剤です。骨にはエストロゲンと同様の効果(骨吸収抑制)を与える一方で、子宮や乳腺には抑制的に働くため、副作用が少ないとされています。
しかし、エストロゲンは血液凝固系を活性化させることが知られており、エビスタもこの影響により静脈血栓塞栓症のリスクを上げる可能性があります。
静脈血栓塞栓症とはどんな病気?
● 深部静脈血栓症(DVT)
下肢の深い静脈に血栓ができる状態。ふくらはぎの腫れ、熱感、圧痛などがみられます。
● 肺塞栓症(PE)
血栓が肺動脈に詰まることで、急な息切れ、胸痛、失神を起こすことがあります。命に関わることもあります。
● 網膜静脈血栓症
突然の視力低下や視野欠損を引き起こすことがあります。
これらはいずれも早期発見と治療が重要であり、服薬中の患者には十分な注意喚起が必要です。
長時間移動(旅行)と血栓のリスク
エビスタを飲んでいるかどうかにかかわらず、「長時間の飛行機移動やバス移動」は静脈血栓塞栓症のリスクを高める要因です。とくに以下のような状態のときに注意が必要です:
・脱水(機内の乾燥)
・足を長時間動かさない
・トイレに行かず、体液がうっ滞する
・肥満、高齢、下肢静脈瘤のある人
これに加えて、エビスタを服用していることがさらなるリスク要因になります。
旅行を計画しているときの対策
エビスタ服用中の方が旅行する際には、以下の点を確認してください:
・手術や長期安静が予定されている:3日前から休薬し、歩行可能になるまで再開しない
・海外旅行や長距離移動がある:担当医に相談し、必要なら休薬を検討
・飛行中の対策:水分補給・着圧ソックス・こまめな足の運動
とくに、航空機での移動が4時間以上に及ぶ場合は、旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)への配慮が重要です。
実際の処方現場では
SERM製剤(エビスタやビビアント)は優れた薬剤ですが、ビスホスホネート製剤と比べて処方頻度が低い傾向にあります。その理由のひとつが、こうした「血栓の副作用リスク」とその説明の煩雑さにあるとも言われています。
とはいえ、骨折リスクの高い閉経後女性にとっては重要な治療選択肢の一つであり、適切な管理下で使うことで十分な効果が期待できます。
まとめ:エビスタ服用中でも旅行はできるが、対策が必要
・エビスタは静脈血栓塞栓症のリスクを増加させる可能性がある
・手術・長期安静・長時間の旅行前は、医師と相談し、休薬も検討すべき
・旅行中は水分補給や運動など、血栓予防の工夫が不可欠
・異常を感じたらすぐに医療機関を受診すること
「エビスタを飲んでいるから海外旅行に行けない」ということではありませんが、正しい知識とリスク管理が必要です。服薬指導や受診時に、旅行予定を伝えることはとても大切です。