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オフェブとピレスパの違いは?
公開. 更新. 投稿者: 3,109 ビュー. カテゴリ:結核/肺炎.この記事は約5分27秒で読めます.
目次
オフェブとピレスパの違いは?― 特発性肺線維症(IPF)治療の2大治療薬

調剤薬局でも、オフェブ(ニンテダニブ)やピレスパ(ピルフェニドン)が処方されている患者さんを見かけるようになりました。しかし、
「特発性肺線維症ってどんな病気?」
「なぜこの2剤だけが使われるの?」
「オフェブとピレスパの違いは?」
と聞かれて、自信を持って説明できる薬剤師はまだ少ないのが現状かもしれません。
・特発性肺線維症(IPF)の基礎
・オフェブとピレスパの位置づけ
・効果・副作用・薬価・服用方法の違い
・服薬指導で実際に注意すべきポイント
などを、勉強していきます。
特発性肺線維症(IPF)とはどんな病気か?
特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis:IPF)は、
原因が特定できない「肺の線維化」が進行する難治性疾患です。
肺胞の壁が慢性的に傷つき、その修復過程が異常に進むことで、
・肺がゴムのように硬くなる
・酸素が取り込みにくくなる
・労作時の息切れが徐々に悪化する
という経過をたどります。
IPFは「間質性肺炎」の1種
IPFは間質性肺炎(Interstitial Pneumonia)の一種です。
間質性肺炎の原因には、
・薬剤性
・アレルギー
・膠原病
・アスベストなどの粉じん曝露
などがありますが、原因が不明なものを「特発性間質性肺炎」と呼びます。
特発性間質性肺炎は病理学的にいくつかの型に分けられますが、その中で
・特発性肺線維症が約80~90%と最も多い
とされています。
胸部CTで「蜂の巣肺(ハニカム構造)」
IPFの特徴的な所見は、胸部CTでみられる
・网の目状の線維化
・肺の末梢に蜂の巣状の構造(ハニカム肺)
です。これは「傷が治って、また壊れて、また治る」を繰り返した結果、ケロイドのように硬く変形した肺」とイメージするとわかりやすいでしょう。
なぜステロイドでは治らないのか?
プレドニゾロンの適応症には、
・「びまん性間質性肺炎(肺線維症)」
と記載があります。そのため、
・「肺線維症=ステロイドが効く」
と誤解されやすいのですが、IPFはステロイドの有効性が否定されている疾患です。
IPFは
・炎症よりも
・線維化(瘢痕化)そのものが主病態
であるため、ステロイド単独では病気の進行を止めることができず、
むしろ感染症リスクや予後悪化が問題になることもあります。
IPFに「適応」を持つ治療薬は2剤だけ
現在、日本で
「特発性肺線維症」に保険適応を持つ治療薬は、
オフェブ(ニンテダニブ)とピレスパ(ピルフェニドン)の2剤のみ
です。
どちらも抗線維化薬(抗肺線維化薬)と呼ばれ、
・咳を止める薬ではない
・痰を切る薬でもない
・気管支を広げる薬でもない
という、これまでの呼吸器薬とは全く異なる位置づけの薬です。
オフェブとピレスパは「病気を治す薬」ではない
まず最も大切なポイントです。
・オフェブもピレスパも「肺を元に戻す薬」ではありません
・「病気の進行を遅らせる薬」です
そのため、
・飲んで「楽になった」
・息切れがすぐ改善した
と実感できることはほとんどありません。
効果は、
・肺機能(FVC)
・酸素化
・急性増悪の頻度
などを 数か月~年単位で評価します。
抗線維化薬の効果はどれくらい?
臨床試験および実臨床データから、
・肺活量(FVC)の低下を約45~60%抑制
・急性増悪のリスク低下
・死亡リスクを20~30%程度低下
とされています。
また、治療なし時代のIPFの生存期間は、
・生存中央値:2~3年
でしたが、抗線維化薬の登場後は、
・生存中央値:4~5年以上
・5年生存率:約45~50%
まで改善しています。
ピレスパ(ピルフェニドン)の特徴
薬効分類・作用機序
・抗線維化薬
・TGF-β(線維化の司令塔)を中心に抑制
・線維芽細胞増殖抑制
・コラーゲン産生抑制
・抗炎症・抗酸化作用(補助的)
用法・用量
・通常:1日3回(200mg錠×9錠)
・必ず食後投与
食事との関係(重要)
添付文書には、
「空腹時投与では血中濃度が高値を示し、副作用があらわれるおそれがあるため食後投与とする」
と明記されています。
空腹時のほうが血中濃度が上がるという“珍しい”薬剤です。
主な副作用(頻度が高いもの)
・日光過敏(約50%)
・食欲不振(23%)
・悪心
・体重減少
・倦怠感
特に日光過敏は非常に特徴的で、
・外出時の長袖
・帽子
・日焼け止め
などの紫外線対策が必須です。
オフェブ(ニンテダニブ)の特徴
薬効分類・作用機序
・抗線維化薬(チロシンキナーゼ阻害薬)
・PDGFR・FGFR・VEGFRの阻害
・線維芽細胞の増殖シグナルを遮断
用法・用量
・通常:1日2回(150mg×2)
・原則食後投与
食事との関係
オフェブは、
・食後の方が血中濃度が上昇
・空腹時では吸収が低下
するため、必ず食後服用となっています。
主な副作用(頻度が高いもの)
・下痢(約56%)
・悪心・嘔吐
・肝機能障害
・出血傾向(抗VEGF作用)
特に下痢は半数以上に出現するため、
・ロペラミド併用
・脱水予防
・体重モニタリング
が極めて重要です。
オフェブとピレスパの違い(一覧表)
| 項目 | ピレスパ | オフェブ |
|---|---|---|
| 一般名 | ピルフェニドン | ニンテダニブ |
| 作用機序 | TGF-β抑制 | チロシンキナーゼ阻害 |
| 服用回数 | 1日3回 | 1日2回 |
| 主な副作用 | 日光過敏、食欲不振 | 下痢、肝機能障害 |
| 食事の影響 | 空腹時で血中濃度↑ | 食後で血中濃度↑ |
| 光線対策 | 必須 | 不要 |
| 下痢対策 | 通常不要 | 必須 |
| 適応 | IPF | IPF、進行性線維化ILD |
服薬指導で特に重要なポイント
ピレスパ
・日光対策の徹底
・食欲不振による栄養低下の確認
・空腹時服用の回避
オフェブ
・下痢の有無の定期確認
・脱水・体重減少の評価
・肝機能検査値の確認
・抗凝固薬との併用注意
どちらの薬も共通して、
「飲んでいても症状がすぐ良くなる薬ではない」
「長期間飲み続けることで進行を遅らせる薬」
であることを、患者さんがきちんと理解できているかの確認が極めて重要です。
IPF治療の本質は「傷の修復を抑える治療」
肺線維化は、
「皮膚のケロイドが何度もできて硬くなるのと同じ現象」
と説明すると理解しやすいです。
そのため治療は、
・傷の修復を完全に止める
・細胞の増殖シグナルを遮断する
という方向になります。
結果として、
・消化管障害
・発疹
・下痢
・倦怠感
など、副作用が多くなるのは「病態そのものに対抗する治療」であるため避けられない側面があります。
まとめ:オフェブとピレスパの違いを一言で
ピレスパ:
線維化の司令塔(TGF-β)を弱める薬 → 日光過敏・食欲不振に注意
オフェブ:
線維芽細胞の増殖シグナルを止める薬 → 下痢・肝機能障害に注意
どちらも:
・肺を元に戻す薬ではない
・病気の進行を遅らせ、生存期間を延ばすための薬
・効果実感は乏しいが、継続が最も重要
という点は共通です。
最後に(薬剤師として大切な視点)
ピレスパやオフェブを飲んでいる患者さんは、
「効いている実感がない」
「副作用だけがつらい」
「高額な薬を飲み続ける意味が分からない」
と不安を抱えていることが少なくありません。
だからこそ薬剤師としては、
「この薬は“今を楽にする薬ではなく、未来の肺を守る薬”です」
「飲み続けることで“悪くなるスピードを遅らせる”効果が証明されています」
と、治療の意味を繰り返し伝える役割が非常に重要になります。




