記事
シミに効く薬
公開. 更新. 投稿者:皮膚感染症/水虫/ヘルペス.この記事は約4分37秒で読めます.
3,607 ビュー. カテゴリ:目次
シミに効く薬

世の中には数多くの”美白アイテム”が流通していますが、薬剤師としてその有効性と安全性を冷静に見極めることが求められます。医療用医薬品・一般用医薬品(OTC)・化粧品といった枠組みの中で、どこまで薬剤としての根拠があるのか。
シミと肝斑の違い
一口に“シミ”と言っても、その原因や治療法はさまざまです。
肝斑、老人性色素斑、炎症後色素沈着、雀卵斑(そばかす)など、それぞれに異なる病態があり、見た目だけで判断するのは困難です。
中でもトラネキサム酸が有効とされるのは”肝斑”です。
肝斑は30〜40代の女性に多く、頬骨のあたりに左右対称に現れる薄茶色の色素斑です。女性ホルモンの影響や紫外線が関与しているとされ、妊娠中や経口避妊薬の服用中に出現しやすいと報告されています。一方、紫外線による老人性色素斑や、ニキビ・外傷などの後に起こる炎症後色素沈着とは発症機序も治療法も異なります。
種類 | 特徴 | 原因 | 対応薬剤例 |
---|---|---|---|
肝斑 | 両頬に左右対称、30~40代女性に多い | 女性ホルモン、紫外線 | トラネキサム酸 |
老人性色素斑 | 紫外線による境界明瞭な褐色斑 | 紫外線、加齢 | ハイドロキノン |
炎症後色素沈着 | ニキビ、やけど等の炎症後に生じる | 炎症、こすり過ぎ | トラネキサム酸、ビタミンC |
雀卵斑(そばかす) | 小型の散在性斑点、遺伝性が強い | 遺伝+紫外線 | 効果は限定的 |
トラネキサム酸:肝斑に対する有望な選択肢
トラネキサム酸は、もともと抗プラスミン作用を持つ止血剤として使用されてきました。後に偶発的に肝斑への効果が見出され、OTC薬として承認されたのがトランシーノ(第一三共ヘルスケア)です。
その作用機序は、プラスミンの活性化を抑えることでメラノサイトの活性を抑制し、メラニンの生成を間接的に抑えるというものです。皮膚科領域では保険適応外ながら1日1,000〜1,500mgで使用されることもありますが、OTC薬では1日750mgが上限とされています。
ただし、止血作用を持つため血栓リスクのある患者では慎重な対応が求められ、長期連用の是非についても議論があります。添付文書上は「2カ月の服用後は2カ月の休薬期間を設ける」とされていますが、これは安全性と有効性のデータ不足によるものです。
グルタチオン:酸化ストレスを抑える補助的な美白成分
グルタチオンは、本来は肝機能改善薬(タチオン)として知られています。抗酸化作用を持ち、活性酸素によるメラノサイト刺激を抑制すると考えられており、チロシナーゼ活性の抑制作用も報告されています。
ただし、グルタチオン単独で劇的な美白効果を得ることは難しく、トラネキサム酸やビタミンCとの併用で補助的に使用されるケースが多くなっています。”肝斑への効果”を目的とする場合にも、第一選択はやはりトラネキサム酸であると言えます。
ハイドロキノン:強力な漂白効果とリスクの両面を持つ外用薬
ハイドロキノンは、メラニン合成の中心酵素であるチロシナーゼを直接阻害することで強力な美白効果を発揮します。しかし同時に、刺激性や接触皮膚炎、白斑などの副作用も多く、日本では市販製品では濃度が低く制限されています。
医師の管理下で調剤される場合には高濃度の使用が可能ですが、炎症によってかえって色素沈着が悪化するケースも報告されており、十分な注意が必要です。
ビタミンC・L-システイン:安全性の高い補助成分
ビタミンC(アスコルビン酸)は、メラニン還元作用と抗酸化作用を持ち、内服・外用ともに使用されています。外用では誘導体(アスコルビン酸2-グルコシドなど)の形で配合されることが多く、刺激性を低減しながら角質層に浸透します。
L-システインは、メラニン生成抑制と肌のターンオーバー促進により、美白をサポートする成分です。これらは安全性が高く、長期服用においても比較的安心ですが、単独での効果は緩やかであり、他成分との併用が基本となります。
その他:ヘパリン類似物質や誤解されがちな製剤
近年、ヒルドイドなどのヘパリン類似物質が「美肌に効く」「シミにも有効」とSNS等で話題になりましたが、これは科学的根拠に乏しい誤解です。
ヒルドイドの効能効果には確かに「肥厚性瘢痕・ケロイドの予防・治療」などがありますが、美白作用や色素沈着への直接的な効果は確認されていません。こうした誤情報への適切な対応も薬剤師の大切な役割です。
成分名 | 主な作用機序 | 使用目的 | 注意点 |
---|---|---|---|
トラネキサム酸 | 抗プラスミン作用→メラノサイト抑制 | 肝斑(OTCで承認) | 血栓リスク、長期連用不可 |
グルタチオン | 抗酸化、チロシナーゼ阻害 | 美白補助 | 効果はマイルド |
ハイドロキノン | チロシナーゼ阻害 | 老人性色素斑など | 強刺激性、医師管理下での使用が望ましい |
ビタミンC誘導体 | メラニン還元 | 美白補助(外用) | 安全性高いが効果は緩やか |
L-システイン | メラニン生成抑制+ターンオーバー促進 | 美白補助(内服) | 単独では効果が限定的 |
皮膚にはある程度のターンオーバーによる自然な改善能力があり、紫外線を避けてさえいればシミはある程度薄くなる可能性があります。
あらゆるシミの増悪因子として共通するのが紫外線です。日傘や帽子、サングラス、日焼け止めなどを活用した日常的な紫外線対策こそが、すべての美白治療のベースとなります。薬剤師としても、美白剤の説明と併せて紫外線対策の重要性を伝えることが求められます。
・トラネキサム酸は肝斑に対して最もエビデンスが豊富だが、長期連用・血栓リスクに配慮
・グルタチオンは補助的な位置づけ。単独では効果が限定的
・ハイドロキノンは高い効果を持つが副作用も強く、慎重な対応が必要
・ビタミンCやL-システインは安全性が高く、補助療法に有効
・紫外線対策を欠かさず行うことが、薬物療法以上に重要な対策
薬剤師は単に市販薬の説明をするだけでなく、患者の肌状態や生活背景も踏まえた上で、適切な美白対策を提案できる存在であることが求められます。
2 件のコメント
初めまして。
シナールやトラネキサム酸が処方されている明らかにシミに対しての処方が来たときはどういった対応をされていますか?
薬学管理料を外したほうがいいんですかね?
コメントありがとうございます。
正直あまりそのようなケースに遭遇したことがなく詳しくないのでわかりませんが、シナールの適応に「炎症後の色素沈着」というのがありますが、例えば「痒みがあって掻いた」その後のシミであれば保険請求上はOKということなんでしょうかね。
「この人はあからさまに美容目的だ」と感じて、個別指導をイメージしたときに恐怖を覚えるのであれば外した方が良いと思います。基本的には医師が自費ではない処方出してるのであれば、保険適応上OKなのだろうと思い、湿疹や痒みなどを伴う病的な何かがあるものとして聴取記載しますね。