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スターターパックのある薬
公開. 更新. 投稿者:調剤/調剤過誤.この記事は約4分6秒で読めます.
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漸増投与薬とスターターパックの活用

薬剤によっては、治療初期に副作用を抑えたり、体内順応を考慮して漸増投与(少しずつ投与量を増やす方法)が採用されるケースがあります。こうした薬では、初期用量に対応した「スターターパック」という便利なパッケージが用意されていることがあります。代表的な薬剤を例に、スターターパックの利便性と注意点について整理します。
代表的なスターターパックのある薬剤
■ オテズラ(アプレミラスト)
乾癬治療薬であるオテズラは、その用法がやや複雑です。
・1日目:10mg 1回朝
・2日目:10mg 朝・夕(1日2回)
・3日目:朝10mg、夕20mg
・4日目:20mg 朝・夕
・5日目:朝20mg、夕30mg
・6日目以降:30mg 朝・夕
この複雑な漸増スケジュールを簡便化するためにスターターパック(初期2週間分)が製品として用意されています。調剤現場としてはありがたい反面、注意も必要です。スターターパックは「製品単位で薬価収載はされておらず」、保険請求上は個々の錠剤(10mg、20mg、30mg)ごとに算定する必要があります。
仮に「医師が2週間分ではなく1週間分だけ処方したい」というケースがあっても、スターターパックを分解して調剤することは可能です。
■ ゼポジア(オザニモド)
潰瘍性大腸炎および多発性硬化症治療薬として登場したゼポジアも、スターターパックが標準的に用意されています。これはオザニモドの心拍数低下リスクを軽減するため、初期段階で段階的な用量増加が必要になるからです。
潰瘍性大腸炎における用量調整スケジュール(例):
・1~4日目:0.23mg
・5~7日目:0.46mg
・8日目以降:0.92mg(維持量)
このため、ゼポジアのスターターパックは初回用量漸増7日間分として構成されています。用量調整を間違えにくくなるのが大きなメリットです。
■ チャンピックス(バレニクリン)
禁煙補助薬のチャンピックスも典型的なスターターパック対応薬です。
・第1〜3日目:0.5mg 1日1回
・第4〜7日目:0.5mg 1日2回
・第8日目以降:1mg 1日2回
こちらも最初の2週間分がスターターパックとしてパッケージ化されています。同様に、スターターパック自体は個別の薬価収載がなく、錠剤規格ごとの算定となります。
■ ラミクタール(ラモトリギン)※2019年9月より順次販売中止
最も複雑なのがてんかん治療薬ラミクタールです。重篤な皮膚障害(スティーブンス・ジョンソン症候群等)を防ぐ目的で、慎重な用量漸増が義務付けられています。
スターターパックは下記の3種類が存在します。
・ラミクタールスターターパックA
・ラミクタールスターターパックB
・ラミクタールスターターパックC
用量設定の違いによって分けられており、処方歴や併用薬(バルプロ酸ナトリウム併用時など)に応じて選択されます。
スターターパックがあったら良かった?ペルマックスの例
現在は処方頻度が減りましたが、ドパミンアゴニストペルマックス(ペルゴリド)も、実はかなり複雑な漸増スケジュールを持っていました。
・初日50μgから開始し、2〜3日ごとに50μgずつ増量。
・1週間で150μg、2週目は300μgからスタートし、150μgずつ増量。
・3週目以降もさらに増量し、最終的な維持量を決定。
こうした処方内容を考えると、スターターパックがあった方が実際は便利だっただろうと思われる薬剤の一つです。
セット製品の例:イメンド、ピロリ除菌薬
スターターパックとは若干性格が異なりますが、「セット製品」として販売されている製品もあります。
■ イメンドカプセルセット
がん化学療法の悪心・嘔吐予防で使用されるアプレピタント(イメンド)は以下のような標準的な投与パターンが組まれます。
・1日目:イメンド125mg 1カプセル
・2〜3日目:イメンド80mg 1日1カプセル
このスケジュールに対応するイメンドカプセルセットが製品化されており、個別包装の無駄を減らせる利点があります。ただし、イメンドカプセルセット自体は独自の薬価収載がなされており、個別の125mg、80mgのカプセルとは保険上区別されます。現在は薬価はほぼ同じですが、今後価格差が拡大してくる可能性も考慮する必要があります。
なお、アプレピタントの基本的な投与期間は3日間が推奨されています。これは臨床試験で初回嘔吐が4日目以降にはほとんど出現しなかったというデータに基づきます。添付文書上も「5日間以上の有効性・安全性は未確立」と明記されています。
■ ピロリ除菌パック製剤
・ラベキュア
・ラベファイン
・ボノサップ
・ボノピオン
こうしたピロリ除菌薬もセット製品として流通しており、個々の薬剤をバラバラに調剤する必要がなく便利です。ただし、代替処方が出た場合に安易にセット製品で調剤を変更することはできません。
例)
「タケプロン+アモリン+クラリス」の個別処方が出ている場合に、自己判断でランサップ400に置き換えて調剤することは不可です。
スターターパック・セット製品のメリットと注意点
【メリット】
・用量漸増スケジュールの把握が容易になる
・投与ミスの防止
・調剤ミスの予防
・在庫管理の簡素化
【注意点】
・保険請求は薬価収載単位に注意
・スターターパック製品自体が薬価収載されていないケースもある
・医師の指示量とパック内容にズレがある場合は分解調剤が必要
このように、スターターパックやセット製品は調剤現場で非常に助かる存在である一方、薬価制度や保険請求上のルールには十分配慮する必要があります。特に今後は高薬価製品における「価格差リスク」にも注意していきたいところです。