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胃の無い患者に注意する薬
公開. 更新. 投稿者:癌/抗癌剤.この記事は約2分50秒で読めます.
6,063 ビュー. カテゴリ:胃と薬
胃がんなどで胃を全摘した患者さんの薬物動態は、健常人とは異なるだろう。
通常食物は胃で貯留されて、ゆっくり少しずつ小腸に食物を流していって、栄養が吸収される。これが胃が無い状態だと、急に大量の食物が小腸に流れ込むため、小腸で処理しきれずに栄養吸収が不十分になる。
薬も同様に、吸収される量が減って効果が減弱する、あるいは大量の薬物が小腸に流れ込むため、血中濃度が一気に上がるなどの状態が考えられる。
しかし具体的な数値がわからないので、推測でしかない。
胃全摘患者とPPI
胃を全摘した患者にPPIが処方されていたことがあったが、効くのだろうか?
パリエットのQ&Aに以下のようなものがあった。
Q.胃全摘後の患者さんにPPIを投与することはありますか?
A. 胃全摘により胃酸分泌を伴わない病態を考えて治療方針を検討いただくことが前提ですが、胃全摘術を含む胃切徐術後逆流性食道炎に対し、PPIを投与した臨床報告があります。
胃全摘ではなく、胃の部分切除である幽門側胃切除術後の逆流性食道炎は、胃酸・ペプシンによる酸性と膵液を中心としたアルカリ性食道炎の両方が混在する病態を呈するのが特徴であり、術後に残った酸分泌能力、胃・食道逆流防止機構の機能障害の程度により症例ごとの病態が異なります。 幽門側切除後に自覚症状を有し、内視鏡にて逆流性食道炎と診断された43例(幽門側胃切除術39例、胃全摘術4例)に対し、本剤の臨床効果を検討し、胃全摘術後症例における本剤の効果を検討した4症例で本剤が有効であることが示されました。
※保険審査に関しては、各都道府県の審査機関の判断になります。
参考文献:
1.目黒英二(厚生連鹿角組合総合病院/外科):新薬と臨床.51(5)416-425(2002)
保険で切られてもおかしくはなさそうだ。
胃酸分泌抑制薬や、胃粘膜保護薬など、胃に働く薬が胃の無い患者に処方されていた場合は注意を要する。
無酸症と胃全摘患者
添付文書上、胃全摘患者に対する注意書きのある薬などは見当たらなかったが、無酸症に対する注意書きのある薬はいくつか見られた。
医薬品名 | 添付文書の記載 |
---|---|
アムノレイク | 本剤は中性付近において溶解度、溶出性等が増加する性質をもつため、無酸症等著しい低胃酸状態が持続する状態では、本剤の吸収が増加し、作用が増強されるおそれがある。 |
イレッサ | 日本人高齢者において無酸症が多いことが報告されているので、食後投与が望ましい。 |
カルタン | 無酸症の患者〔本剤中の沈降炭酸カルシウムの溶解性が低下し、リンとの結合能が低下するため、効果が期待できない場合がある。〕 |
コロネル/ポリフル | 無酸症・低酸症が推定される患者及び胃全切除術の既往のある患者[本剤の薬効が十分に発揮されない可能性がある。] |
スオード | 無酸症等著しい低胃酸状態が持続する患者では、胃内pHの上昇により、本剤の溶解性が低下し、吸収が低下することが考えられる。 |
レイアタッツ | 無酸症等著しい低胃酸状態が持続する状態では,本剤の血中濃度が低下し作用が減弱するおそれがある。 |
胃が無いということは無酸症でもあるわけなので、上記の薬については胃を全摘した患者についても同様に注意が必要である。
しかし、胃を摘出していなくても、PPIなど強力な胃酸分泌抑制薬を飲んでいる場合、無酸症に近い状態にあるとも言える。そのような薬を併用している場合にも同様に注意が必要である。
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