2025年10月7日更新.2,644記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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リンデロンVG軟膏で難聴になる?

リンデロンVG軟膏で難聴になる?―アミノグリコシド系抗菌薬と耳毒性

皮膚科・耳鼻科の外来でしばしば処方される「リンデロンVG軟膏」。
炎症を抑えるステロイド(ベタメタゾン)と、細菌感染を防ぐ抗菌薬(ゲンタマイシン)が配合された混合軟膏です。

湿疹、皮膚炎、虫刺され、外耳炎など幅広く使われるため、「痒いときに塗る薬」として身近に感じている方も少なくありません。しかし、このリンデロンVGには「耳毒性のリスク」があることをご存じでしょうか。

リンデロンVG軟膏とは?

成分と作用
・ベタメタゾン吉草酸エステル(ステロイド):強い抗炎症作用で赤みやかゆみを抑える
・ゲンタマイシン硫酸塩(抗菌薬):グラム陰性菌に強いアミノグリコシド系抗生物質

この2つを組み合わせることで、「炎症+細菌感染」を同時にカバーできるのが特徴です。皮膚科外用薬の中でも処方頻度が高い薬剤の一つです。

添付文書に記載されている副作用
リンデロンVG軟膏の添付文書には以下のように注意書きがあります。

長期連用(ゲンタマイシン硫酸塩による)で、腎障害・難聴が起こる可能性あり。
→ 長期連用を避けること。

つまり、「短期間・限局的な使用」なら安全とされますが、「漫然と長く塗り続ける」のは推奨されません。

アミノグリコシド系抗菌薬と耳毒性

耳毒性とは?
アミノグリコシド系抗菌薬には「耳毒性」があります。
これは、内耳の有毛細胞やリンパ分泌細胞を障害し、聴力や平衡感覚に異常をきたす副作用です。

耳毒性を起こす代表的な薬
・カナマイシン
・ネオマイシン
・バンコマイシン(厳密にはグリコペプチド系だが耳毒性がある)
・ストレプトマイシン
・ゲンタマイシン
・トブラマイシン

蝸牛系と前庭系の違い
・カナマイシン・ネオマイシンなど → 蝸牛を障害 → 難聴・耳鳴
・ストレプトマイシン・ゲンタマイシン・トブラマイシン → 前庭を障害 → めまい・平衡障害

つまり、ゲンタマイシンは「難聴」よりも「めまい」を起こしやすいとされていますが、いずれにしても内耳障害のリスクがある薬です。

外用薬でも耳毒性は起こるのか?

内服・注射ほどではない
抗菌薬の耳毒性は基本的に「全身投与」で問題となります。軟膏を皮膚に塗るだけで同じ副作用が起こることはまれです。

例外:耳への使用
外耳炎などで耳にリンデロンVGを塗布するケースがあります。このときに問題となるのは、鼓膜穿孔(鼓膜に穴が開いている状態)です。

・鼓膜が正常なら中耳や内耳には薬剤は届かないため、耳毒性の心配はまずありません。
・鼓膜に穴があると、薬剤が中耳・内耳に入り込み、有毛細胞に障害を与える可能性が出てきます。

したがって、耳に使う場合には「鼓膜の状態を確認してから処方する」ことが大切です。

実際の臨床での注意点

長期連用のリスク

「痒いからずっと塗っている」という患者さんは要注意。
・ゲンタマイシンによる耳毒性
・ステロイドによる皮膚萎縮・真菌感染

両方のリスクが高まります。

患者指導のポイント
・「耳の痒みに塗る薬」だとしても長期間使わない
・鼓膜穿孔がある場合は点耳や耳浴で使わない
・耳だけでなく、皮膚全体でも長期連用は避ける

ゲンタマイシンとメニエール病治療

逆説的な話ですが、耳毒性を逆手に取った治療法も存在します。

内耳破壊療法
メニエール病の難治例では、あえてアミノグリコシド系抗菌薬を中耳腔に注入し、内耳の有毛細胞を破壊してめまい発作を抑える「化学的迷路破壊術」が行われることがあります。

・ゲンタマイシンは前庭系に強く作用するため、めまいを抑える効果が期待できる。
・ただし聴力障害のリスクがあるため、慎重に適応を検討。

このように、耳毒性は「副作用」でありながら「治療効果」として利用されることもあるのです。

リンデロンA液の例

かつては「眼・耳科用リンデロンA液」という製剤が存在し、眼・鼻・耳に幅広く使われていました。しかし現在は「点眼・点鼻用リンデロンA液」となり、耳には使えなくなっています。

理由:フラジオマイシンの耳毒性
リンデロンA液には硫酸フラジオマイシンが含まれていました。これが鼓膜穿孔時に内耳へ入り込み、非可逆性の難聴を起こすことがあるため、添付文書上も「耳内投与禁止」となっています。

では、耳にリンデロンを使いたい場合は?
現在は「眼・耳科用リンデロンA軟膏」が存在します。耳用に使えるよう設計されており、液剤よりも安全性は高いとされます。

ただし、奥まで塗布するのは難しく、使い方には工夫が必要です。耳鼻科で鼓膜の状態を確認したうえで、必要最小限に使用するのが原則です。

まとめ

・リンデロンVG軟膏に含まれるゲンタマイシンは耳毒性のある薬剤。
・軟膏の外用で即座に難聴になるわけではないが、長期連用や鼓膜穿孔時の耳内使用はリスクあり。
・添付文書にも「長期連用を避けること」と記載されている。
・患者指導では「漫然と使わない」「耳に勝手に入れない」ことを徹底する必要がある。
・かつてのリンデロンA液は耳毒性のため耳には使えなくなっている。

結論として、「リンデロンVG軟膏で難聴になるか?」という問いに対しては、
「通常の短期・皮膚使用で難聴になる可能性は極めて低い。しかし、耳内使用や長期使用では耳毒性リスクを否定できない」
というのが正確な答えです。

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