2025年6月22日更新.2,505記事.

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ユーロジンは緑内障に使える?緑内障に使える睡眠薬

緑内障患者に睡眠薬を使ってもよいのか?

緑内障は視神経が障害されることで、放置すれば失明にもつながりうる疾患です。特に高齢者に多く、不眠症状を合併しているケースも少なくありません。

そんな中、「緑内障患者に睡眠薬を使っていいのか?」という疑問は、薬剤師や医師にとって身近でありながらも意外と難しい問題です。

緑内障と抗コリン作用の関係

房水の流れと眼圧
眼球内の房水(ぼうすい)は、目の中を循環して栄養を届け、眼圧(眼内圧)を一定に保つ役割を果たしています。
しかし、隅角(ぐうかく:房水の排出口)が狭くなる、または詰まると、房水がスムーズに排出されずに眼圧が上昇し、視神経が障害される――これが緑内障です。

急性狭隅角緑内障と薬剤性悪化
特に問題となるのは、「急性狭隅角緑内障」。
これは隅角が急激に閉塞し、眼圧が急上昇して激しい眼痛・頭痛・視力低下・吐き気などを伴う緊急疾患です。

このタイプの緑内障では、抗コリン作用をもつ薬剤によって症状が誘発・悪化するリスクが知られています。

抗コリン作用をもつ睡眠薬・抗不安薬

ベンゾジアゼピン系薬物(BZD)
多くの睡眠薬・抗不安薬はベンゾジアゼピン系に分類され、共通して抗コリン作用を持ちます。

主な抗コリン作用の影響:
・散瞳作用(瞳孔が開く)
・隅角が狭くなる
・房水の排出が抑制される

➡ 急性狭隅角緑内障のリスク因子となるため、添付文書には禁忌や注意喚起が記載されています。

添付文書で確認された緑内障への記載例

以下は主な睡眠薬・抗不安薬についての添付文書における緑内障の禁忌・注意記載のまとめです。

医薬品名薬効分類持続時間禁忌(緑内障)
セディール抗不安薬(セロトニン1A部分作動薬)なし
ラボナ睡眠薬(バルビツール酸系)なし
イソミタール睡眠薬(バルビツール酸系)なし
コレミナール抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)短時間型急性狭隅角緑内障のある患者〔眼圧上昇により症状を悪化させるおそれがある。〕
リーゼ抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)短時間型急性狭隅角緑内障の患者〔抗コリン作用により,症状を悪化させるおそれがある.〕
デパス抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)短時間型急性狭隅角緑内障の患者〔抗コリン作用により,症状を悪化させるおそれがある.〕
セニラン/レキソタン抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)中間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
ソラナックス/コンスタン抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)中間型急性狭隅角緑内障のある患者[弱い抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。]
ワイパックス抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)中間型急性狭隅角緑内障のある患者[抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。
コントール/バランス抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障のある患者[本剤の弱い抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。]
メイラックス抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障のある患者[眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。]
レスミット抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
メレックス抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障のある患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
エリスパン抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障の患者〔抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。〕
セレナール抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
セパゾン抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障のある患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
メンドン抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障のある患者〔本剤の抗コリン作用により眼圧が上昇し,症状が悪化するおそれがある.〕
セルシン/ホリゾン抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障のある患者[本剤の弱い抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。]
レスタス抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障のある患者[抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある]
リボトリール/ランドセン抗てんかん薬(ベンゾジアゼピン系)急性狭隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
エリミン睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)中間型急性閉塞隅角緑内障のある患者〔抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。〕
ダルメート/ベノジール睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性狭隅角緑内障の患者〔眼圧を上昇させるおそれがある。〕
ドラール睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)長時間型急性閉塞隅角緑内障のある患者〔眼圧を上昇させるおそれがある.〕
ハルシオン睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)超短時間型急性狭隅角緑内障のある患者
ユーロジン睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)中間型なし
レンドルミン睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)短時間型急性狭隅角緑内障のある患者[眼内圧を上昇させるおそれがある。]
ロヒプノール/サイレース睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)中間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
ロラメット/エバミール睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)短時間型急性狭隅角緑内障のある患者[抗コリン作用により眼圧が上昇し,症状が悪化するおそれがある.]
ベンザリン/ネルボン睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)中間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
リスミー睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)短時間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
マイスリー睡眠薬(非ベンゾジアゼピン系)超短時間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧が上昇し、症状を悪化させるおそれがある。]
アモバン睡眠薬(非ベンゾジアゼピン系)超短時間型急性狭隅角緑内障の患者[眼圧が上昇し、症状を悪化させるおそれがある。]
ルネスタ睡眠薬(非ベンゾジアゼピン系)超短時間型急性狭隅角緑内障の患者〔眼圧が上昇し、症状を悪化させるおそれがある。〕
ロゼレム睡眠薬(メラトニン受容体作動薬)なし
ベルソムラ睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬)なし

補足:ユーロジン(エスタゾラム)の特徴
ベンゾジアゼピン系でありながら、抗コリン作用が比較的弱いためか、添付文書には緑内障に対する禁忌が明記されていません。臨床現場では、緑内障を有する患者への選択肢として有用と考えられています。

緑内障患者に睡眠薬を処方する際の考え方

まずは緑内障の「型」を確認
急性閉塞隅角緑内障:抗コリン作用薬は禁忌
開放隅角緑内障:基本的に禁忌ではないが眼科との連携が重要

開放隅角緑内障(POAG)は慢性進行性で、点眼薬などによって眼圧がコントロールされているケースが多いため、ベンゾジアゼピン系も使えないわけではありません。

しかし「緑内障」とだけ患者が申告した場合、どの型か不明なこともあり、必ず眼科医の確認をとることが推奨されます。

非ベンゾジアゼピン系薬の活用

ベンゾジアゼピン系に代わる選択肢として以下が挙げられます:
・ロゼレム:メラトニン受容体作動薬 抗コリン作用なし
・ベルソムラ:オレキシン受容体拮抗薬 抗コリン作用なし
・デエビゴ:第2世代オレキシン拮抗薬 抗コリン作用なし

これらは緑内障に対する禁忌記載がなく、比較的安全性が高いとされています。

処方時・服薬指導のポイント

●医師への確認
・緑内障の型(開放 or 閉塞)を確認
・眼圧コントロールの状態を確認
・処方薬に抗コリン作用があるかチェック

●患者への指導
・緑内障であることを医師・薬剤師に必ず申告するよう説明
・点眼薬や他科の薬との相互作用も把握
・夜間視力の低下やまぶしさ、目の痛みがある場合はすぐ受診するよう案内

まとめ:緑内障と睡眠薬の併用は慎重に

緑内障のある患者に睡眠薬を使う際は、「緑内障の型」と「薬剤の抗コリン作用」を必ず確認する必要があります。

●特に注意が必要なのは以下の点:
・急性狭隅角緑内障では抗コリン作用薬は禁忌
・ベンゾジアゼピン系は基本的に禁忌記載あり(ユーロジンは例外)
・メラトニン受容体作動薬・オレキシン拮抗薬は比較的安全
・患者が緑内障の詳細を把握していない場合が多く、眼科との連携が不可欠

高齢者で不眠と緑内障を併発するケースは少なくありません。睡眠薬の選定は、眼圧への影響を考慮したうえで最適な薬剤を選ぶことが求められます。

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