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肝硬変患者にアセトアミノフェンを使っちゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:肝炎/膵炎/胆道疾患.この記事は約5分11秒で読めます.
15,999 ビュー. カテゴリ:アセトアミノフェンと肝障害
アセトアミノフェンによる肝障害の副作用はよく知られている。
が、何せ肝臓は「沈黙の臓器」である。自覚症状が出たころには手遅れともいえよう。
カロナールの警告には以下のように書かれている。
1. 本剤により重篤な肝障害が発現するおそれがあることに注意し,1日総量1500mgを超す高用量で長期投与する場合には,定期的に肝機能等を確認するなど慎重に投与すること。
2. 本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により,アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあることから,これらの薬剤との併用を避けること。
カロナールの1日量は4000㎎が限度ですが、1500㎎を超える場合には、肝機能を定期的に検査する必要がある。
しかし、整形外科しか受診していない患者で、血液検査をするのは、よほど疑わしい時でしか無さそう。
カロナールの処方量で多いのは1日3錠。1500㎎ギリギリなので定期的な血液検査は不要ということか。
トラムセットもよく処方されるが、1錠325㎎を1日4錠服用したとしても1500㎎ギリギリ。こちらも血液検査が不要となる。添付文書上は。
カロナールの禁忌には「重篤な肝障害のある患者[重篤な転帰をとるおそれがある。]」とある。
ウルソを飲んでいるような患者に対しては、処方すべきでは無いのだろう。
肝障害患者に使える鎮痛剤は?
アセトアミノフェン、 NSAID、オピオイドなどの一般的な鎮痛薬の多くは肝臓で代謝される。
これらの鎮痛剤の有害事象は頻繁に起こり、致死的となる可能性もあるため、慢性肝疾患、特に肝硬変患者ではしばしば処方自体を避ける傾向にある。
こうした患者に鎮痛剤を処方すると、腎不全の悪化、肝性脳症の誘発、門脈圧亢進症による消化管出血、非代償性肝不全の誘発、中毒的乱用を引き起こす恐れが危惧され、特にアルコール依存症や他の薬物中毒の既往患者で多い。
肝疾患の患者における、エビデンスに基づいた鎮痛薬使用のガイドラインがないので、こうした患者における疼痛管理は困難である。
一般的に、アセトアミノフェンは肝臓に悪い、NSAIDsは腎臓に悪いというイメージなので、肝障害をもつ患者にはNSAIDs、腎障害をもつ患者にはアセトアミノフェンが好まれる傾向がある。
しかし、NSAIDsが肝硬変患者に適当な薬であるというわけではない。むしろアセトアミノフェンのほうが良いかもしれない。
アセトアミノフェンによる肝毒性の原因は、中間代謝物であるN- acethyl-p-benzoquinone imine(NAPQI)であり、アセトアミノフェンがCYPにより代謝を受けて生成される物質である。
肝機能障害により肝臓にある薬物代謝酵素の活性は、低下していると考えられる。そのため、NAPQIの産生量は低下しており、肝毒性のリスクが上がっているとは言い難いという話もある。
肝硬変とNSAIDs
NSAIDsは主にCYP酵素により代謝され、血漿中ではほとんどが高度にタンパク(アルブミン)に結合している。
肝硬変患者はCYP活性が正常ないし低下しており、薬物結合性のタンパクの産生が障害されている。
したがって肝硬変の患者では、NSAIDの代謝と生体利用効率が変化しており、血清中の濃度が上昇すると予想される。
進行した肝硬変患者におけるNSAIDの副作用は、主にプロスタグランジン産生の阻害のためである。
肝硬変では門脈大循環短絡が形成されて、動脈圧が低下する。
この状況下で循環の恒常性を保つために、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)、交感神経系(SNS)、ADHの非浸透性分泌が亢進する。
こうして腎臓はナトリウムと水を貯留するようになる。
腎臓が継続してナトリウムと水を貯留するために、腹水が発生しやすくなる。
内因性の血管収縮物質が血管を弛緩させ、ADHが尿細管に作用するため、腎臓は血管拡張性のプロスタグランジンの産生を増やして対応する。
シクロオキシゲナーゼ(COX)は、プロスタグランジンおよびトロンボキサンA2合成の調節において重要な役割を果たしている。
NSAIDの副作用はCOX‐1及びCOX‐2を含む、両方のCOXアイソフォーム活性を阻害するために生じる。
COX‐1はほとんどの体組織に恒常的に発現して、様々な生理的機能の維持に関係している。
それに対してCOX‐2は主に炎症反応に関わる誘導性のアイソフォームと考えられている。
非選択的NSAIDはCOX‐1及びCOX‐2の両方を抑制することによって、抗炎症作用(COX‐2活性の阻害)だけでなく、腎臓や胃腸におけるプロスタグランジンやトロンボキサンA2の合成も阻害する(COX‐1活性の阻害)。
その結果、NSAIDは腎血流や糸球体濾過率を低下させ、腎臓がナトリウムと水を排出する能力を著しく阻害する。
また、血小板凝集を促進するトロンボキサンA2 を血小板が合成するのを阻害するため、肝硬変患者における血小板減少症および凝固障害を起こす可能性がある。
肝硬変患者にNSAIDを使用すると、食道胃静脈瘤の初回出血が有意に増加する。
肝硬変患者にNSAIDを使用すると、使用していない肝硬変患者よりも、食道胃静脈瘤の出血の危険性が約3倍以上になる。
肝硬変患者にアスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、スリンダクなどのNSAIDを投与した場合、腎血流やGFRの減少、ナトリウムや水の排泄障害などの腎機能障害が起きる。
肝硬変とアセトアミノフェン
アセトアミノフェンは、侵害受容体を介する急性または慢性の様々な痛みに対する第一選択の鎮痛剤として使用される。
最も安全に利用できる鎮痛剤の一つと考えられるが、肝疾患患者ではこの薬物の使用が避けられる場合が多い。
この誤解の理由は、アセトアミノフェンの過剰摂取による肝毒性の事例と、肝疾患患者におけるアセトアミノフェンの代謝経路に関する認識の欠如にある。
アセトアミノフェンの大部分は、硫酸及びグルクロン酸抱合により非毒性物質に代謝されて、その後に尿中に排泄されることが知られている。
5%未満のわずかが CYP酵素(主にCYP2E1)によって酸化され、肝毒性のある中間代謝産物であるN‐アセチル‐p‐ベンゾキノンイミン(NAPQI)ができるが、これは直ちにグルタチオン抱合を受けて無毒化される。
薬物動態の研究では、健常者に比べて肝硬変患者におけるアセトアミノフェンの半減期(T1/2)は延長し、血漿クリアランスは低下する。
T1/2や血漿クリアランスはプロトロンビン時間や血漿アルブミン濃度に相関する。
慢性肝疾患の患者におけるアセトアミノフェンの肝毒性は、CYP活性が低下し、またグルタチオン貯蔵が枯渇して、肝毒性のある中間代謝産物NAPQIが蓄積することが理論上の原因である。
しかし肝疾患の患者研究によると、アセトアミノフェンの半減期は延長する可能性はあるものの、CYP活性が亢進することはないのでNAPQIの生成自体は減少する。
従って一般的に、グルタチオンの 貯蔵量はアセトアミノフェンの肝毒性を回避するのに十分である。そのため、 肝硬変患者対して治療用量のアセトアミノフェンの投与を危険視するのは理不尽である、と多くの研究で結論されている。
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1 件のコメント
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