2025年11月22日更新.2,667記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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レボドパが効かなくなってくる?― ウェアリング・オフ現象とその対策 ―

レボドパはパーキンソン病治療の中心

パーキンソン病の運動症状(振戦、筋固縮、動作緩慢など)に対して、最も効果が高い薬剤が「レボドパ(L-ドパ)」です。
レボドパはドパミンの前駆物質であり、血液脳関門を通過して脳内でドパミンに変換され、ドパミン欠乏を補います。
まさに“ドパミン補充療法”の主役です。

レボドパの登場(1960年代)はパーキンソン病治療を一変させました。
かつては発症後5年で寝たきりになるケースが多かったのが、いまでは10年経っても歩行可能な患者が増えています。
しかし、その一方で、長期投与により効果が徐々に不安定になるという問題も明らかになりました。

レボドパの効果減弱とは

レボドパを長く服用していると、効き始めや持続時間が不安定になってきます。
この現象は大きく2つに分けられます。

ウェアリング・オフ(wearing-off) 服用後の効果持続時間が短縮し、次の服薬前に症状が再燃する
オン・オフ現象(on-off) 症状の“良い状態(on)”と“悪い状態(off)”が予測不能に繰り返す

これらは総称して「効果動揺現象」と呼ばれます。
特にウェアリング・オフは、日常生活への支障が大きく、患者のQOLを大きく左右します。

ウェアリング・オフ現象とは?

ウェアリング・オフ(wearing-off)とは、服薬後しばらくして薬効が切れ、次回服薬前に再びパーキンソン症状が出現する状態です。
服用直後は動けるが、3~4時間後には再び動作が遅くなる、手が震える、体がこわばる――
このような日内変動が繰り返されます。

最近では、「次の服薬をする前に効果減弱を自覚すること」そのものをウェアリング・オフと呼ぶようになっています。

なぜレボドパの効果は短くなるのか

① ドパミン貯蔵能の低下
初期のパーキンソン病では、まだドパミン作動ニューロンが残っており、投与されたレボドパから作られたドパミンをある程度“貯めて放出”できます。
しかし、病気が進行してドパミン神経が減少すると、ドパミンを貯める能力が失われ、服薬のたびに血中濃度に依存した動き方になります。
このため、血中濃度が下がると急に動けなくなるのです。

② レボドパの血中半減期が短い
レボドパの半減期はわずか約90分。
短時間で血中濃度が下がり、脳内ドパミン量も低下してしまいます。
服薬間隔が長いと、効果の“すり切れ(wearing-off)”が起こりやすくなります。

③ 吸収・代謝の問題
レボドパは小腸上部で吸収されますが、吸収にはアミノ酸トランスポーターが関与しているため、食事中のたんぱく質(アミノ酸)と競合します。
また、胃の排出遅延や胃内pHによっても吸収が不安定になります。

吸収を安定させるための工夫

● 空腹時の服用
食事によるアミノ酸競合を避けるため、基本的に空腹時に服用します。

● 酸性飲料と併用
レモン水などの酸性飲料と一緒に服用すると、レボドパの溶解性が高まり吸収が良くなることがあります。

● 懸濁服用
錠剤を砕いて水に溶かし、懸濁液として服用することで吸収を早める方法もあります。

● たんぱく質の摂り方
高たんぱく食は吸収を阻害するため、たんぱく質再配分療法(昼は少なめ・夜に多め)を検討することがあります。
ただし、日本人では低栄養のリスクもあり、安易な制限は避けるべきです。

ジスキネジアとウェアリング・オフの関係

ウェアリング・オフを補おうとレボドパを増量しすぎると、逆に体が勝手に動いてしまう不随意運動(ジスキネジア)が出現します。
これはレボドパによる一時的な過剰刺激であり、血中濃度の急上昇が原因と考えられます。

ジスキネジアがある場合は、

レボドパ1回量を減らす

エンタカポン(COMT阻害薬)やゾニサミドを併用し、血中濃度をなだらかに維持する
といった工夫が推奨されています。

ウェアリング・オフへの薬物的対応

レボドパの効果減弱には、以下のような段階的な対応が取られます。

【ステップ1】投与間隔・回数の見直し
まず、単純な投与量不足や服用間隔が長い場合があります。
1日3回から3~4回投与に増やすことで改善することがあります。

【ステップ2】ドパミンアゴニストの追加・変更
ドパミンアゴニスト(プラミペキソール、ロピニロール、カベルゴリンなど)は、ドパミン受容体を直接刺激し、血中濃度の波を緩やかにします。
レボドパと併用することで刺激の持続性を高め、効果の切れ目を減らすことができます。

【ステップ3】MAO-B阻害薬・COMT阻害薬の併用
分類 代表薬 作用機序
MAO-B阻害薬 セレギリン、サフィナミド 脳内でドパミン分解を抑制し、作用を延長
COMT阻害薬 エンタカポン、オピカポン 末梢でのレボドパ分解を抑え、血中濃度を安定化

これらを併用することで、レボドパの有効血中濃度を維持しやすくなります。

【ステップ4】アマンタジンやゾニサミドの追加
アマンタジンはドパミン放出促進・再取り込み阻害作用を持ち、ジスキネジアにも効果があります。
ゾニサミドもレボドパ作用延長に有用で、ガイドラインでも併用が推奨されています。

【ステップ5】外科的治療
薬剤で十分な改善が得られず、ADL(日常生活動作)が著しく障害されている場合は、
両側視床下核刺激術(DBS:深部脳刺激療法)を検討します。

レボドパの製剤と吸収の違い

単剤 vs 配合剤

レボドパには、

単剤(レボドパのみ)

配合剤(カルビドパまたはベンセラジドとの合剤)

の2種類があります。

● ドパ脱炭酸酵素阻害薬の役割
末梢でレボドパがドパミンに変換されてしまうと脳内に届きません。
これを防ぐのが「ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)」です。

合剤の種類と比率(DCI:L-dopa)
・カルビドパ合剤(メネシット®) 1:10 =安定的で副作用が少ない
・ベンセラジド合剤(マドパー®) 1:4 =吸収が速く、血中濃度がやや高い傾向

理論的にはベンセラジド合剤のほうが血中到達が速く、効果発現も早いですが、臨床的な有意差は小さいとされています。

● 単剤と配合剤の効力比
レボドパ単剤と配合剤の効力比は1:5。
つまり、レボドパ単剤500mg ≒ 配合剤100mg。
配合剤では、必要量を1/5に減らせるうえ、副作用(悪心など)も少なく、実臨床では配合剤が主に使われます。

ドパミンアゴニスト併用の意義

若年発症のパーキンソン病では、初期からレボドパを使うと運動合併症(ウェアリング・オフ、ジスキネジア)が早く出る傾向があります。
そのため、まずドパミンアゴニストで治療を開始し、レボドパ導入を遅らせる方針が取られます。

レボドパを減量できるだけでなく、レボドパによる刺激を平準化し、神経系の変動を緩やかにできるからです。

サイトテック(ミソプロストール)の話題

一部では、アスピリンなどNSAIDsで誘発されるレボドパ吸収低下に対して、PGE₁誘導体「サイトテック®(ミソプロストール)」が有効とされる報告もあります。
NSAIDsで減少したプロスタグランジンを補い、腸粘膜血流を改善して吸収を安定化させるという理屈です。

ただし、保険適応外であり、NSAIDsを使用していない患者では無意味。
疑義照会が必要なケースであり、日常診療で安易に使う薬ではありません。

痛みとレボドパ

パーキンソン病では、しびれや痛みなどの感覚障害が約半数の患者にみられます。
この痛みは“off時”に出現しやすく、ドパミン不足によって痛みの閾値が低下している状態です。
レボドパで閾値を正常に戻すと痛みが軽減しますが、NSAIDsはあまり効果がありません。
「痛み=off症状の一部」と捉えることが重要です。

まとめ:レボドパ治療は“安定化”が鍵

主要問題と対応策
・効果持続時間の短縮(ウェアリング・オフ):投与回数の増加、ドパミンアゴニスト併用、MAO-B/COMT阻害薬追加
・ジスキネジア:レボドパ減量+COMT阻害薬・ゾニサミド併用
・吸収不良:空腹時服用、酸性飲料併用、懸濁服用
・アミノ酸競合:食事時間・たんぱく質再配分療法
・難治例:アマンタジン、DBS(脳深部刺激療法)

おわりに

レボドパは今なお、パーキンソン病治療の「金字塔」です。
しかし、その効果は永続的ではなく、時間とともに“波”が生じることを理解しておく必要があります。

薬剤師や医療従事者としては、患者が「効かなくなった」と訴えるとき、
単なる耐性ではなく、吸収・血中濃度・服用タイミング・併用薬・食事など多面的に考える視点が求められます。

レボドパ治療のゴールは、「効かせること」ではなく、「安定して効かせ続けること」。
そのための工夫と観察が、長期的なQOLを支える鍵となります。

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