2025年7月29日更新.2,550記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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お薬手帳は自分で作ってもいい?

お薬手帳は自分で作ってもいい?

病院や薬局で「お薬手帳はお持ちですか?」と尋ねられることは、いまや日常的な風景となりました。
このお薬手帳、薬局で配布される以外に自分で作ってもいいのでしょうか? という疑問を持たれる方もいるかもしれません。

結論から言うと、「形式としては自作可能だが、制度的要件を満たす必要がある」というのが実際のところです。

お薬手帳とは?なぜ必要なのか

お薬手帳は、患者さんの服薬情報を記録・共有するためのツールです。

◆主な目的:
・医師や薬剤師が過去の処方履歴を確認し、重複投与や相互作用を防止する
・副作用歴やアレルギー歴を管理し、安全な投薬判断に役立てる
・災害時・救急搬送時に、かかりつけが不明な状況でも服薬情報を提示できる

これらの情報は、基本的に薬局が発行する薬剤情報(シール・印刷物)を手帳に貼付する形で記録されます。

調剤報酬上で定められた「お薬手帳の定義」

厚生労働省が定める調剤報酬制度では、「お薬手帳」の形式と要件について以下のように定義されています。

◆お薬手帳の必須構成項目:
「お薬手帳」とは、薬剤の記録が時系列で行える手帳であり、以下の項目を記録できる構成が必要です。

・患者に関する記録:
 氏名・生年月日・連絡先など

・薬物療法の基礎情報:
 アレルギー歴、副作用歴等

・疾患に関する情報:
 主な既往歴

・主に利用する保険薬局に関する情報:
 薬局名、薬剤師名、連絡先等

これらを記録する欄がある手帳でなければ、調剤報酬上の「お薬手帳」とはみなされません。

◆自作お薬手帳はこの条件を満たせば可能:

上述の項目を含み、薬局側が薬剤情報を貼付・記録できるレイアウトが整っていれば、自作の手帳でも制度的には認められます。

ただし実際には以下のような現場的課題があります。

●貼付用シールを貼るスペースと素材:
薬局では多くの場合、調剤システムから印刷された薬剤情報シールをお薬手帳に貼り付けます。
そのため、自作手帳を使うならば、

・A6〜B6相当のサイズ
・のりやテープが貼れる紙質
・1ページに複数薬剤情報が貼れるスペース

を備えておく必要があります。

◆薬剤情報を自分で書き込むのは一般的ではない:

患者本人が薬の名前や用法を手書きで記入する運用は、通常行われません。
これは記載ミスによるリスクを避けるためであり、薬局ではシールの貼付または印刷物の添付が基本です。

お薬手帳を活用する上での運用上の留意点

制度上、薬局や薬剤師には以下のような義務・配慮が求められています。

◆患者への説明義務と記録管理:
・お薬手帳を提供する際は、意義・役割・利用方法を十分に説明し、患者の理解を得る
・患者の意向で「手帳を使わない」場合は、その理由を薬歴に記録する
・持参忘れ時には、「加算できないこと」と「次回以降の提示」を説明

◆すべての薬剤についての情報提供義務:
・手帳への記録(シール貼付や印刷物の添付)は、調剤したすべての薬剤について行う
・「服用に際して注意すべき事項」の記載も必要(例:副作用、相互作用、服用タイミング)

◆手帳の重複管理:
・複数の手帳を持っている場合は、1冊にまとめるよう提案
・まとめなかった場合は、その理由を薬歴に記録する

◆手帳を忘れたときの対応:
・記録内容は文書(シール等)で渡す
・次回来局時に手帳に貼付してもらうよう説明
・次回提示時に、記録済みかどうか確認

紙と電子、お薬手帳はどちらでもOK?

◆媒体の選択は患者の自由:
・紙媒体でも電子媒体でもよく、どちらを使うかは患者の選択に委ねられる
・ただし電子版を提供する場合は、対応アプリや運営事業者の基準を満たす必要がある

◆紙から電子への切り替え時の配慮:
・紙の記録内容を、電子版に移行・引き継ぐ仕組みが必要
・切り替え時には患者の意向を確認し、移行作業を丁寧に支援すること

お薬手帳加算との関係:正しく使えば医療費も節約

薬局でお薬手帳を提示すると、「お薬手帳加算」が適用され、患者負担が軽くなる場合があります。
ただし、手帳が適切に運用されていることが条件です。

・6ヶ月以内に薬剤情報が記録されており
・他院・他薬局の処方歴が確認でき
・患者が提示した手帳が活用可能である場合

自作手帳であっても、制度の要件を満たし、薬局が活用できる状態であれば加算対象になります。

まとめ:自作お薬手帳は可能だが、制度と現場の要件に注意

お薬手帳は、薬の安全使用を支える医療情報ツールです。

・自作は制度上「可能」だが、形式に制限あり
・指定された項目の記載欄が必要
・シールの貼付や情報管理が適切にできる設計でなければ現場では活用されにくい
・紙と電子、どちらの媒体でも可だが、制度基準に適合している必要あり

制度と現場運用の両方を意識したうえで、自作お薬手帳を活用したい場合は、事前にかかりつけ薬局へ相談することが重要です。

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