2025年7月27日更新.2,546記事.

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加熱しても防げない食中毒とは?熱に強い菌・毒素型食中毒

加熱しても防げない食中毒とは?熱に強い菌・毒素型食中毒

食中毒対策といえば「よく加熱すること」が基本とされています。しかし、中には加熱しても完全には防げないタイプの食中毒が存在することをご存じでしょうか?それは、細菌そのものではなく「細菌が産生した毒素」によって発症する、いわゆる「毒素型食中毒」です。

食中毒の2つの型:感染型と毒素型

食中毒の型と原因

・感染型:細菌やウイルスそのものが体内で増殖、多くは加熱で死滅
・毒素型:細菌が食品内に産生した毒素、毒素が熱に強いと加熱しても無効

感染型は「菌を殺すこと」で防げますが、毒素型は「毒素を無害化する」必要があり、熱に強い毒素には加熱も通用しません。

加熱しても予防できない毒素型食中毒

黄色ブドウ球菌

・潜伏期間:2〜4時間
・主な食品:おにぎり、サンドイッチ、弁当など
・特徴:素手で握った食品に皮膚や鼻腔内の黄色ブドウ球菌が付着。常温で増殖し耐熱性のエンテロトキシンを産生。加熱しても毒素は壊れない。
・予防:手袋やラップで握る/素手NG、調理後はすぐ冷蔵保存

●セレウス菌(嘔吐型)
・潜伏期間:30分~6時間
・主な食品:炒飯、パスタ、スープなどデンプン質の食品
・特徴:加熱後に常温で放置すると、芽胞が発芽→菌が毒素(セレウリド)を作る。この毒素は熱に非常に強い。
・予防:加熱後は速やかに冷却・冷蔵。作り置きNG。

●フグ毒(テトロドトキシン)
・潜伏期間:10分~6時間
・主な食品:フグの肝臓・卵巣など
・特徴:極めて強力な神経毒で熱にも酸にも強い。調理ミスによる致死例も。
・予防:免許を持つ調理人以外が調理しないことが鉄則。

加熱で予防できる毒素型:例外あり

● ボツリヌス菌
・潜伏期間:4〜36時間
・主な食品:缶詰、レトルト、真空パック食品、発酵食品など
・特徴:芽胞を形成し酸素が少ない場所で毒素を出す。毒素自体は熱に弱く、85℃で5分以上加熱すれば無毒化。
・予防:保存食品は加熱してから食べる。膨張缶・異臭品は廃棄。

感染型でも加熱に注意が必要な菌たち

感染型でも、加熱不足や食後の取り扱い不備で感染する例があります。

菌名主な感染経路潜伏期間備考
ウェルシュ菌カレー、煮物などの大量作り置き6〜18時間芽胞形成菌、給食病とも呼ばれる
カンピロバクター鶏肉の生食・加熱不足1〜7日少量でも感染。ギラン・バレー症候群との関連も
腸炎ビブリオ魚介類の刺身・加熱不足10〜20時間高塩分環境でも増殖
腸管出血性大腸菌(O157等)牛肉・レバーなどの生食3〜9日少量で重症化、溶血性尿毒症症候群(HUS)に注意

サルモネラ菌と卵の話

生卵を食べる文化は日本独自に近く、サルモネラ菌のリスクが常につきまとう。

・鶏の腸内に常在する菌が卵殻に付着
・稀に親鶏の卵管を通じて卵内部に侵入
・加熱不十分な卵、割って時間が経った卵がリスク

卵の取り扱い注意点:
・ひび割れ卵は使用しない
・割ったらすぐ調理/食べる
・GPセンターでの衛生処理済み卵を選ぶ

コラム:おにぎりと食中毒

「素手で握ったおにぎりを焼きおにぎりにすれば大丈夫?」と思いがちですが、黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンは加熱しても壊れません。

手→菌付着→常温放置→毒素産生→加熱→毒素残存→食中毒

結論:
・手袋・ラップで握る
・作ったら冷蔵保存、なるべく早く食べる

学校給食での発生状況

かつてはウェルシュ菌による集団食中毒(給食病)が多く見られましたが、近年はノロウイルスやカンピロバクター、O157など感染型のウイルス・細菌が主流になっています。

ただし、調理後の放置時間が長くなると芽胞菌(ウェルシュ・セレウス)による食中毒リスクは高まるため、大量調理の現場ではいまも要注意です。

最も大切なのは「温度管理」と「手洗い」

食中毒予防の3原則「つけない・増やさない・やっつける」のうち、

「つけない」=手洗い、清潔な調理器具、調理環境
「増やさない」=常温放置しない、すぐ冷蔵
「やっつける」=加熱調理(ただし毒素には限界あり)

熱に頼りきらず、調理と保存のすべての段階で注意を払うことが、最良の予防法となります。

「しっかり火を通したから大丈夫」と安心していたら、実は調理中の素手の接触が原因だった——そんなケースは決して少なくありません。

熱に強い毒素型食中毒を正しく理解し、食中毒ゼロを目指しましょう。

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