2025年7月22日更新.2,537記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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スプレー剤を宅急便で送っちゃダメ?

スプレー剤を宅急便で送っちゃダメ?薬を送るときの思わぬ落とし穴

昨今、医薬品の欠品や出荷調整が相次ぎ、薬局でも「明日はこの薬が入らない」「代替薬を探さないといけない」といった対応に追われているところも多いのではないでしょうか。
患者さんへの供給を切らさないため、在庫のある薬局や卸に相談し、やむを得ず宅急便や郵便で取り寄せ・配送するケースも増えています。

しかし、医薬品を配送する際には大きな注意点があります。
特に「スプレー剤」や「消毒用アルコール」などは、法律や運送会社の規約で「送れない」場合があり、場合によっては爆発や発火といった重大事故につながる恐れもあります。

今回は、「薬を送るときに気をつけるべきルールとリスク」を整理し、特にスプレー剤など危険物の取り扱いを詳しく勉強します。

そもそも薬は送っていいの?

まず、薬全般についておさらいしましょう。
法律上、薬自体を宅急便や郵便で送ることは一律で禁止されているわけではありません。
薬機法(旧薬事法)に基づき、無許可で販売目的の配送は認められていませんが、患者への処方薬を届けるために薬局から発送する行為は、適切に管理・記録を行えば問題ありません。

実際、ヤマト運輸(クロネコヤマト)の公式Q&Aにも以下の記載があります。

Q:医薬品は送れますか?
・内服薬(錠剤・散剤・カプセル・シロップなど)は送れます。
・外用薬(軟膏・貼り薬・吸入剤・スプレーなど)は、引火性や揮発性がある場合は送れません。
・消毒液はアルコール濃度によって送れない場合があります。

つまり、薬自体は「すべて禁止」ではなく、内容物の性質によって送れる・送れないが分かれるのです。

宅急便・郵便で送れないもの:危険物とは?

送れない物品の代表例は「危険物」「高圧ガス」「発火性・引火性物質」です。

【宅急便で送れないもの】(ヤマト運輸)
・高圧ガス類
・エアゾールスプレー(ヘアスプレー、消炎鎮痛スプレー、制汗スプレーなど)
・カセットコンロ用ボンベ
・引火性液体
・灯油、シンナー、除光液、アルコール濃度の高い消毒液
・爆発性・発火性物質
・花火、火薬類

・その他法令で禁止された危険物

【郵便で送れないもの】(日本郵便)
・火薬類
・高圧ガス
・揮発性・引火性液体
・毒劇物(麻薬、覚醒剤原料)
・放射性物質 など

いずれも「危険物」とされる物品を誤って発送すると、航空輸送・陸送を問わず、輸送中に温度や圧力が上がって破裂・発火・爆発する恐れがあります。

宅急便で送れないもの | ヤマト運輸 (kuronekoyamato.co.jp)
郵便物として差し出すことができないもの – 日本郵便 (japanpost.jp)

高圧ガスに注意する薬の一覧

医薬品名添付文書の注意
トプシムスプレー高圧ガス(液化石油ガス)を使用した可燃性の製品であり、危険なため、下記の注意を守ること。
炎や火気の近くで使用しないこと。
火気を使用している室内で大量に使用しないこと。
高温にすると破裂の危険があるため、直射日光の当たる所や火気等の近くなど温度が40℃以上となる所に置かないこと。
火の中に入れないこと。
使い切って捨てること。
ドボベットフォーム高圧ガスを使用した可燃性の製品であり、危険なため、下記の注意を守ること。
炎や火気の近くで使用しないこと。
火気を使用している室内で大量に使用しないこと。
高温にすると破裂の危険があるため、直射日光の当たる所や火気等の近くなど温度が40℃以上となる所に置かないこと。
火の中に入れないこと。
使い切って捨てること。
高圧ガス:ブタン/ジメチルエーテル
ヒルドイドフォーム高圧ガス(LPG)を使用した可燃性の製品であり、危険なため、次の注意を守ること。
炎や火気の近くで使用しないこと。
火気を使用している室内で大量に使用しないこと。
高温にすると破裂の危険があるため、直射日光の当たる所や火気等の近くなど温度が40℃以上となる所に置かないこと。
火の中に入れないこと。
使い切って捨てること。
フルコートスプレー高圧ガス(液化石油ガス)を使用した可燃性の製品であり、危険なため、下記の注意を守ること。
炎や火気の近くで使用しないこと。
火気を使用している室内で大量に使用しないこと。
高温にすると破裂の危険があるため、直射日光の当たる所や火気等の近くなど温度が40℃以上となる所に置かないこと。
火の中に入れないこと。
使い切って捨てること。

スプレー剤はなぜ危ない?

スプレー缶には「可燃性ガス」「高圧ガス」が封入されています。
薬局でもおなじみの「消炎鎮痛スプレー」や「外用冷却スプレー」「防臭スプレー」なども例外ではありません。

例えば、炎天下の配送車や倉庫では、温度が40℃以上に達することがあります。
スプレー缶は内部圧力が上がると破裂する危険性があり、実際に夏場に爆発事故が起きる事例も報告されています。

消毒用アルコールも注意

「スプレーではないから大丈夫」と思いがちですが、アルコール系消毒液も引火性液体に該当する場合があります。

たとえば:
・濃度70%以上のエタノール
・高濃度イソプロパノール製剤

これらは航空輸送で特に厳しく制限されます。
陸送でも運送会社によっては断られる場合がありますので、発送前に成分と濃度を確認することが大切です。

医薬品の配送と「航空輸送・陸送」の違い

運送会社のルールでは、「航空輸送」は危険物規制が一層厳しくなります。
医薬品も内容物によっては航空便では送れず、陸送(トラック便)のみ可能となることがあります。

例えば:
・消毒用アルコールは陸送限定
・スプレー缶はすべて不可
・一部のクール便も陸送のみ

患者宅が離島の場合などは注意が必要です。

実際の送り方:何を確認すればいい?

発送前に必ず確認するポイントは以下の通りです。

●成分・性質の確認
・スプレー・高圧ガスが含まれていないか
・アルコール濃度が高くないか
・毒劇物ではないか

●運送会社の約款
・ヤマト運輸の「宅急便で送れないもの」
・日本郵便の「郵便物として送れないもの」

●契約条件
・薬局が法人契約している場合、個別の取り決めがある場合も

●梱包方法
・液漏れ対策(ビニール・ポリ袋で密封)
・緩衝材で破損防止

●送り状(伝票)の品名記載
・具体的に「○○シロップ」「○○錠」などと記載
・「医薬品」のみでは中身が不明で受付不可の場合あり

高温変形にも注意!スプレー以外の事例

スプレー剤以外でも、高温で変形・品質劣化する医薬品があります。

例:
・軟カプセル:外皮が溶解・変形
・坐剤:溶ける
・インスリン:活性低下
・経口補水液:変質

患者への配送時には、これらもクール便を利用するなど工夫が必要です。

患者さんへの指導も重要

夏場は、配送だけでなく患者さんの保管環境も要注意です。

以下のような説明を添えると安心です。

・スプレー剤は車中や直射日光の当たる場所に置かない
・軟カプセルは冷暗所で保管
・坐剤は冷蔵庫に入れる
・高温になると薬が変質・変形する可能性がある

特に在宅患者さんの場合は保管指導を徹底しましょう。

まとめ:スプレー剤は原則発送NG

結論
・スプレー剤は高圧ガスを含むため、宅急便・郵便とも原則発送できない
・どうしても配送が必要なら「クール便・陸送限定・事前確認」が必須
・消毒液や揮発性外用剤も条件次第で送れない
・患者への保管指導も併せて行う

薬の欠品対応で焦る気持ちはわかりますが、事故が起きてからでは遅いものです。
運送会社や卸に相談し、ルールを遵守した安全な配送を徹底しましょう。

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職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
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