2025年12月5日更新.2,678記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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プロマックとノベルジンの違い ― 亜鉛欠乏症と味覚障害

プロマックとノベルジンの違い ― 亜鉛欠乏症と味覚障害から考える、2つの亜鉛製剤の本質

亜鉛は、体内の酵素活性、味覚・嗅覚の維持、皮膚の再生、免疫機能の保持など、生命維持に欠かせない必須ミネラルである。
しかし現代の食生活では不足が見られやすく、亜鉛欠乏症・味覚障害・皮膚炎・食欲不振など、多彩な症状を引き起こす。

そこで注目されるのが、「亜鉛を補う薬」であるノベルジン(酢酸亜鉛水和物)と、胃潰瘍治療薬でありながら亜鉛含有製剤であるプロマック(ポラプレジンク)だ。

両者とも“亜鉛を含む”という共通点を持つが、薬としての目的・作用・適応・使い方はまったく異なる。
亜鉛代謝の基礎を振り返りつつ、医療現場で混乱しやすい「プロマックとノベルジンの違い」を中心に勉強していく。

亜鉛の役割 ― 酵素、細胞分裂、味覚細胞、免疫まで支える必須ミネラル

亜鉛は体内に約2g存在し、以下の多彩な機能を担う。

● 酵素の活性中心(200種以上)
ジンクフィンガー構造をもつ転写因子は、DNA複製・細胞分裂に必須。
つまり亜鉛不足は細胞の更新そのものに影響する。

● 味覚・嗅覚の維持
味蕾の寿命は約10日。
新しい味細胞を作るためには亜鉛が不可欠で、不足すると味覚障害を招く。

● 皮膚や粘膜の再生
上皮細胞のターンオーバーに亜鉛が必要。

● 免疫機能の維持
T細胞分化やサイトカイン産生に関与。

● 生殖機能
特に男性は前立腺に亜鉛を多く含み、精子形成に不可欠。

亜鉛は幅広い生理作用を担っているため、欠乏症状も非常に多彩である。

亜鉛欠乏症の症状 ― 味覚障害だけではない

一般的には「味覚障害」が知られているが、亜鉛欠乏はもっと広範だ。

・味覚障害、舌痛、口腔内の灼熱感
・食欲不振、倦怠感
・皮膚炎、褥瘡治癒遅延
・下痢、食思不振
・貧血
・精神症状
・発育遅延、性成熟遅延(小児)

高齢者では「食が細い」「味がしない」を加齢のせいにして見逃されやすい。

食品添加物(ポリリン酸)や偏食による吸収障害も原因となる。

亜鉛欠乏症症状
皮膚炎コラーゲンの合成には亜鉛が必要です。亜鉛が不足すると創傷治癒遅延や皮膚の乾燥が起こります。
味覚障害舌の表面には味覚を感じる味蕾があります。味蕾細胞は約1カ月ごとにターンオーバーしますが、細胞再生に亜鉛が使われます。亜鉛が不足すると味蕾の再生がうまく行われず、味覚異常が起こります。
慢性下痢亜鉛不足により腸内環境が乱れ、腸の働きが低下し水分の吸収がうまく行われなくなる結果、下痢になると考えられています。
汎血球減少血球も細胞分裂によって増えますが、亜鉛が不足すると細胞分裂がうまく行えなくなります。
免疫機能障害亜鉛は免疫細胞が活性化するための情報伝達物質として働きます。亜鉛不足により免疫細胞同士の情報伝達がうまく行われなくなります。
神経感覚障害亜鉛不足により無欲化、記憶障害、情緒不安定、行動異常などが起こることがあります。
認知機能障害亜鉛は記憶に重要な役割を果たしている海馬に多く存在することが知られています。アルツハイマー病では海馬の亜鉛量が少ないことがわかっています。
成長遅延細胞分裂が活発な乳幼児期は、亜鉛の需要が高くなっています。亜鉛が不足すると細胞分裂が十分に行われず、成長障害が起こる可能性があります。
性腺発育障害亜鉛は性ホルモンの分泌にも関与しています。亜鉛不足により性ホルモンの分泌が減少し、性成熟が遅れる可能性があります。

ノベルジン(酢酸亜鉛水和物)とは ― “亜鉛そのものを補充する薬”

● 本来はウィルソン病の治療薬
ウィルソン病(肝レンズ核変性症)は銅が体内に蓄積する難病であり、
ノベルジンは銅吸収を阻害する目的で使用される亜鉛製剤であった。

・成人:亜鉛として1回50mg ×1日3回
・6〜18歳:25mg ×3回
・空腹時投与(食前1時間以上 or 食後2時間以上)

食事と一緒に摂ると銅吸収阻害効果が遅れるため、厳密な空腹時投与が必要。

最大用量は1日250mg(1回50mg×5回)と、非常に頻回投与になる。

ノベルジンの“低亜鉛血症”への適応追加 ― ついに亜鉛欠乏症の治療薬に

2017年、ノベルジンに新しい適応が追加された。

● 低亜鉛血症
・成人(体重30kg以上):1回25–50mg ×1日2回
・体重30kg未満:25mg ×1回
・最大150mg/日
・食後投与

ウィルソン病とは逆に、低亜鉛血症では「食後」になっている。
理由は、
・酢酸亜鉛は悪心・嘔吐を起こしやすい
・空腹時投与は副作用を増やす

つまり、
ウィルソン病:作用優先で空腹時
亜鉛欠乏症:安全性優先で食後
という明確な使い分けがある。

プロマック(ポラプレジンク)とは ― “胃粘膜を守る薬”であり、ついでに亜鉛を含む

● 胃潰瘍治療薬(防御因子増強薬)
ポラプレジンクはL-カルノシンと亜鉛が結合した化合物。
胃粘膜に付着し、損傷部の治癒を促進する。

・抗酸化作用
・粘膜修復促進
・膜安定化作用

適応は「胃潰瘍」のみ。亜鉛欠乏症は適応外。

● 含まれる亜鉛量
プロマックD錠75mgには
亜鉛約17mgを含有(1回2錠で34mg)。

これはサプリメントの高用量と同等レベルであり、
医療現場では保険適応外ながら味覚障害に処方されることが多い。

2011年、支払基金の「保険審査上認める事例リスト」に
味覚障害へのポラプレジンクが追加され、実質的に使用が容認されたことも背景にある。

プロマックとノベルジンの最大の違い

▼ ① 剤形の目的が違う
薬剤 目的 位置づけ
ノベルジン 体内の亜鉛を増やす(亜鉛補充療法) “亜鉛そのものの薬”
プロマック 胃粘膜保護・潰瘍治癒 “胃薬であり、結果的に亜鉛を含む”

プロマックはあくまで胃薬であり、
ノベルジンとは薬理学的な目的が根本的に異なる。

▼ ② 含まれる亜鉛量が違う
ノベルジン:1回25〜50mg(高用量を精密に調整できる)
プロマック:1回あたり17mg程度

つまり、“必要な量の亜鉛を確実に補充したいならノベルジン一択”である。

▼③ 用法が全く異なる
ノベルジン(低亜鉛血症) → 食後
ノベルジン(ウィルソン病)→ 空腹時
プロマック → 食前・食後どちらも可(胃薬)

目的が異なるため、投与タイミングも大きく異なる。

▼④ 薬価の差が大きい
薬価(2025年11月現在)
ノベルジン25mg 201.1円/錠
ノベルジン50mg 321.6円/錠
プロマックD錠75 15.6円/錠

コストだけ見ればプロマックは非常に安価。
だが、治療目的で亜鉛濃度を確実に上げるならノベルジンが必要。

▼⑤ 銅欠乏症のリスク
ノベルジン・プロマックいずれも、亜鉛が腸管でメタロチオネインを誘導し、銅吸収を阻害するため、銅欠乏症が起こりうる。

・貧血(セルロプラスミン低下)
・神経症状
・白血球減少
・汎血球減少

特に高用量亜鉛を長期間使用するノベルジンで注意が必要。

味覚障害の治療 ― プロマック?ノベルジン?どちらを使う?

● ① 亜鉛欠乏が明らか → ノベルジン
血清亜鉛濃度低下が確認でき、臨床症状も一致する場合は
ノベルジンが適応を有する正式な治療薬。

用量調整がしやすく、確実に血清亜鉛濃度を改善できる。

● ② 血液検査が正常だが、症状は亜鉛欠乏を疑う → プロマック
味覚障害では“血清亜鉛値が正常でも亜鉛欠乏が存在する”ことがある。
こうした場合に使われやすいのがプロマック(保険適応外)。

安全性が高く、胃薬としても使用できるため、
高齢者に使いやすいのが利点。

● ③ そもそも薬ではなく食事改善でよいケースも多数
牡蠣、牛肉、レバー、チーズ、卵、ナッツなど
通常の食事で十分補える。

厚生労働省『日本人の食事摂取基準2015年版』によると、亜鉛の摂取目安推奨量は成人男性で12mg/日、成人女性では9mg/日とされています。
食品に含まれる亜鉛含有量は以下の通り
・牡蠣:13.2㎎/100g
・たらこ:3.1㎎/100g
・ほたて貝:2.7㎎/100g
・うなぎ:1.4㎎/100g
・豚レバー:6.9㎎/100g
・牛・肩ロース:5.6㎎/100g
・鶏レバー:3.3㎎/100g
・卵黄:4.2㎎/100g
・カシューナッツ:5.4㎎/100g
・アーモンド:4.4㎎/100g
・納豆:1.9㎎/100g
・豆腐:0.6㎎/100g
・プロセスチーズ:3.2㎎/100g
・精白米:0.6㎎/100g
・そば:0.4㎎/100g
・食パン:0.8㎎/100g

亜鉛は牛肉や豚肉をはじめとした肉類や魚介類全般に多く含まれる。
魚介類の中でも特に牡蠣は100gあたりの亜鉛の含有量が非常に多く、亜鉛摂取の代表的な食品といえる。牡蠣の可食部分はおおよそですが15gほどで、亜鉛を約2.0mg含んでいる。
成人男性の亜鉛の1日所要量は10mgなので、牡蠣を5個食べると1日所要量を満たすことができる。

ただし高齢者や偏食がある人では、食事だけで十分な量を確保できないことも多い。

ノベルジンとプロマックの使い分けまとめ

● ノベルジンが向く症例
・血清亜鉛濃度が明らかに低い
・低亜鉛血症が原因と考えられる味覚障害
・重度の皮膚症状・褥瘡・発育遅延など
・ステロイドや薬剤性亜鉛欠乏症
・ウィルソン病(本来の適応)

→「確実に亜鉛を上げる」ことが目的

● プロマックが向く症例
・亜鉛値が境界域だが味覚障害を疑う
・消化器症状があり胃粘膜保護もしたい
・高齢者で食欲低下があり、胃薬が必要
・軽度の亜鉛不足が疑われる

→「胃薬として使えて、亜鉛も少し補える」

亜鉛補給の注意点 ― 銅欠乏症と副作用

● 銅欠乏症
亜鉛が誘導するメタロチオネインは
亜鉛より銅に対する親和性が高い。

→ 腸管で銅を捕まえてしまい、吸収できなくなる
→ 銅欠乏 → 貧血・白血球減少

特に、
・高用量ノベルジン
・長期服用
・栄養不良の高齢者
では要注意。

● 消化器症状
・悪心
・嘔吐
・胃部不快感
・下痢

ノベルジンは特に消化器症状が多い。
プロマックは胃薬なのでむしろ軽減される。

結論:同じ“亜鉛”でも役割は全く違う薬

改めてまとめると—

● ノベルジン=亜鉛そのものを補う薬(高用量・明確な治療目的)
・低亜鉛血症の適応あり
・用量調整が容易
・血清亜鉛を確実に上げられる
・薬価は高い
・銅欠乏症に注意

● プロマック=胃薬+おまけで亜鉛を含む
・胃潰瘍治療が本来の目的
・亜鉛補給は適応外だがよく使われる
・少量亜鉛の補給ができる
・安価
・胃粘膜保護作用がメリット

医療者としての視点:使い分けの基準

・血清亜鉛値が低い → ノベルジン
・中等度以下で迷う → プロマックでも改善することが多い
・消化器症状の有無・高齢者の安全性 → プロマックが有利
・長期投与時は銅欠乏症に必ず注意

特に味覚障害は患者のQOLに直結し、治療介入で劇的に改善することがあるため、
プロマックとノベルジンを適切に使い分けることは臨床的に非常に重要である。

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