2025年9月16日更新.2,625記事.

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薬が原因の無菌性髄膜炎?

薬が原因の無菌性髄膜炎

髄膜炎と聞くと、多くの人が「細菌感染による重症の病気」というイメージを持つでしょう。確かに細菌性髄膜炎は重篤な経過をとることがあり、迅速な診断と治療が生命予後を左右します。しかし、髄膜炎の原因は細菌だけではありません。ウイルスや真菌といった感染性のものに加え、薬が原因で生じる「薬剤性無菌性髄膜炎(drug-induced aseptic meningitis)」という病態も存在します。

薬剤性無菌性髄膜炎は臨床現場で稀ではあるものの、実際に発症した場合には患者に大きな苦痛を与え、診断が遅れると不要な抗菌薬投与や入院延長につながります。本記事では、薬剤性無菌性髄膜炎の中でも特に報告の多いNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を中心に、臨床的特徴や注意点を整理します。

無菌性髄膜炎とは何か

「無菌性髄膜炎(aseptic meningitis)」とは、髄液検査で細菌培養が陰性である髄膜炎の総称です。代表的な原因はウイルス感染(エンテロウイルスなど)ですが、他にも以下のような原因があります。

・薬剤(薬剤性髄膜炎)
・自己免疫疾患に伴うもの
・腫瘍性
・特殊な感染(梅毒、結核など)

つまり「無菌性」とは「原因が不明」ではなく、「細菌ではない」という意味合いに近いものです。その中で薬剤によるものは診断が難しく、背景疾患や服薬歴の把握が重要となります。

薬剤性無菌性髄膜炎の原因薬

薬剤性無菌性髄膜炎を引き起こす薬剤は多岐にわたります。代表的なものを以下に挙げます。

・NSAIDs(イブプロフェンが最多報告)
・抗菌薬(コトリモキサゾールなど)
・免疫グロブリン製剤(IVIG)
・ワクチン
・抗がん剤や免疫抑制薬

この中でも臨床で接する頻度が高いのがNSAIDsであり、とりわけイブプロフェンは副作用報告例が蓄積しています。

薬効分類医薬品名
抗菌薬オーグメンチン
クラバモックス
サワシリン
アザルフィジンEN
バクタ
ボノサップ
ボノピオン
ラベキュア
ラベファイン
抗トリコモナス薬フラジール
尿酸生成阻害薬ザイロリック
NSAIDsジクトルテープ
セレコックス
ナイキサン
ブルフェン
ボルタレン
ロキソニン
抗てんかん薬テグレトール
ラミクタール

NSAIDsと無菌性髄膜炎

NSAIDsは解熱鎮痛薬として広く用いられ、一般用医薬品(OTC)としても市販されています。そのため、潜在的に多くの患者が曝露している薬剤です。

イブプロフェンの添付文書記載
ブルフェン®(イブプロフェン)の添付文書には以下のような記載があります。

無菌性髄膜炎(頻度不明)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、項部硬直、発熱、頭痛、嘔気・嘔吐あるいは意識混濁等があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
[特にSLE又はMCTDの患者に発現しやすい。]

つまり、背景に自己免疫疾患がある患者ではリスクが高いことが明記されています。

リスク因子 ― 自己免疫疾患

薬剤性無菌性髄膜炎は、全身性エリテマトーデス(SLE)や混合性結合組織病(MCTD)などの自己免疫疾患患者で特に発症しやすいことが知られています。これは、免疫反応の異常により薬剤が髄膜炎症を引き起こす感受性が高まっていると考えられています。

実際、SLE患者がNSAIDsを使用し、髄膜炎症状を呈して受診し、髄液検査で細菌が検出されず、NSAIDs中止で症状が改善したという症例報告は少なくありません。

臨床症状

薬剤性無菌性髄膜炎の症状は、細菌性髄膜炎やウイルス性髄膜炎と区別がつきません。典型的な症状は以下です。

・発熱
・激しい頭痛
・項部硬直
・嘔気・嘔吐
・意識障害、せん妄

時にけいれん発作や意識混濁を伴うこともあり、初期には細菌性髄膜炎との鑑別が困難です。そのため、臨床現場ではまず「細菌性を否定できない」として抗菌薬投与が開始されることが多いです。

髄液検査と診断

薬剤性無菌性髄膜炎の診断は以下の流れで行われます。

・髄膜炎症状の出現
・髄液検査で細菌培養陰性
・薬剤曝露歴の確認
・薬剤中止による症状改善

この「因果関係の確認」が重要です。再投与による再発(再チャレンジ)は倫理的に困難ですが、同一薬剤で再現した報告もあります。

鑑別と診断の難しさ

Jolt accentuation test
髄膜炎の診断補助として有名なのが「jolt accentuation test」です。患者に首を「イヤイヤ」と振ってもらい、その際に頭痛が悪化すれば髄膜炎の可能性が高いとされます。
ただし、小児や重度頭痛患者では評価困難であり、万能ではありません。

細菌性髄膜炎との鑑別
細菌性髄膜炎は致死的であり、初期症状が「発熱・頭痛・嘔吐」と一般的な感冒様症状に似ているため、早期診断は難しいです。特に乳幼児では「不機嫌」「哺乳不良」「顔色不良」といった非特異的な症状しか示さないこともあり、診断の遅れにつながります。

実務上の注意点

薬剤師や医療者が実務で注意すべきポイントは以下です。

・NSAIDsや抗菌薬を長期処方されている患者に、発熱や頭痛など髄膜炎様症状が出現した場合は薬剤性を疑う。
・特にSLEやMCTDなど自己免疫疾患のある患者では注意を強める。
・患者から「風邪のような症状」と訴えられても、服薬歴と併せて鑑別を意識する。
・不要な長期抗菌薬投与や検査を避けるためにも、薬剤性の可能性を医師に情報提供する。

患者への説明のポイント

薬剤性無菌性髄膜炎は稀であり、過度に不安を煽る必要はありません。ただし以下の点は説明するとよいでしょう。

・発熱や激しい頭痛、吐き気が出たら受診すること
・自己免疫疾患がある場合、薬剤によるリスクが高いこと
・症状が出た際には「服薬中の薬」を必ず伝えること

まとめ

・無菌性髄膜炎の原因はウイルスだけでなく薬剤もある。
・NSAIDs、特にイブプロフェンでの報告が多い。
・自己免疫疾患(SLE、MCTD)患者はリスクが高い。
・症状は細菌性と区別できず、診断は髄液検査と薬剤歴で行う。
・薬剤師は「長期NSAIDs使用+髄膜炎症状」を見逃さず、医師へ情報提供することが重要。

薬剤性無菌性髄膜炎は稀ではありますが、実際に起これば患者の生活を大きく脅かす副作用です。だからこそ、薬剤師や医療従事者が頭の片隅に置いておき、早期に疑い、迅速に対応できる体制が求められます。

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