2025年7月5日更新.2,509記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

記事

アミノレバンとヘパンとリーバクトの違いは?

アミノレバン・ヘパン・リーバクトの違いとは?肝不全患者の栄養療法

肝硬変や肝不全など、肝機能が低下した患者さんにとって、適切な栄養療法は病態管理の根幹を支える重要な要素です。肝臓は代謝の中心的役割を担っているため、機能が低下すると糖質、脂質、タンパク質代謝のバランスが大きく崩れ、栄養障害や意識障害(肝性脳症)をきたすリスクが高まります。

肝不全用の栄養剤として代表的に使用されるアミノレバンEN、ヘパンED、リーバクトについて、それぞれの特徴や適応、使用上の注意点を勉強します。

肝疾患における栄養管理の重要性

まず、なぜ肝疾患の患者にこうした特殊な栄養療法が必要になるのかを整理しておきましょう。

肝硬変では、食事由来のタンパク質を分解して生じるアンモニアを代謝する機能が低下します。血中アンモニア濃度が上昇すると、肝性脳症と呼ばれる意識障害や精神症状を引き起こすことがあります。肝性脳症の管理では、アンモニアの産生抑制や排泄促進と並んで、分岐鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)の補給が治療の柱です。

なぜBCAAが重要なのでしょうか?

BCAAは筋肉でのエネルギー源として消費されやすい
肝機能が低下すると、肝臓でのグリコーゲン貯蔵量が減少し、低血糖傾向に陥りやすくなります。代わりに筋肉がBCAAを分解してエネルギーを産生するため、慢性的にBCAAが不足しがちです。

芳香族アミノ酸(AAA:フェニルアラニン・チロシンなど)とのバランスが崩れる
BCAAが低下する一方、AAAが相対的に増加し、これが肝性脳症を助長する要因の一つと考えられています。
このBCAA/AAAの比率(フィッシャー比)が重要な指標となります。

以上を踏まえ、肝疾患患者には、BCAAを補給し、フィッシャー比を是正する栄養剤の投与が推奨されるのです。

代表的な肝不全用栄養剤3種の特徴

リーバクト配合顆粒
リーバクトは、バリン・ロイシン・イソロイシンの3種類のBCAAだけを成分とする「BCAA製剤」です。これは「成分栄養剤」という分類にあたり、ほぼ純粋にBCAAを補給する目的で使用されます。

【特徴】
・含有成分:バリン・ロイシン・イソロイシンのみ
・1包4.15gで他の栄養剤と比べると少量
・水に溶かさず、口腔内でゆっくり溶かして飲むことも可能
・カロリーは低く、あくまでアミノ酸補給が主目的
・肝性脳症やBCAA低下が明らかな場合に使用

【使用のポイント】
リーバクトは栄養補給というより薬剤に近い位置づけです。エネルギー源にはならず、食事や他の経腸栄養剤でカロリーは別途確保する必要があります。通常、1日3包程度を分割投与します。

ヘパンED
ヘパンEDは「成分栄養剤」に分類され、窒素源はアミノ酸のみで構成されています。タンパク質は含まず、消化が不要で、腸管でそのまま吸収される特徴を持ちます。

【特徴】
・窒素源:アミノ酸のみ
・フィッシャー比:61(非常に高い)
・1日2回投与設計
・脂質エネルギー比:8%(低脂質)
・1包80gと量が多い
・投与カロリー:約600kcal/日

【適応】
肝不全患者のうち、比較的症状が軽度で、タンパク制限が強く求められない症例での栄養補給に適しています。

【使用のポイント】
・アルギニン含有量が多い(肝機能低下で不足しやすい)
・分岐鎖アミノ酸の含有量はアミノレバンに比べ少ないため、必要に応じてBCAA製剤(リーバクト)を併用
・タンパク制限のない患者の補食に向いている

アミノレバンEN
アミノレバンENは「半消化態栄養剤」に分類されます。窒素源としてアミノ酸だけでなく、ゼラチンやカゼインなどのタンパク質を含みます。そのため、消化のプロセスが必要になりますが、消化態栄養剤より消化負担は軽度です。

【特徴】
・窒素源:アミノ酸+タンパク質
・フィッシャー比:38
・1日3回投与設計
・脂質エネルギー比:15%(やや高脂質)
・1包50g
・投与カロリー:約600kcal/日
・分岐鎖アミノ酸の含有量は多い

【適応】
・肝不全患者で、タンパク制限食を継続している方や、より高いBCAA補給が必要な場合に適しています。

【使用のポイント】
・脂質がやや多めなので、脂質代謝異常に注意
・タンパク制限下でも、分岐鎖アミノ酸をしっかり補える
・消化管機能がある程度保たれている必要がある

フィッシャー比とは何か?

改めて、フィッシャー比はBCAA/AAAの比率を示す指標で、肝不全管理における重要な目安です。

製品名とフィッシャー比
・ヘパンED:61
・アミノレバンEN:38
・リーバクト :(BCAAのみなので高比率)

一般に、フィッシャー比が低いほど肝性脳症のリスクが高いとされます。肝疾患患者ではAAAが増加しやすく、BCAAが減少するため、この比率を改善することが治療目標のひとつです。

成分栄養剤・半消化態栄養剤・BCAA製剤の違い

まとめると、それぞれの製品は目的や特徴が異なります。

製品成分類窒素源特徴
リーバクトBCAA製剤BCAAのみアミノ酸補給に特化
ヘパンED成分栄養剤アミノ酸高フィッシャー比、低脂質
アミノレバンEN半消化態栄養剤アミノ酸+タンパク質BCAA多く、やや高脂質

使い分けの実際

肝性脳症の予防・改善
⇒ BCAA補給が重要
⇒ リーバクト単独またはアミノレバンEN

日常の栄養補給(カロリー・たんぱく質補給)
⇒ ヘパンED(軽度肝障害)
⇒ アミノレバンEN(中等度以上の肝不全)

タンパク制限の有無
⇒ 強い制限:ヘパンED
⇒ 制限緩和:アミノレバンEN

服用時の注意

ヘパンED・アミノレバンENは1包の量が多いため、必ず水に溶かして飲む必要があります。胃瘻など経管投与の際も、十分に溶解し閉塞に注意してください。

リーバクトは少量で済むため、経口服用の負担が少なく、在宅患者でも導入しやすい点が利点です。

まとめ

肝疾患患者の栄養療法は「一律に同じ製剤を使う」のではなく、

・肝不全の重症度
・栄養状態
・タンパク制限の必要性
・消化管機能

などを総合的に判断し、最適な製品を組み合わせる必要があります。適切な栄養管理は、肝性脳症の予防だけでなく、QOLや予後の改善にもつながります。

コメント


カテゴリ

プロフィール

yakuzaic
名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック
SNS:X/Twitter
プライバシーポリシー

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

最新の記事


人気の記事

検索