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クローン病と絶食療法
公開. 更新. 投稿者:下痢/潰瘍性大腸炎.この記事は約4分56秒で読めます.
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クローン病と絶食療法 ― 栄養管理が病気の経過を左右する

クローン病は消化管に慢性的な炎症が起こる原因不明の疾患であり、難病にも指定されています。若年から発症することが多く、長期にわたる治療と生活習慣の工夫が必要です。その治療の一環として「絶食療法(栄養療法)」が重要な位置を占めています。
クローン病患者における絶食療法の意義と、日常生活での食事・栄養管理のポイントを勉強します。
なぜ絶食が必要なのか?
クローン病の炎症部位は、消化管全体のどこにでも生じ得ます。食物を摂取すると、腸管が消化・吸収のために働き、炎症部位への負担が増します。その結果、症状が悪化しやすく、再燃(病気がぶり返すこと)のリスクが非常に高くなることが知られています。
報告によると、通常の食事を続けると再燃率は80~100%に達するとされ、いかに腸管を「安静」に保つかが治療のカギとなります。絶食により腸を休ませることで、炎症を抑え、寛解(症状が落ち着いた状態)へ導くことが可能となります。
クローン病における食事療法の基本方針
絶食療法を含め、クローン病患者に推奨される食事は以下のような特徴を持ちます。
高エネルギー・高たんぱく質
病気や炎症によって消耗が激しいため、十分なエネルギーと筋肉維持のためのたんぱく質が必要。
低脂肪
特に1日の脂肪摂取量は30g以下が望ましいとされます。脂肪は腸への負担が大きく、炎症を悪化させるリスクがあります。
低残渣(ていざんさ)
食物繊維や消化に残る成分を減らし、腸管に刺激を与えない食事が求められます。
脂肪の質が大事
脂質の量を減らすだけでなく「質」も重要です。
・避けるべき脂肪:飽和脂肪酸(肉の脂・バター・卵黄)、n-6系脂肪酸(ゴマ油・マーガリン・種実油)
・推奨される脂肪:n-3系脂肪酸(魚介類・菜種油・エゴマ油など)
これらの工夫により、炎症を抑える方向にバランスを整えることができます。
残渣を減らす工夫
・避けたい食材:ごぼう・海藻・糸こんにゃくなど不溶性繊維の多いもの
・勧めたい食材:りんご・バナナなど水溶性繊維が豊富で下痢を抑える効果が期待できる果物
絶食と成分栄養療法
絶食といっても「完全に水だけ」で過ごすわけではありません。実際には成分栄養剤(エレンタール®など)を用いた「栄養療法」が中心となります。
成分栄養剤とは?
・タンパク質を「アミノ酸」の形で含み、消化を必要とせず吸収可能
・腸に負担をかけない
・便に残渣をほとんど残さない
・抗原性が低く、炎症悪化のリスクが少ない
このため、成分栄養剤は「腸を休めながら栄養をしっかり補給できる」理想的な手段として位置付けられています。
エレンタール®は粉末を水で溶かして飲むタイプで、味に特徴がありますが、果汁やフレーバーを加えて飲みやすく工夫することも可能です。
禁煙の重要性
潰瘍性大腸炎とは異なり、クローン病において喫煙は明確なリスク因子です。
・喫煙者はインフリキシマブなどの生物学的製剤の効果も弱くなる
・禁煙により再燃リスクを65%低下できるとの報告もあり、免疫調整薬投与と同等の効果
よって、禁煙は治療の必須条件といえるでしょう。
クローン病と潰瘍性大腸炎の違い ― 絶食療法の有効性
よく比較される潰瘍性大腸炎(UC)ですが、絶食療法の有効性は異なります。
・クローン病:栄養療法が有効であり、寛解導入・維持に役立つ
・潰瘍性大腸炎:食事と病態悪化の明確な関連は乏しく、絶食の有効性は科学的に証明されていない
潰瘍性大腸炎では、急性増悪期に一時的な食事制限を行うことはありますが、寛解期には特別な制限は設けません。むしろ、通常通りの社会生活を送ることが推奨されます。
クローン病患者の日常生活での注意点
食事面
・高脂肪料理(揚げ物、肉の脂身)は避ける
・香辛料やアルコールは腸を刺激するため控える
・牛乳や乳製品は消化に負担となる場合があるので注意
生活習慣
・禁煙は必須
・暴飲暴食を避け、規則正しい食生活を維持する
・ストレスも症状悪化に関与するため、生活リズムを整えることが望ましい
低残渣食の実際
低残渣食とは「食物繊維を制限し、腸管に負担をかけないように工夫した食事」です。
例:
・白米やうどんなど精製された炭水化物
・脂肪分を控えた魚・鶏肉
・柔らかく煮た野菜(皮や種を除去)
・消化に優しい果物(バナナ・りんごのすりおろし)
このように「腸にやさしい食べ方」を続けることで、炎症の悪化を防ぎながら栄養補給を行うことができます。
栄養療法の意義
クローン病患者にとって栄養療法は単なる「栄養補給」にとどまりません。
・炎症そのものを抑える効果がある
・栄養状態の改善 → 免疫力や体力の維持につながる
・将来的な外科手術のリスク低減にも寄与
医師・栄養士・薬剤師が連携し、患者に合わせた食事・栄養管理を行うことが極めて重要です。
まとめ
クローン病における絶食療法は、腸を安静に保ちながら栄養を補給し、炎症を抑えるための重要な治療法です。
・通常の食事では再燃率が高く、絶食+成分栄養剤が有効
・高エネルギー・高たんぱく・低脂肪・低残渣が基本
・禁煙は必須であり、治療効果を大きく左右する
・潰瘍性大腸炎とは異なり、栄養療法の有効性が科学的に認められている
クローン病は長期にわたる病気ですが、食事療法を正しく理解し、実践することで、より安定した日常生活を送ることが可能となります。