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ポリフルを牛乳で飲んじゃダメ?
公開. 更新. 投稿者: 6,179 ビュー. カテゴリ:下痢/潰瘍性大腸炎.この記事は約5分18秒で読めます.
目次
ポリフルを牛乳で飲んじゃダメ?―腸を整える薬とカルシウム・制酸剤の関係

「ポリフルって便秘にも下痢にも効く薬なんですよね?」
「牛乳と一緒に飲むと便が柔らかくなるって聞いたけど本当?」
薬局の窓口で、こんな質問を受けたことはありませんか?
ポリフル(一般名:ポリカルボフィルカルシウム)は、腸内の水分を吸着して便の硬さを整える“腸内容物調整薬”です。便秘にも下痢にも使える便利な薬ですが、飲み方や併用薬に注意が必要な点があります。
「牛乳で飲んでもいいの?」「カルシウムとの飲み合わせは?」「制酸剤や他の薬と併用して大丈夫?」といった疑問を解決していきます。
ポリフルってどんな薬?
まずはおさらいです。
ポリフルは「ポリカルボフィルカルシウム(Polycarbophil calcium)」という水を吸って膨らむ高分子吸着性の合成樹脂です。
● 便秘にも下痢にも効く理由
・腸内で水分を吸収し、便を柔らかく・または固くする方向に調整する。
・腸管から吸収されないため、全身作用がほとんどない。
・体に優しく、長期使用にも向く。
このような特徴から、過敏性腸症候群(IBS)など便通の不安定な患者にもよく処方されます。
牛乳と一緒に飲んじゃダメ?
さて、タイトルの疑問です。
結論から言うと
「牛乳で飲むのは避けたほうがいい」です。
理由は、ポリフルの主成分がカルシウム塩だからです。
ポリカルボフィル「カルシウム」という成分名の意味
ポリフルの有効成分「ポリカルボフィルカルシウム」は、
ポリカルボフィル(吸水性ポリマー)とカルシウムが結合した化合物です。
腸内でカルシウムが一部解離して作用するわけではありませんが、
周囲の環境(pHや他の金属イオン)によっては、化学的な塩の置換反応が起こることがあります。
牛乳はカルシウムを多く含み、また胃内pHを一時的に上げる作用もあるため、
この反応がわずかに起こる可能性があります。
牛乳との併用で何が起こるのか?
ポリカルボフィルがカルシウム塩から別の塩に変わる可能性
胃内でカルシウム濃度が高い状態になると、
ポリカルボフィルカルシウムが他の金属イオン(Mg、Alなど)と反応して不溶化するリスクがあります。
これにより、膨潤性や吸水性が低下し、薬の効果が十分に発揮されない恐れがあります。
牛乳による制酸作用
牛乳は軽い制酸作用をもち、一時的に胃のpHを上げるため、
胃内でのポリフルの物理的性状が変化する可能性があります。
結果として効果が不安定に
臨床的に大きな副作用報告はありませんが、
 薬効の安定性を保つためには「水またはぬるま湯」で飲むのが無難です。
制酸剤との飲み合わせにも注意
制酸剤や胃酸分泌抑制薬(H₂ブロッカー・PPI)との飲み合わせにも注意
ポリフルはアルミニウム・マグネシウムを含む制酸剤だけでなく、
胃酸の分泌を抑えるタイプの薬(H₂ブロッカー・PPI)との併用でも注意が必要です。
● なぜ注意が必要なのか?
ポリカルボフィルカルシウムは、胃のpH(酸度)によってわずかに性質が変化します。
胃酸分泌を抑える薬を併用すると、胃の中がアルカリ性に傾き、
本来の膨潤や吸着の性質が変わってしまう可能性があります。
特に以下の薬との併用では、
ポリフルが難溶性の塩(カルシウム塩など)を生成しやすくなるといわれています。
・制酸剤(アルミゲル、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムなど):難溶性塩を生成し薬効が低下するおそれ
・H₂ブロッカー(ファモチジン(ガスター®)、ラニチジン(ザンタック®)など):胃pH上昇によりポリフルの膨潤性が変化する可能性
・PPI(オメプラゾール(オメプラール®)、ランソプラゾール(タケプロン®)など):長期併用により吸着性が変化し他薬の吸収に影響することも
● 対応方法
これらの薬とは2時間以上間隔をあけて服用するのが理想です。
特に朝にPPIを飲む患者では、ポリフルは昼食後や夕食後にずらして服用すると良いでしょう。
制酸剤を頓用で服用する場合は、「ポリフルを飲んでから時間をおいて」服用するよう説明します。
併用時の服薬間隔の目安
・制酸剤(アルミ・マグネシウム含有):2時間以上あける。難溶化を防ぐため
・鉄剤・亜鉛・カルシウム製剤:2時間以上あける。キレート形成・吸収阻害を防ぐ
・抗生物質(テトラサイクリン系、ニューキノロン系):2〜3時間あける。金属イオンとのキレート形成
・牛乳・乳製品:できれば避ける or 食事とはずらす。カルシウムによる反応を防ぐ
ポリフルとカルシウム製剤の併用
ここも誤解の多いポイントです。
ポリフル自体が「カルシウム塩」なので、他のカルシウム製剤と一緒に飲むとどうなる?
という疑問を持たれる方も多いです。
● 基本的に問題はないが注意点あり
ポリフルのカルシウムはほとんど吸収されません。
したがって、血中カルシウム濃度を上げることはない。
ただし、同時服用により他薬の吸収を妨げるリスクがあります。
とくに、鉄剤・甲状腺ホルモン薬(チラーヂン®)・抗菌薬(シプロフロキサシン®など)とは服用間隔をあけるのが鉄則です。
カルシウムとpHの関係で変化する吸収
胃のpHが上がると、一部の薬は溶けにくくなり、吸収が低下します。
制酸剤・牛乳はこのpH上昇を引き起こすため、他薬の吸収に二次的影響を与えることがあります。
ポリフルの場合、自身は吸収されませんが、他の薬を吸着してしまうため、併用はやはり避けた方が安全です。
どんな薬との併用が問題になりやすいか?
ポリカルボフィルは「スポンジのように吸着する」性質をもつため、
下記の薬の吸収を妨げることが知られています。
・抗菌薬(テトラサイクリン、ニューキノロン):キレート形成による吸収低下
・鉄剤(フェロミア、フェログラデュメット):吸着により吸収阻害
・甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS):効果減弱
・抗てんかん薬(フェニトインなど):吸着による血中濃度低下
・ジギタリス製剤(ジゴシン):吸着・結合による吸収低下
これらの薬とは少なくとも2時間以上あけて服用するようにします。
正しい飲み方まとめ
・水またはぬるま湯で服用:コップ1杯以上の水が必須
・他の薬とは2時間以上あける:吸着による吸収阻害を防ぐ
・牛乳・制酸剤とは一緒に飲まない:効果低下・難溶化のリスク
・鉄・カルシウム・マグネシウムなど金属含有薬も注意:吸着・キレート形成
・嚥下困難・水分制限のある患者では注意:食道閉塞・腸閉塞リスク
まとめ:ポリフルは「安全だが吸着性が強い」薬
ポリフルは腸にやさしく、便秘にも下痢にも使える便利な薬です。
しかし、「吸着して働く」ことが薬理作用の本質であるため、他の成分をも吸着してしまう点に注意が必要です。
・牛乳や制酸剤とは反応・吸着の可能性がある
・カルシウム・鉄・抗菌薬など金属を含む薬の吸収を妨げる
・服用間隔をあけることが何より大切
薬剤師としては、「どんな薬でもまとめて飲むのが楽」という患者に対して、
ポリフルだけは時間をずらして飲むように説明しておくと安心です。
「ポリフルは腸のスポンジのような薬です。
他の薬やカルシウム、牛乳を一緒に飲むと、その成分まで吸い取ってしまうことがあります。
ですので、ポリフルは“水だけで、時間をあけて”飲むのが一番効きますよ。」




