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苦い目薬?鼻涙管と副作用
公開. 更新. 投稿者:眼/目薬/メガネ.この記事は約3分25秒で読めます.
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目薬をさしたら口が苦い?その原因と対策

「目薬をさしたら、しばらくして口の中が苦くなる」「何を使っても苦味がする気がする」――
そんな訴えを患者さんから聞いたことはないでしょうか。
特にムコスタ点眼液やエイゾプト懸濁性点眼液を処方された方からは、強い苦味の相談が寄せられやすいです。
あまり点眼薬を使わない方にとっては「目に入れた薬がなぜ口に届くの?」と不思議に思われるかもしれません。
目薬なのに苦いのはなぜ?
そもそも目薬は、目にだけ作用するイメージが強いでしょう。
しかし、涙の排泄経路である「鼻涙管」を通じて、薬液は鼻腔へ流れ込みます。
この鼻涙管は鼻腔下部に開口しているため、点眼後にしばらくすると薬が喉元まで垂れ下がり、口の中に薬液が達してしまうことがあります。
その際、目薬に含まれる成分が舌の味蕾に触れ、苦味や甘味、時には味覚異常(味覚倒錯)を感じるのです。
補足:味覚倒錯とは?
ふつうなら甘い・しょっぱいと感じるものが、妙に苦く感じるなど、味の感じ方が変わる現象を指します。
特に炭酸脱水酵素阻害薬のエイゾプトで報告頻度が高い副作用です。
どの点眼薬で苦味が起きやすい?
「苦味の副作用」と一言で言っても、その頻度は薬剤ごとに大きく異なります。
実際にムコスタ点眼液(レバミピド)では、添付文書にも「苦味」の記載が明確にあります。
5%以上で苦味が報告されている主な製剤:
・エイゾプト懸濁性点眼液(ブリンゾラミド)
・ムコスタ点眼液UD
・一部のβ遮断薬配合点眼剤
医薬品名 | 添付文書の記載 |
---|---|
エイゾプト懸濁性点眼液1% | 5%以上 味覚異常 (苦味、味覚倒錯等) |
ガチフロ点眼液0.3% | 本剤の点眼により、本剤成分による苦味を感じることがある(点眼後、本剤が鼻涙管を経て、口中に入ることによる)。 |
クラビット点眼液1.5% | 0.1~5%未満 味覚異常(苦味等) |
コソプト配合点眼液 | 頻度不明 脱力感、耳鳴、不快、胸部圧迫感、発疹、倦怠感、咳、苦味、四肢のしびれ、筋肉痛 |
トルソプト点眼液 | 0.1%未満 苦味 |
ベガモックス点眼液 | (1~5%未満) 味覚異常 (苦味) |
ミケランLA点眼液 | 0.1~5%未満 頭痛、不快感、倦怠感、めまい、悪心、味覚異常(苦味等)、皮膚炎、発疹 |
ムコスタ点眼液UD2% | 5%以上 苦味 |
特にエイゾプトは「味覚倒錯」と表現されるほど苦味が強く、苦味の頻度は他の点眼薬と比べても突出しています。
よくある患者さんの勘違い
苦味を訴える方の中には、「点眼液を2滴3滴使った方がよく効く」と思い込んでいる方も少なくありません。
しかし、多くの場合1回1滴で十分な効果が得られます。
むしろ、必要以上に点眼すると余分な薬液が鼻涙管へ流れ込みやすくなり、苦味の副作用を増強する原因になります。
また、点眼後に目をパチパチとまばたきすることで「目の中にしっかり入った気がする」という安心感を持つ方もいますが、これも誤解です。
まばたきを繰り返すと涙液が刺激され、薬液が鼻涙管へ押し流されやすくなるため、苦味のリスクは高まります。
苦味対策:薬剤師が伝えたい3つのポイント
●点眼後、目頭を軽く押さえる(涙点圧迫)
涙点(目頭)を1〜3分程度指で軽く押さえると、薬液が鼻涙管へ流れ込むのをかなり防げます。
これは点眼後の苦味対策として最も有効とされている方法です。
服薬指導の際は必ず指導しましょう。
●必ず1滴だけ使用する
複数滴点眼する習慣は、苦味だけでなく副作用全般のリスクを高めます。
「1滴で充分に結膜嚢を満たす」ことを繰り返し説明し、理解してもらいましょう。
●苦味が強いときは、うがい・水分補給を
どれだけ注意しても、完全に苦味をなくすことは難しい場合があります。
そんなときはうがいや水分を飲むことで、口内の薬成分を洗い流す方法が有効です。
さらに、意外に知られていない方法としてブラックコーヒーで口をすすぐと苦味が緩和されるという報告もあります。
補足:ブラックコーヒーと苦味の関係
アモバン(ゾピクロン)の苦味を中和するため、コーヒーを飲む対処法が知られています。
同様に、点眼薬の苦味でも試す価値はあります。
患者さんのQ&A
Q. 苦味は効き目に影響しますか?
A. 苦味は主に薬液が鼻涙管を通って口に届くことによるものです。
目の表面での薬の効果自体には影響しません。
Q. 苦味が嫌で使用をやめてもいいですか?
A. 苦味だけを理由に自己中止するのは避けてください。
中止の前に医師や薬剤師へ相談し、代替薬がないか確認する必要があります。
Q. 味覚がずっとおかしい気がするのですが?
A. 味覚倒錯や味覚障害が持続する場合は医師に相談してください。
薬の影響ではなく、別の疾患が関与している可能性もあります。
まとめ:苦味は対処できる副作用です
「目薬が苦い」というのは、決して珍しい訴えではありません。
むしろ特定の点眼薬では、10人に1人以上が体験する副作用です。
しかし、点眼方法の工夫や涙点圧迫の徹底、うがいやブラックコーヒーを活用することで、大部分の患者さんは許容可能なレベルまで軽減できます。
薬剤師としては「目薬をさしたら苦味を感じるのは当然」という前提を共有しつつ、正しい点眼方法と対処法を丁寧に説明していくことが重要です。
苦味が強いことで使用を中止したり、治療が中断してしまうのは本末転倒です。
患者さんの不安を軽減するためにも、しっかりサポートしていきましょう。
1 件のコメント
初めてコメントします。
yakuzaicさんのブログは時々拝見させていただいてます。
ムコスタ顆粒を飲まれたことがありますか?
ムコスタはとても嫌な苦みがあります。
点眼液も同一成分ですので、その苦みを感じることがあります。
もし、ムコスタの苦みを御存じなければ、錠剤を割って舐めてみるとよいかもしれません。
私はムコスタ点眼が新規で処方された方には、苦みの話を必ずしています。