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眼軟膏の使用量と使い方― 点眼薬との違いと正しい塗布方法
公開. 更新. 投稿者: 17,491 ビュー. カテゴリ:眼/目薬/メガネ.この記事は約5分11秒で読めます.
目次
眼軟膏の使用量と使い方 ― 点眼薬との違いと正しい塗布方法

目の治療といえば点眼薬を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、目の病気や手術後の治療には、「眼軟膏(がんなんこう)」と呼ばれる軟膏剤が処方されることがあります。
薬局では日常的に取り扱う医薬品ですが、一般の方にとってはなじみが薄く、
「どのくらい塗ればいいの?」「目の中に入れるの?」といった疑問が多く寄せられます。
代表的な抗菌薬「タリビッド眼軟膏」を例に、
眼軟膏の適切な使用量・使い方・薬学的な背景を勉強していきます。
「眼軟膏」とはどんな薬?
「ガン軟膏」ではありません
まず最初に、患者さんからよくある誤解です。
「ガン軟膏(癌の軟膏)?」と驚かれることがありますが、
正しくは「眼軟膏(がんなんこう)」です。
「眼に使う軟膏」という意味であり、目の病気の治療や保護のために使用します。
点眼薬との違い
点眼薬は水性の液体であり、まばたきや涙によってすぐに流れ出てしまいます。
一方、眼軟膏は油性基剤を用いた半固形製剤で、眼表面に長く留まるという特徴があります。
そのため、眼軟膏には以下のような長所があります。
・薬の効果が長く持続する(徐放性)
・涙で流れにくく、角膜を保護できる
・就寝前の使用で薬剤が長時間作用する
反面、短所として以下の点が挙げられます。
・使用後、一時的にかすんで見える(霧視)
・油膜が残るため違和感がある
・液体点眼よりも塗布操作が難しい
タリビッド眼軟膏の用量設定の根拠
添付文書上の記載
タリビッド眼軟膏(成分:オフロキサシン)は、
添付文書上で「通常、適量を1日3回塗布する。なお、症状により適宜増減する」とされています。
つまり、「適量」としか書かれていません。
具体的な「長さ」や「重さ」は明記されていませんが、
実際の使用量の目安は薬学的な計算によって導かれています。
1回量=約1cmの根拠
タリビッド眼軟膏は、1本あたり3.5g(=3500mg)入りです。
これをチューブから一定の力で押し出すと、およそ77cmの長さになります。
したがって、
3500mg ÷ 77cm ≒ 45mg/cm
つまり、1cmの軟膏に含まれる製剤量は約45mgです。
一方、タリビッド点眼液の1回量は1滴=約45mg(結膜嚢の容量45μL、比重を1と仮定)です。
したがって、「タリビッド眼軟膏1cm ≒ 点眼液1滴分」と換算できます。
これが、眼軟膏の1回使用量=1cmとされる根拠です。
実際に1cmを押し出すとどのくらい?
実際に3.5g入りのタリビッド眼軟膏を紙の上に出して測定した実験があります。
| 押し出し方 | 全長(cm) | 1cmあたりの量(mg) |
|---|---|---|
| 弱く押す | 88 | 39.8 |
| 普通に押す | 76 | 46.0 |
| 強く押す | 67 | 52.2 |
| 平均 | 約77 | 約45 |
つまり、チューブから1cm押し出すと45mg前後という結果になります。
これは点眼薬の1滴とほぼ同量であり、薬効的にも同等の効果が期待できます。
眼軟膏1cmは目の中に入るのか?
「1cmも入るの?」と驚く方が多いのですが、
実際にはゆっくり押し出せば十分に入ります。
結膜嚢(けつまくのう:下まぶたと眼球の間のくぼみ)は意外と容量があり、
1cm分の軟膏は無理なく収まります。
ただし、目頭から目尻までチューブをこすりつけて塗る必要はありません。
黒目の横幅が約1cmなので、それを目安にゆっくり入れるとちょうど良い量になります。
入れすぎるとベタつきや視界のぼやけが強くなるので注意しましょう。
眼軟膏の正しい使い方
眼軟膏は、清潔操作と塗布位置がとても重要です。
感染予防と薬効のため、以下の手順で使用します。
使用手順
手を石けんで洗う。
→ 手指の汚れや菌を除去します。
鏡を見ながら、片手で下まぶたを軽く下げる。
→ 下まぶたと眼球の間(結膜嚢)を作ります。
チューブ先端を目に触れさせずに、1cm程度押し出す。
→ 黒目の横幅を目安に。
軟膏の先で軽くなじませ、ゆっくりまぶたを閉じる。
→ 1分ほど静かに目を閉じて、軟膏が全体に行き渡るのを待ちます。
はみ出した軟膏をティッシュでやさしく拭う。
→ チューブの先も同様に清潔に保ちます。
綿棒で塗るのは?
清潔な綿棒で塗布する方法もありますが、
眼を傷つける危険があるため、慣れない人にはおすすめしません。
基本は「チューブから直接、目の内側に落とす」が原則です。
使用後の注意と保存方法
・使用後は視界がかすむことがあります。運転などは避けてください。
・チューブ先端は清潔なティッシュで軽く拭き、キャップをしっかり閉めます。
・室温で保管し、冷蔵庫には入れないようにします。
・開封後は1か月以内を目安に使い切りましょう。
眼軟膏の基剤と製剤設計
眼軟膏に求められる条件
眼軟膏は、結膜嚢に直接投与されるため、基剤には以下のような条件が求められます。
・眼組織に対して刺激性がない
・高純度で化学的に安定している
・滅菌が可能である
・長期保存でも変質しにくい
代表的な基剤は白色ワセリン・流動パラフィンなどです。
これらは油性であり、角膜上でゆっくりと薬剤を放出します。
徐放性と保護効果
眼軟膏は、涙液に混ざりながら少しずつ有効成分を放出する徐放性製剤です。
このため、点眼薬のように頻回に投与する必要がなく、
角膜潰瘍・結膜炎・手術後の感染予防など、長時間作用が望ましい症例に適しています。
また、油膜が角膜を保護するため、ドライアイや角膜上皮障害にも有用です。
眼軟膏使用時によくある疑問
Q1. 点眼薬と一緒に使うときはどちらを先に?
→ 点眼薬を先、眼軟膏を後に使います。
点眼薬を先に入れて5分ほど待ってから眼軟膏を塗ると、薬剤がよく吸収されます。
逆にすると軟膏の油膜がバリアとなり、点眼薬が浸透しにくくなります。
Q2. 使用後に視界がぼやけます。大丈夫ですか?
→ 軟膏は油性のため、使用直後に視界がかすむのは自然な反応です。
1〜2分で改善しますが、運転や精密作業は避けてください。
Q3. 他の人のチューブを使ってもいい?
→ 絶対に避けてください。
眼疾患には感染性のもの(結膜炎など)も多く、チューブ先端から菌が移る可能性があります。
一度でも使用した眼軟膏は個人専用と考えましょう。
薬剤師からのアドバイス
眼軟膏は、点眼薬より扱いが難しいぶん、正しい使用法を知っているかどうかで効果が大きく変わります。
患者さんに指導するときは次の3点を意識しましょう。
・「1cm=点眼1滴分」というわかりやすい説明
・チューブ先を清潔に保つことの重要性
・かすみ・違和感は一時的なものと説明すること
また、夜間使用の指示がある場合は、
「就寝前に入れると朝まで効果が続く」といった時間帯指導も効果的です。
結論
・眼軟膏1回量は1cm(約45mg)が目安。
・結膜嚢にゆっくり押し出せば十分に入る。
・使用後は視界が一時的にぼやけるため、運転などは控える。
・点眼薬と併用する場合は、点眼薬を先・眼軟膏を後。
・チューブ先端は清潔に保ち、個人専用で使用する。
眼軟膏は、点眼薬にはない持続的な効果と保護作用を併せ持つ重要な製剤です。
正しい量と使い方を理解すれば、安全かつ最大限の効果を発揮します。





3 件のコメント
初めまして。眼軟膏について調べています。日経DI2011.2の資料どこから見れるか教えていただきたいです。
コメントありがとうございます。
正直、昔に書いた記事で、どの部分を参考に記載したのかも覚えていません。。。
ありがとうございますm(*_ _)m