2025年7月9日更新.2,512記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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処方箋にシャチハタのハンコはダメ?

「シャチハタはダメ」は今も?

「処方箋にシャチハタのハンコは使えません」という言葉、薬剤師や事務の現場で一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。ところが、時代とともにその扱いも変わりつつあります。

この記事では、
・処方箋に押印するハンコのルール
・シャチハタがなぜ敬遠されたのか
・現在はどうなのか?
・スタンプの構成や活用シーン
・インクの選び方

などについて、薬剤師法や行政通知も含め勉強していきます。

処方箋への薬剤師の記名押印は義務

まず前提として、薬剤師が調剤した際には処方箋に記名・押印、または署名を行う必要があります。これは薬剤師法およびその施行規則に明記されています。

■薬剤師法 第26条
薬剤師は、処方せんに基づいて調剤したときは、調剤済みである旨、調剤年月日、薬剤師の氏名(記名押印または署名)を記録しなければならない。

■薬剤師法施行規則 第15条
処方せんに記載すべき内容に「調剤済である旨」「調剤年月日」「薬局の名称・所在地」「薬剤師の氏名(記名押印 or 署名)」が必要と明記されています。

「シャチハタ不可」とされた背景

そもそも、なぜ「シャチハタ不可」とされてきたのでしょうか?

これは、シャチハタ(インキ浸透印)が一般的に「ゴム印」であり、以下のような理由からです。

・印面が軟らかく、押すたびに印影が変わる可能性がある
・物理的な変形や摩耗による印影の再現性の低さ
・公文書や証明行為に求められる「真正性(真正な署名・押印)」にそぐわない

したがって、処方箋などの医療文書においても長年「シャチハタは不可」という認識が一般的でした。

現在はシャチハタOK?根拠は?

実は、近年では薬剤師の押印にシャチハタ(浸透印)を使用しても差し支えないと解釈されつつあります。

この根拠となるのが、厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課による通知や、日薬(日本薬剤師会)の質疑応答です。

たとえば、2005年の日本薬剤師会の質疑応答では、以下のように記載があります。

Q. 薬剤師の押印はシャチハタでもよいか?
A. 押印の形式については法令上特段の制限は設けられていない。したがって、印影が明瞭であり、改ざん防止が図られていれば、インキ浸透印(シャチハタ)も可と解される。

また、処方箋に限らず、医薬品の伝票、調剤録、薬袋へのスタンプなど、多くの実務現場でシャチハタが活用されています。

ただし「日付入りの自動印」は注意

「シャチハタOK」でも、日付変更可能な可動式自動印(回転式日付印)については注意が必要です。

こちらは以下のようなリスクがあるとされ、今なお敬遠されることが多いです。

・日付が変わる構造のため、誤操作や改ざんの可能性
・可動部の摩耗や劣化によって印影の再現性が低い

そのため、処方箋など真正性が求められる文書には回転式の自動印は好ましくないという見解が主流です。

処方箋に押すハンコの種類と位置

調剤済みの処方箋に対しては、以下のようなスタンプやハンコが用いられることが多いです。

種類内容位置備考
調剤済印「調剤済」「調剤年月日」「薬剤師名」など調剤済枠スタンプ1つで済むため便利
薬剤師印薬剤師のフルネーム(横判)保険薬剤師記入欄記名の補完として必須
薬局印薬局の名称・所在地保険薬局欄記録義務あり
日付印(避ける)可動式日付付き印回転式は非推奨

最近では「調剤済・年月日・薬剤師名」を一体化したスタンプもあり、薬袋・薬情への転用もできることから実務では重宝されています。

記名と押印の扱い:どこまでが省略可能?

厚労省の通知では、以下のような解釈が明示されています。

処方せんに「薬剤師名の記名」が求められる場合、氏名が印字されたスタンプを押すことで記名と見なすことができる。
ただし、押印は省略できない。

つまり、「薬剤師名入りスタンプ」はOKでも、それに朱肉またはインキ印による押印を組み合わせる必要があります。これは真正性を確保するための措置です。

薬袋・薬情への応用も多数

調剤済み印の多くは、処方箋だけでなく薬袋や薬剤情報提供文書(薬情)への応用が利くよう設計されています。

【薬袋への記載】(薬剤師法施行規則 第14条)
・調剤年月日
・調剤した薬剤師の氏名
・薬局の名称・所在地

【薬剤情報提供文書(薬情)への記載】
・情報提供した薬剤師の氏名
・保険薬局の名称・連絡先

したがって、スタンプの構成としては 「調剤済」「調剤年月日」「薬剤師名」「薬局名・住所」 を含めたものを1つ作ることで、複数の用途に対応可能です。

修正は二重線、修正テープNG

ここで、関連する文書処理についても確認しておきましょう。

【薬歴の修正】
・修正テープや修正液は使用不可。
・誤記した場合は二重線で消し、訂正印を押印。

これは記録の「真正性」および「不可逆性」の確保のためであり、電子薬歴でも同様に変更履歴が明示されるシステムでなければなりません。

ハンコのインクは顔料系を使おう

シャチハタに限らず、ハンコのインクは「顔料系」が基本です。

インクの種類と特徴
・顔料インク:水に強い、紙表面に残る 医療文書、長期保存向け
・染料インク:色鮮やか、にじみやすい 一般的な文書、印刷用

違うブランドのインクを使い回すと印面の劣化につながり、印影がつぶれやすくなります。製品に合った専用インクを使いましょう。

まとめ:「今はシャチハタでもOK。ただし注意点あり!」

・現在の法解釈ではシャチハタ(インキ浸透印)でも問題なし
・ただし日付可変式スタンプや自作印影には注意
・薬剤師名スタンプは記名扱い可だが、押印は必須
・調剤済スタンプは薬袋・薬情にも使える便利アイテム
・インクは顔料系を選び、指定インクを使うことが望ましい

たかがハンコ、されどハンコ。
記録の真正性・保存性を求められる医療現場では、見過ごされがちなこの「ハンコ」の扱いが、トラブルの引き金にもなり得ます。

新人薬剤師の指導や事務スタッフへの教育の一環として、今一度、ハンコの扱いについて確認しておくと安心です。

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