2025年7月10日更新.2,513記事.

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下痢にコレバイン?胆汁性下痢の仕組みと治療

胆汁性下痢にコレバイン

食後すぐ下痢する…それは胆汁性下痢かも?
「朝食後にすぐ下痢する」「何を食べてもトイレが心配」「下痢止めを飲んでも治らない」
こうした症状で長年悩んでいる方は少なくありません。

一見、過敏性腸症候群(IBS)と思われがちな症状の中に、実は胆汁性下痢(Bile Acid Malabsorption: BAM)という別の病態が隠れているケースが増えています。

・胆汁性下痢の仕組み
・下痢型IBSとの違い
・コレバイン(コレスチミド)やコレスチラミンがなぜ効くのか
・治療の注意点
を勉強します。

胆汁酸の役割と腸での再吸収

まず、胆汁酸がどのように体内で働いているかを整理しましょう。

胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され、胆汁に含まれて小腸に分泌されます。
主な役割は脂肪の乳化(分解しやすくすること)です。

食事に含まれる脂質が小腸に到達すると、胆汁酸が働き、脂質が細かく分散されて消化吸収が進みます。
消化を終えた胆汁酸の約95%は小腸の終末部分である回腸にある「胆汁酸トランスポーター」によって再吸収され、肝臓に戻ります。
この仕組みを「腸肝循環」といいます。

しかし、この循環がうまくいかないと、大腸に胆汁酸が過剰に流れ込むことになります。

胆汁性下痢(BAM)とは?

胆汁酸が再吸収されずに大腸へ到達すると、2つの作用を引き起こします。

水分分泌促進
・胆汁酸は大腸上皮細胞を刺激して、水分や電解質の分泌を増加させます。
・その結果、便が水っぽくなります。

蠕動運動促進
・腸管の運動を亢進させ、排便が早まります。
・これが胆汁性下痢の正体です。

食後に小腸へ胆汁酸が分泌されるため、「食事をとった後に下痢する」という特徴があります。
一方で、絶食しているときは下痢が起きないのも臨床的に重要な手がかりです。

下痢型IBSとの違い

胆汁性下痢はしばしば下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)と診断されることがあります。
しかし、両者にはいくつかの違いがあります。

項目胆汁性下痢(BAM)下痢型IBS
主な原因胆汁酸の再吸収障害腸管の知覚過敏・運動異常
下痢のタイミング食後すぐ食後に多いが、特定のタイミングなし
空腹時の症状下痢なし下痢が起こることもある
精神的影響少ないストレスが大きく影響

実際、IBSと診断されて治療しても改善しないケースの約30%に胆汁性下痢が隠れていると言われています。

胆汁性下痢の原因

胆汁性下痢にはいくつかの原因が考えられています。

●回腸切除後
・クローン病や大腸癌の手術で回腸が切除された場合。
・胆汁酸再吸収能力が低下します。

●回腸機能障害
・クローン病による慢性炎症。
・放射線腸炎など。

●胆汁酸過剰分泌型
・回腸は正常でも、肝臓から胆汁酸が過剰に分泌されるケース。

3つ目は以前は軽視されてきましたが、近年「原発性胆汁酸下痢」として認識されるようになりました。

診断の目安

胆汁性下痢を確定診断するには、^75SeHCATテスト(胆汁酸の再吸収能力を調べる検査)が有用です。
しかし日本では保険適用がないため、実際には以下を総合的に判断します。

・食後にすぐ下痢する
・空腹時は症状がない
・低脂肪食で症状が軽くなる
・コレスチラミンやコレバインで改善する

これらを満たす場合、胆汁性下痢の可能性が高いと考えられます。

コレスチラミン・コレバインがなぜ効くのか?

胆汁性下痢の治療に使われる薬剤が胆汁酸吸着薬です。
代表的なものが以下の2つ。

・コレスチラミン(商品名クエストラン)
・コレスチミド(商品名コレバイン)

この2剤は樹脂系の物質で、消化管内で胆汁酸を吸着して便中に排泄します。
結果として大腸に届く胆汁酸が減少し、下痢が改善します。

作用機序
・腸内で胆汁酸を結合
・再吸収を防ぐ
・便中排泄を増やす
・大腸の水分分泌・蠕動亢進が抑えられる

コレスチラミン・コレバインの保険適応

注意すべきは、これらの薬剤の正式な適応症です。

薬剤と保険適応
・コレスチラミン:高コレステロール血症、レフルノミド代謝物除去
・コレスチミド:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症

胆汁性下痢は保険適応外の使用となります。
つまり、医師が治療上必要と判断して処方する「適応外使用」です。
処方の際は、患者さんに説明と同意を得ることが重要です。

投与量と注意点

コレスチラミンやコレバインは高脂血症治療では通常4〜16g/日程度で使用します。

胆汁性下痢では、通常の半量または4分の1量程度で十分に効果があるケースが多いとされます。

例)コレバインの場合
・通常:6g/日
・下痢治療:1.5〜3g/日

投与量が多すぎると便秘が起きやすくなります。
治療効果をみながら慎重に増減することがポイントです。

副作用

主な副作用は便秘です。
特に高齢者や脱水がある患者では便秘が悪化し、腸閉塞を起こすリスクが高まるため注意が必要です。

また、

・脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の吸収障害
・他薬の吸着による効果減弱

が知られており、併用薬の服用間隔を空ける(通常1時間以上前後)などの工夫が必要です。

食事療法の工夫

胆汁性下痢の治療では食事療法も大切です。

ポイント
・脂質を減らす(胆汁酸分泌が抑えられる)
・食物繊維を増やす(胆汁酸を吸着する作用)
・規則正しい食事時間を守る

脂質制限だけでも症状が改善する方もいます。

まとめ:食後の下痢は「胆汁性下痢」を疑う

「下痢型IBSと思っていたけど、コレバインで劇的に改善した」
そんな症例は珍しくありません。

以下に当てはまる場合、胆汁性下痢の可能性を考慮すべきです。

・食事のたびに下痢する
・空腹時は下痢がない
・下痢止めが効かない
・脂質制限で症状が軽くなる

このような場合、医師に相談し、胆汁酸吸着薬を試してみる価値があります。

胆汁性下痢は診断が難しい病態ですが、適切な治療でQOLを大きく改善できる疾患です。

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