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クエストランの1回量は9グラム?成分量と製剤量の違い
公開. 更新. 投稿者:脂質異常症.この記事は約4分54秒で読めます.
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クエストランの1回量は9グラム?成分量と製剤量の違いに注意

脂質異常症の治療薬として使用される薬剤の中には、スタチン系やエゼチミブなどが一般的に処方されることが多いですが、その影に隠れるように存在しているのがクエストラン®(一般名:コレスチラミン)です。臨床現場ではほとんどお目にかからない薬剤ですが、いざ処方に出会ったときに驚くのが、その投与量の多さです。
添付文書を確認すると「1回4gを1日2~3回」と記載されていますが、実はこれは「コレスチラミン無水物」としての量であり、製剤量ではありません。クエストラン製剤は有効成分を約44.4%含むため、実際の1回投与量は約9gに相当します。この違いを理解していないと、処方監査や調剤の場面で混乱する可能性があります。
クエストランとはどんな薬?
有効成分と作用機序
・一般名:コレスチラミン
・薬効分類:陰イオン交換樹脂
・作用機序:胆汁酸と結合し、便中に排泄することで胆汁酸プールを減少させます。その結果、肝臓が血中コレステロールから胆汁酸を合成しようとするため、血中LDLコレステロールが低下します。
つまり、スタチンとは異なる作用機序でコレステロールを下げる薬といえます。
効能・効果
●高コレステロール血症
・スタチン不耐容例や、スタチンで十分な効果が得られない場合に用いられることがあります。
●レフルノミド(アラバ®)の活性代謝物の除去
・レフルノミドは関節リウマチ治療薬ですが、その代謝物が長期間体内に残るため、重篤な副作用(肝障害、骨髄抑制など)が出現した際には迅速に体外に排出する必要があります。
・この時にクエストランを用いることで、胆汁酸と同様に代謝物を腸管から排泄させることができます。
クエストランの用量と成分量の罠
添付文書上の記載
・高コレステロール血症
コレスチラミン無水物として1回4gを水100mLに懸濁し、1日2~3回服用。
・レフルノミド代謝物除去
通常:コレスチラミン無水物として1回4gを1日3回。
重篤副作用時:コレスチラミン無水物として1回8gを1日3回、11日間。
ここで重要なのは「コレスチラミン無水物として」という表現です。
成分量と製剤量の違い
クエストランの製剤中、有効成分コレスチラミンは 44.4%。
したがって:
「4g(成分量)」=製剤量約9g
「8g(成分量)」=製剤量約18g
つまり、添付文書にある「1回4g」とは成分量であり、実際に調剤する際には製剤量9gを量り取る必要があります。
この点を誤解して「4g分包」としてしまうと、実際には有効成分が半量程度しか投与されないことになり、治療効果が大きく損なわれる可能性があります。処方が「4g」と記載されていた場合には、疑義照会が必須です。
最大投与量のインパクト
レフルノミドの副作用時に用いる1回8g(成分量)=18g(製剤量)を1日3回という投与法は、薬剤師にとってもインパクトのある量です。
・1日量は製剤として54g
・11日間の投与なら総量594g
通常の粉薬では考えられないレベルの大量投与となるため、調剤・服薬管理の両面で工夫が求められます。
調剤上の工夫と注意点
包装と分包の課題
・クエストランは200g瓶包装のみ。
・1回18gを分包機で正確に分けるのは難しい。
・実務的には3g単位に分包し、1回6包で18gとする方法が現実的です。
疑義照会のポイント
・「1回4g」などの記載が成分量か製剤量か不明瞭な場合は必ず確認。
・処方医が添付文書を十分に確認していない可能性もあるため、調剤エラー防止の観点からも疑義照会は不可欠です。
クエストランの飲み方と服薬指導
飲みにくさの問題
クエストランは粉末量が非常に多く、しかも水に溶けません。懸濁剤のように完全に溶解するわけではなく、懸濁して服用する必要があります。
正しい服用法
・水、牛乳、ジュース、炭酸飲料などに加える。
・粉末を入れてから1~2分静置し、その後よくかき混ぜて服用。
・オートミールやスープ、果物(パイナップル、洋梨、桃、フルーツカクテルなど)に混ぜてもよい。
服薬指導の工夫
・「粉が多くて驚かれる」ため、あらかじめ説明しておくことが大切。
・「溶けないのは正常」と伝え、完全に混ぜてから飲むように指導。
・他薬との相互作用(胆汁酸吸着による吸収阻害)に注意し、他の薬はクエストラン服用の1時間前または4時間後に服用するよう説明。
臨床での使用頻度と位置づけ
スタチン全盛の現在、クエストランの出番はほとんどありません。臨床で遭遇する機会があるとすれば以下の2つに限られるでしょう。
・スタチン不耐容の高コレステロール血症患者
・レフルノミド副作用時の緊急対応
このため薬局薬剤師が日常的に扱う機会は稀ですが、いざ処方が出た時に正しく対応できる知識を持っておくことが重要です。
まとめ
・クエストランの「1回4g」とはコレスチラミン無水物の成分量であり、実際には製剤量で約9g。
・レフルノミド副作用時には1回18gを1日3回という大量投与が行われることもある。
・調剤時には「成分量か製剤量か」を必ず確認し、疑義照会を行うこと。
・粉末量が多く服用しにくいため、飲み方の工夫と丁寧な服薬指導が欠かせない。
クエストランは滅多に処方されない薬ですが、その用量設定の特殊性から「知っているかどうか」で大きな差が出る薬です。薬剤師として正しく理解し、もしもの処方に備えておきましょう。