2025年7月13日更新.2,519記事.

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アジソン病に禁忌の薬

アジソン病に禁忌の薬とは?副腎皮質機能低下と高カリウム血症のリスク

アジソン病という病名を、調剤や服薬指導の現場で目にする機会はそれほど多くないかもしれません。しかし、稀少疾患であるからこそ、いざ処方に関わる場面で「何が禁忌で、どこに注意が必要なのか」を知っておくことが重要です。

アジソン病の基礎知識から、禁忌薬の理由、高カリウム血症のリスク、ステロイド補充療法のポイント、そして実務上の注意点を勉強します。

アジソン病とはどんな病気か?

アジソン病は慢性原発性副腎皮質機能低下症と呼ばれ、後天的に副腎皮質の機能が障害されることで発症します。
副腎は左右の腎臓の上にある小さな臓器で、その皮質は主に3つのホルモンを分泌しています。

●糖質コルチコイド(コルチゾール)
→ストレス応答、血糖調節、免疫抑制

●鉱質コルチコイド(アルドステロン)
→ナトリウム保持・カリウム排泄・血圧維持

●副腎アンドロゲン
→性ホルモンの一部

アジソン病では、これらのホルモン産生が全般的に低下します。

アジソン病の主な原因

代表的な原因は自己免疫による副腎皮質破壊(自己免疫性アジソン病)です。そのほか、結核などの感染症、悪性腫瘍、副腎出血が原因になることもあります。

ちなみに、長期の外用・内服ステロイド投与で副腎皮質機能低下が起きることもありますが、これは二次性副腎不全(続発性副腎皮質機能低下症)であり、厳密にはアジソン病とは区別されます。

なぜ高カリウム血症が起こるのか?

副腎皮質ホルモンのうち、アルドステロンは腎臓でナトリウム再吸収とカリウム排泄を調節しています。アルドステロンが欠乏すると:

・ナトリウムが尿中に喪失→脱水・低血圧
・カリウム排泄が低下→高カリウム血症

この電解質異常は命に関わるため、適切な補充療法が必要です。

治療の基本:糖質コルチコイド+鉱質コルチコイド補充

アジソン病の治療は生涯にわたるホルモン補充療法が中心です。

糖質コルチコイド補充はヒドロコルチゾンが標準的に用いられます。
鉱質コルチコイド補充にはフルドロコルチゾン(フロリネフ®)を併用します。

この両者により、低血糖・脱水・高カリウムなどを是正します。

アジソン病に禁忌の薬

アジソン病では、特に高カリウム血症を悪化させる薬剤や、ナトリウム喪失を助長する薬剤は禁忌または慎重投与となります。

禁忌薬の代表例
以下に代表的な禁忌薬を挙げます。

薬剤名と禁忌理由
・アスパラカリウム錠:カリウム補給→高カリウム血症を助長
・スピロノラクトン錠:カリウム保持性利尿薬→高カリウム血症を助長
・ダイアモックス錠:電解質異常を増悪(特に代謝性アシドーシス・高カリウム血症の悪化)

他にも注意が必要な薬剤
禁忌明記ではないものの、以下も慎重投与を要します。

・セララ(エプレレノン):スピロノラクトンと同様にカリウム保持性
・NSAIDs(腎血流低下でカリウム排泄低下)
・カリウム補充薬全般
・β遮断薬(高カリウム血症の徴候をマスク)
・ACE阻害薬、ARB(レニン・アルドステロン系抑制によりカリウム上昇)

とくに多剤併用の高齢者では、知らずに併用されているケースがあるため要注意です。

なぜダイアモックスが禁忌?

アセタゾラミド(ダイアモックス®)は炭酸脱水酵素阻害薬で、尿中への重炭酸排泄を増やし、代謝性アシドーシスを引き起こすことがあります。
アジソン病はもともと電解質の恒常性が不安定なので、「電解質異常が増悪されるおそれ」という理由で禁忌とされています。

一方、ループ利尿薬(ラシックス等)は添付文書上明確な禁忌にはなっていませんが、脱水・低血圧・腎障害を助長するため、専門医の管理下以外での使用は望ましくありません。

実務上のポイント:どんなときに気づくか?

調剤薬局や病棟で「アジソン病」と明記された処方に出会うことは多くありません。しかし、以下のような処方歴やコメントから副腎不全を疑うことがあります。

・フロリネフやヒドロコルチゾンを長期服用
・急な体調悪化(倦怠感・低血圧・嘔吐・意識障害)
・Na低下・K上昇の血液データ
・慢性的なステロイド使用歴

こうした背景がある患者に、カリウム保持性利尿薬やカリウム補充薬が追加処方されていないか、常に確認が必要です。

アジソン病の緊急事態:副腎クリーゼ

アジソン病患者が感染症や外傷・手術など強いストレスを受けると、コルチゾール需要が急増し、副腎クリーゼを起こすことがあります。

主な症状
・意識障害
・ショック(血圧低下)
・低血糖
・高カリウム血症

この場合は速やかにヒドロコルチゾン大量投与と輸液が必要です。
薬剤師としても、いつもと違う倦怠感の訴えがあれば医療スタッフに即報告することが重要です。

アジソン病患者に対する服薬指導の注意

アジソン病ではステロイドを自己調節する「ストレス時増量」が必要です。感染や熱発時に増量指示が処方に書かれていないか確認し、患者にも繰り返し説明します。

また、ステロイドの中止は厳禁です。
患者が自己判断でやめると命に関わるため、「絶対に切らさないこと」を強調する必要があります。

まとめ:稀少疾患でも油断しない
アジソン病は稀ですが、高カリウム血症のリスクと禁忌薬を正しく理解しておくことで、安全な薬物療法を支えることができます。

特に注意すべきポイント
・カリウム補充薬は禁忌
・カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、セララ)禁忌
・ステロイド中止は生命に関わる
・ストレス時増量の指示を確認

この知識が患者の安全とQOLを守る一助になれば幸いです。

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