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妊娠検査薬で陰性なら妊娠していない?
公開. 更新. 投稿者:妊娠/授乳.この記事は約5分30秒で読めます.
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妊娠検査薬で陰性なら妊娠していない?

薬局現場でよくある質問のひとつに、
「妊娠検査薬で陰性だったから、妊娠していませんよね?」
というものがあります。
しかし、妊娠検査薬の「陰性」が即「妊娠していない」と断言できるわけではありません。
なぜなら、妊娠検査薬の反応は“検査時点でのhCG濃度”に依存するからです。
妊娠検査薬の仕組み:hCGというホルモンを検出
妊娠検査薬が検出しているのは、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンです。
hCGは、受精卵が着床して胎盤が形成されると、その絨毛から分泌されるようになります。つまり、着床が成立したことの生化学的証明となるのがhCGです。
このhCGが尿中に一定濃度以上出現した時点で、妊娠検査薬は「陽性」となります。
hCGの出現タイミングと推移
タイミング | hCGの状態 |
---|---|
排卵・受精 | hCG分泌なし |
着床(排卵後6~10日) | hCG分泌開始 |
着床後3~4日 | 尿中hCG検出可能(低濃度) |
妊娠4週~5週 | 急激にhCG濃度上昇 |
多くの妊娠検査薬が感知するには、尿中のhCG濃度が一定値を超える必要があります。
一般妊娠検査薬と早期妊娠検査薬の違い
妊娠検査薬には、大きく分けて「一般用妊娠検査薬」と「早期妊娠検査薬」の2種類があります。どちらも尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を検出する原理は同じですが、検査できる時期や感度、販売形態に明確な違いがあります。
◆ 一般妊娠検査薬(OTC)の特徴
・検査可能時期:生理予定日の約1週間後から
・hCG感度:50 mIU/mL前後
・医薬品分類:第2類医薬品(OTC)
・入手性:ドラッグストア・ネット通販などで購入可能
・価格帯:比較的安価
一般的な妊娠検査薬は、hCGの分泌が十分に高まる時期を待ってから使う仕様になっており、妊娠5週前後の検査に向いています。販売ルートが広く、薬剤師がいない店舗でも購入できるため、使いやすさ・価格の手頃さが大きなメリットです。
◆ 早期妊娠検査薬(医療用体外診断用医薬品)の特徴
・検査可能時期:生理予定日当日から使用可能
・hCG感度:25 mIU/mL程度(一般品の約2倍の感度)
・医薬品分類:医療用体外診断用医薬品
・入手性:薬剤師がいる店舗でのみ購入可能
・価格帯:やや高価
早期妊娠検査薬は、妊娠の可能性をいち早く知りたい場合に適しています。感度が高く、hCGがわずかに上昇した段階でも反応するよう設計されていますが、その分偽陰性のリスクも高くなるため、使用タイミングの見極めが重要です。
また、医療用体外診断用医薬品に分類されているため、購入には薬剤師の対面販売が必要となります。処方箋は不要ですが、販売時には適切な指導や確認事項の説明が求められる点に注意が必要です。
どちらを選ぶべきか?患者のニーズ別アドバイス
使用目的・背景 | おすすめの検査薬 | 理由 |
---|---|---|
できるだけ早く結果を知りたい | 早期妊娠検査薬 | 感度が高く、予定日当日から使用可 |
通常のタイミングで十分、費用を抑えたい | 一般妊娠検査薬 | 安価で入手しやすく、精度も高い |
夜間・休日に買いたい | 一般妊娠検査薬 | 薬剤師不在でも購入可能 |
医師の指示で早期確認が必要 | 早期妊娠検査薬 | 医療用として対応しやすい |
妊娠していても「陰性」になることがある
妊娠検査薬で陰性=妊娠していない、ではない理由はいくつかあります。
① hCG分泌がまだ不十分な時期
・着床が遅れたケース
・排卵のズレにより予想よりhCG上昇が遅いケース
・多くは妊娠4週未満で起こる
② 尿の希釈
・水分を多量摂取した後の尿は希釈尿となり、hCG濃度も低下
・尿中hCGが感度未満に落ちることで「偽陰性」に
③ 尿検体の取り扱い不備
・検査前の尿放置・混入物
・指定時間外の判定(例:5分以内に確認が必要なのに30分後に確認)
特に注意すべき「フライング検査」
妊娠を希望する方の中には、生理予定日前に検査してしまう、いわゆる「フライング検査」をする方も少なくありません。
早期検査薬であっても、生理予定日前の使用は正確性に欠け、陰性判定の信頼性が低くなるため、指導が必要です。
※早期検査薬を「陰性をもって妊娠を否定する」ために使うことは推奨されていません。
妊娠検査薬の「陰性」は“その時点の陰性”でしかない
この理解が非常に重要です。
・陰性=妊娠していないではない
・陰性=今は尿中hCGが感度以下だっただけ
・後日、hCGが上昇して陽性に転じることもある
妊娠が成立していれば、hCG濃度は日を追って上昇するため、数日後に再検査することが推奨されます。
判定精度を高めるための検査タイミングと注意点
◆ 推奨される検査タイミング
・生理予定日の1週間後以降
・早朝尿(濃縮されているためhCG濃度が高い)
◆ 避けた方がよいタイミング
・水分を多量に摂取した直後
・検査時間帯がバラバラ
指導のポイント:薬剤師として伝えるべきこと
薬局やドラッグストアで妊娠検査薬を購入する方に対して、以下の点を明確に伝えることが望まれます。
◆ 検査時期
「生理予定日から1週間後に使うと、もっとも信頼性が高いです」
◆ 早期検査薬の取り扱い
「予定日から使える早期検査薬もありますが、陰性結果には注意が必要です」
◆ 偽陰性の可能性
「陰性でも妊娠の可能性はゼロではありません。数日後に再検査を」
◆ 検査目的の確認
「妊娠を“否定”したくて早く検査する人もいますが、信頼性が落ちるので注意してください」
妊娠検査薬の結果と医療機関の受診
薬剤師として見逃してはならないのが、「陽性反応が出た後の対応」です。
◆ 陽性=必ず妊娠している?
→ 正常妊娠だけでなく、異所性妊娠(子宮外妊娠)や化学流産(化学的妊娠)でもhCGは検出されます。
陽性反応が出たら、早めに婦人科を受診するよう必ず案内しましょう。
よくあるQ&A
「陰性なら妊娠してない?」:必ずしもそうとは限らない。検査のタイミングや尿の濃度によっては偽陰性も。
「妊娠していたのに陰性だった人はいる?」:います。着床が遅れたり、尿が希釈されているケースなどで。
「フライング検査してもいい?」:非推奨。信頼性が落ちます。
「陽性だったら必ず産婦人科に行く?」:はい。正常妊娠か異常妊娠かの確認が必要です。
まとめ:妊娠検査薬の「陰性」に安心しすぎないことが大切
妊娠検査薬は便利で信頼性の高いツールですが、その判定は検査タイミング・尿の状態・個体差に大きく影響されます。
陰性反応=妊娠否定とは限らないことを、薬剤師として正しく伝えることが重要です。とくに早期妊娠検査薬を使用する場合には、その限界とリスクを理解したうえで使用するよう、購入者に説明できるようにしておきましょう。